第26話 大襲撃 ー魔津波撃退(5)ー

「ナギ、大変なことになった」

「大変なことって...何?」

「説明はきてからする。とりあえずきて」

 疑問を感じながら、シハルの元へ向かう。すると...

「...」

 謎の地下通路への入り口があった。

 どうやらゼンも理解できてないようである。

 そこでシハルが口を開いた。

「この奥、生きてる人、いる」

「それは本当か?!」

「うん。精霊に聞いたから、間違いない」

 謎の地下通路。

 何があるのか...

「とりあえず、この目で確かめる。十分に警戒しながら進むぞ」

「はい」

「おうよ」

 ナギたちはゆっくりと地下通路に入っていく。

 そして、2度と通ることはない通路をゆっくりと歩んでいったのだった。







 ーテリア・ジーク一行ー


 ふむ...


「こうも肉体を確保することが難しいとは...」


 テリアは焦っていた。

 自分の憑依先に十分な個体を発見はしたものの、抵抗が強すぎて、なかなか乗り移れない。他の個体を試そうとしたものの、この個体よりも適性が高いものが見つからなかったため、この個体に乗り移るしかないのだ。

「ジークは無事だろうか...」

 長年の付き合いとはいえ、土壇場で示し合わせたのだ、必ず無事に会えると信じたい。しかし、万が一のことが、頭をよぎり続ける。

 そもそも、今起きていることが予想すらしていない事態なのだ、すぐに対応できた自分を褒めたいくらいだった。


「はやく俺たちの身の安全を確保しないとな...」















 ーナギ一行ー


「...なんだここは。あたり一体が水浸しだ」

「なにかあったの?」

「わからない。だが、ここら辺の戦闘の跡を見るに、さっきまでここで戦闘行為があったに違いないんだ。だが、不可解な点が一つある」

「それは?」

「血痕がどこにもないということだ」

 ナギたちは水浸しの廊下を歩いていた。

 あちこちの床壁天井がボロボロになっている。傷跡的にもずいぶん新しい。

 奇妙なことに、血痕が残っていない。

 水に流されたという可能性も残っているが...

「とりあえず、警戒を怠らないようにしてくれ」

 ナギに言えることはそれだけだった。

 前進しようとした、その瞬間...


 天井が崩落し、あおい空が顔を覗かせた。


「なんだ?!」

 ナギたちは咄嗟に回避行動を取り、瓦礫の下に埋まることはなかったが...

「...?!ナギ、あれ...!」

 シハルが指差す方向を見ると、そこにはレーゼがいた。

 だが、いつものレーゼとは異なっていた。

「レーゼ、暴れて...っ?!」

「ああ、せせろーしいなぁ!!」

 シハルとゼンは、耳を塞ぎながらそういうが...

『目標、視認...保護プロセスを実行...』

 俺にはそう聞こえる。

「なあ、お前ら、あれ何か喋ってないか...?」

「ああ?!騒音しか聞こえんよ!!」

「同意...!!」

 2人には騒音しか聞こえてない。

 なら、なんで俺には聞こえるんだ...?

『敵対目標2、補足...殲滅モードに移行』

「?!2人とも、回避!!回避ー!!」

『了解!』

 2人は回避した。

 もともと2人がいたところには、何も残っていなかった。光すらも。

「2人とも、大丈夫か?!」

「なんとも、ない...!」

「大丈夫だ。それよりも、さっさとあいつを片付けんと、ろくなことにならんぞ!」

「それは重々承知しているさ...!ゼン!」

「なんじゃ!!」

「ここは君に任せてもいいか!?先に奥を確かめたい!!」

「それが主の願いならなぁ!!」

「なら任せる!体の一部も失うんじゃないぞ?!」

「当たり前じゃ!5体満足で帰ってきちゃるよ!!」

 ナギとシハルは、奥へと進んでいく。

 ゼンは、暴走する仲間に直った。

「魔王軍第一部隊総司令、ゼン・ヂクセス、推して参る!」

 ゼンは刀を抜き、レーゼに斬りかかった。




















 ー????ー


「ほら、こっちこっち!」

「ああ、待ってよ。今行くから」

 家の案内をするアルラと、1人の青年。

 今、2人は家の中に入る。

「あら、おかえり...ってまぁ!!あなた!!アルラが彼氏引っ提げて帰ってきたわよ!!」

「...?!」

 奥で大きな音が聞こえたが、何を言っていたかはよく聞き取れなかった。

 そのうち、アルラの父親が姿を現した。

 すらっとした背ながらも、とても圧を感じる。

「君がアルラの彼氏、ということでいいのか?」

「は、はい...」

 青年は少しびびったような仕草を見せたが、すぐに背筋を伸ばして言う。

「僕が、ハーレィ・アルテスです。お義父さん、娘さんをどうかくださいませんか?!」

「...、か...」

 家中に緊迫した空気が流れる。

 すぐに、アルラの父が口をひらく。

「...娘はやらん」

 その一言に、アルラは猛反発をした。

「ちょ...なんでよ!!人間とは結婚してはいけないって言いたいの?!恋愛は自由であれってご先祖様が言ってたじゃん!!」

「娘はやれんが、婿ならばいつでも歓迎している」

「...それって...」

 アルラの父がまた言う。

「...わからんのか。婿に来るならば、結婚を認めると言っている」

 数秒の沈黙。

 しかし、2人にとってはその沈黙は、とても長く感じられた。

『やったーーー!!!』

 2人は抱き合う。

「やったね、ハーレ!!」

「うん、お義父さんに娘はやらんって言われた時は本当にびっくりしたよ...」

 2人の喜びをリビングの机から眺めるアルラの両親。

 そこには、とても幸せな空気が流れ込んでいた。


 ...



 ......



 .........





「女子供は1人残らず捕えろ!男は皆殺しだ!!」


 その声で目覚める。

 最初に視界に入ったのは...

「アルラ?!目が覚めたのかい?!大丈夫?」

 ハーレィだった。

「う、うん、大丈夫...」

 そう答えるが、記憶がまばらだった。

 彼を家族に紹介した時からの記憶がない。

 周りを見渡すと火の海だった。

 空も紅く、あちこちで悲鳴が聞こえる。

「いま、君の両親がここを襲撃しにきた荒くれ集団と交戦している。急いでここから離れるんだ」

「え、でも、ハーレは...?」

「僕はここに残る。僕の義両親を見捨てられるわけないだろ?」

「じゃ、じゃあ私も...!!」

「ごめん、アルラ。君には長く生きてほしい...奴らに汚されたくもないし、奴隷に落ちてほしくもない...だから、君はここから逃げ出して欲しいんだ」

「嫌!ハーレから離れるなんて嫌!!一緒に逃げようよ!なんで一緒に逃げてくれないの?!」

「じゃあ...必ず生きて帰るよ、数日経ったら、例の花畑に義両親と一緒に僕がいるから...それまで、絶対に捕まらないでくれよ!!」

「嫌だ!!離れたくない!!」

「ねえ、戻ってきてよぉ...ハーレ!!!」

 アルラの悲痛の叫びは届くことなく、ハーレィは火の海の中へと消えていった。

 アルラは、孤独に包まれながら、優しさに包まれていた自分の集落から命からがら逃げていった。

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