第28話 大襲撃 ーamoeba(1)ー

 敵の幹部を討ち取った。

 バリケードとなった兵士は逃げ惑っている。

「...ひとまずこれで終いだ」

 凪は剣を収める。

 これで、脅威はひとまず去った。

 そう信じて。

「...あいつらにも説明しないとな」

 怖がっていた。

 普段見ない俺なのだから。

 だとしても、俺はこいつらを許せなかった。

 勝手に奴隷として扱う領土に入って、攻めると宣言したのだから。

 これ以上、奴隷から何を奪おうというのか...

...」

 俺はここも同じ運命を辿らせない。

 そう決意して、あいつらの元へ...

「...」

「...」

「...」

 隅に何かいた。








「こっちだ、急げ」

「はい」

 テリアとグレイは身を潜めながら自陣へと向かう。

 なんとか憑依に成功した2人は、治癒術で自分たちの体の損害を治せないかという仮説を立てて、陣地へと向かっていた。望みは薄いが。

 これにはいくつかの障害がある。まず、体を燃やされたら終わりだ。無から有を生成するなど、ありえない。つぎに、これはどうしようもない。体の一部が治癒術による治癒が不可能な場合。これに関しては賭けるしかない。

 2人は元の体に戻れることに全ての希望を託し、急ぐ。必ず戻ると約束した、親友たちのために...

 人間軍の陣地へとついた。あとは2人の遺体を見つけるだけ...

「...」

「...」

「...」

 人間軍の陣地は、もはや形をなしていなかった。

 そのかわり、陣地の中央に誰かがいる。

 その人と、視線が合った。

「...何者だ」

 そう問われた。

 弁明はまず不可能。

 こんな時期にここまでくる魔族など、怪しすぎる。

 弁明したところで、すぐに化けの皮を剥がされるだろう。

 とすれば...

 最優先は自分の命を守ること。

 その次が、この場から逃げ仰ること。

 それを達成するためには、目の前の相手と戦うしかないが...

 勝てる可能性は薄い。

 相手は十中八九ここにいた軍を1人で壊滅させた張本人だ。

 先程まで、人の悲鳴や木々の倒れる音が聞こえていたので、そうなのだろう。

 そうなると、自分たちがこの目の前の男と戦ったとして、勝つ確率は限りなく低くなる。良くて手傷を負わせてこちらは重傷、悪くて即死だ。

 なので、二つの目的の達成度は極めて低いと言える。

 今取れる最善の策は、投降しかない。

「われらに抵抗する気はない。投降する...」

 言った。

 これで、今すぐ殺されるなんてことはないだろう。

 死ぬ時が伸びた。ただそれだけ。

「投降は了承したが、貴殿らの名はなんだ?」

 当然の質問だ。

 いきなり投降すると言われても、名前を知らないと何も始まらない。

「私はアルテス連合軍近衛騎士第一席であり、今回の侵攻軍の総司令でもあるテリア・グレイだ。隣は私の従者のジーク・フレイだ。今回の責任は全て私が取るので、どうかジークの命は勘弁してもらえないだろうか」

「テリア?!」

 予想もしてなかった言葉にジークは声をあげる。

「私も一緒に!!」

「ダメだ!!俺だけで行く...お前は、俺の親に俺はよく戦ったと伝えることが役目だ...それと俺の部屋の隠し棚に俺にもしものことがあった時のために、お前のために貯めている金があるから...それをもって自由に生きるんだ」

「テリア...」





 なんか目の前の2人が口論をしている。

 どうやら自分だけ助かれって言っているのが気に食わないようだ。

 しかし、2人とも今回の侵攻の重要人物。

 どうしたものかと頭を抱えていると、いい案を思いついた。

「あー、一旦口論をやめて欲しいのだが...」

「?!失礼した...」

「一応、2人とも人質ということでついてきてもらうが...行き先は魔都じゃない」

「魔都じゃない?」

 疑問を投げかけてきた。だが俺はそれに答えず、こう言い放つ。

「お前ら、俺の人質となれ!!」

 一拍。

『????』













 

 目の前で摩訶不思議な現象が起きている。

 どうやら彼らの家に伝わる秘技なのだそう。

 一家存続のための。

「...変わらないか」

 欲に溺れた愚王でも、聖人君子の貴族でも、命は一つしかない。もし自分が死んでしまったら、と最悪を考える。

 一番確実な方法は影武者を用意することである。

 しかし、愚王と聖人君子は違う手段で身を守ろうとした。

 愚王は国中から女性を集め、自分の子を産ませた。

 これは古来から取られている手段であり、世界中の貴族王侯が実行しており、日本でも古くから受け継がれてきている。

 一方、聖人君子は...




「気分はどうだ?」

 2人にいう。

「少し酔いがするが...それ以外は問題ない」

 テリアが答えた。それでは、本題に入るとしよう。

「さて、さっきも言ったが、君たちは俺の人質だ。生死の権利も、全て俺が握っている」

「何が言いたい」

「言わなくてもわかるだろう?」

 テリアは天を仰ぐ。そして答える。

「わかった。情報を言う。それでいいのだろう?」

「?!テリア、それは...!」

「いいんだ、もはや俺たちは死んだ身だ。家族にも俺たちの死が伝えられているはずだ」

「ですが...!」

「あー、その、ちょっといいか」

 ナギが介入する。

「なんだ?手短に頼む」

「怒るなって...俺が言いたいのはな、情報を言えじゃないんだ」

「それじゃぁ何だと言うのだ!!連合に反旗を翻せと!?」

「端的に言えばそうだね」

「何を!」

 ジークがキレ、俺に向かってくる。

 が。

「お前、まだ寝起きだってこと覚えてないのか?それに俺の人質だって言ったろ?その気になればお前らの命を容易く奪えることを忘れるな」

 俺は言葉に魔力を乗せて言う。

 襲ってきた従者は萎縮したようだ。

「...話を続けてくれ」

「よろしい」

 俺はにっこりと笑い、話を続ける。

「お前たちが今からやることはさっきも言った通り、端的に言えば連合に対する謀反だな。だけど、今すぐに反旗を翻せってわけじゃない。かといって、連合の元に戻れって俺が言い出すわけでもない」

「どう言うことだ」

「つまり、だ。君たちには一度、この国を見てもらう。その後に、帰るかどうかを決めてくれ。俺についてくるもよし、誇りを捨てずにここで朽ち果てるもよし、街のど真ん中で俺たちに挑むもよし。選ぶのは君たちだ」

 俺は2人の反応を見つめる。

 従者は納得がいかない顔をしているが、その従者の主は選択の余地なしをわかっているようだ。

 もしアルラがこの場にいれば、話が終わった瞬間に火を囲んで酒を飲み合う中になってたかもな...

 そう思うくらいには、俺は彼女を好いてたし、彼とも仲良くなれそうだと思っていた。

 根本的な思想は違うが。

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