第25話 大襲撃 ー魔津波撃退(4)ー

 ー人間軍総大将陣内ー


「おらぁ!!死にたくなけりゃキビキビ動け!!」

「...ッ!!」

 間近で起きている非人道的な行為に興味を持つ事なく地図を眺め続けるものが2人。

 今回の人間軍の総大将である、アルテス連合軍近衛騎士第一席、連合盟主の護衛でもあるテリア・グレイと、テリアの使用人であるジーク・フレイだった。

 たまに新人兵士が「何故ここに卑小な使用人がいるんだ!!」と言いがかりをつけて斬りかかったりするが、すべてテリアによって組み伏せられる。

 斬りかかる理由は二つある。一つは、前もっていった通り彼女は使用人という一般市民よりも立場が低い存在であるからだ。もう一つは...

「ジーク、彼らはどう動いている?」

「...『魔眼』で見てますが、魔津波デウブラーを一方的にとは言いませんが、損害を出しながらも撃退していますね」

「わかった」

 彼女は、半人半魔だからである。

 魔眼は、通常魔族にしか扱えない。

 だが稀に、人間にも扱えるものが現れる。

 それは半人半魔でも同様であるが、発現する確率は人間よりも高い。

 最初、彼の一家に買われた時はやせぼそっており、とても使用人としては使えないほどだった。

 テリアの両親も、こんなやせぼそった半人半魔ではなくちゃんとした教養を受けた人間を連れてこようとしていたが、若きテリアはいくら腕のあるメイド執事を連れてきても、奴隷の彼女にしか興味を示さなかった。

 グレイ家は連合国の中でも温和な方だったため、息子の願いを叶えるべく、彼女に使用人としての教育を施していった。名前もつけてもらったが、息子であるテリアから付けられたジークという名前を一番気に入ったため、ジークと名乗った。

 そうして一年経つと、完璧なまでにテリアのそばに立てる使用人となった。

 はじめは、周りの貴族から冷たい視線を向けられたものの...

「俺の使用人にそのような目を向けるということは、我らグレイ家も普段からそのような目で見ているということでよろしいのだな?」

 というと、誰もが手のひらを返し、テリアとジークに挨拶をしていった。

 そんなテリアは近衛騎士第一席を獲得し、ジークは彼の傍付きかつ軍師の座についた。

 最初のやせぼそった彼女とは見違えるほど成長していた。

 そんな彼らの関係は主従を超えた親友とも呼べるほどだった。

 彼女の美貌のあまり手を出そうとする輩もいたが、まとめて滝壺に落ちていったらしい。

 そんな2人は軍議に軍議を重ねていた。


「ジーク、お前が何を考えているのかは俺にはわからない。だが、キミにも魔族を滅ぼすのはやめた方がいいという考えがあるのならば...」

「やめてくださいテリア。私にそのような考えはありませんから」

「...そうか」


 優しい笑顔を見せるテリア。

 顔を赤らめるジーク。

 2人の関係は一体...と周囲の軍人は考察を重ねていった。





「では、今日は解散」

 ジークの言葉を合図に、軍人たちは一斉に自分の陣地へと戻っていく。

 その最後の背中を見届けると、ジークは緊張が解けたからか尻餅をつくように座った。

「軍議お疲れ様。随分と緊張してたな?」

「当たり前だよ...あんなエリート様たちの前で失敗なんてしたらテリアの顔に泥を塗っちゃうし...」

「そんな事を気にしてたのか...まあ、お前らしいが」

 そんな会話を交わしつつ、テリアはジークに手を差し伸べる。

「さあ、俺たちもそろそろ寝る準備をしよう」

「はい」

 テリアたちは自分たちの天幕に戻っていった。

 それを陰から見守るものも1人、存在した。





「ふぅぅぅ...」

 風呂に浸かりながら、彼女はテリアのあの言葉について考えていた。

「やめた方がいい、か...」

 テリアに投げかけられた言葉。それは裁判にかけられれば即刻死刑になる程危険極まりない発言だったが、テリアは迷う事なく投げかけてきた。

 魔物を滅ぼす。それが人類の悲願だということは知っているが...

(そこまでして滅ぼさないといけない存在なのか?)

 確かに、魔物は人類に危害を加えてはいるが、それは一部の理性なき魔物たちである。

 魔王から司令を、とかいう輩もいるが、魔王は自身の城から動いていない。だからと言って他の町の領主から命令を受けてやっていると言われると、少し怪しいところもある。だが...

(少なくとも魔王は、まともな人だと思う)

 そう結論づけた。

 理由はわからない。

 だが、何故かそう考えついた。

(もしかしたら、平和を望んでいたり、ね)

 あり得ないと思いながらも、そんな事をふと考えた。

(さて、寝ますかね)

 そう思い、体を乾かし、服を着る。

 風呂の天幕をくぐり、自分の天幕に向かおうとしたところで...


「...?!」


 彼女は倒れた。





「お前は調子に乗りすぎたんだ、その罪は死を持ってしても償われぬ大罪だ。地獄で死ぬまで罪を詫びろ」










 彼女の異変に気付いたのはテリアだった。

 彼女に何かあった時に反応する魔道具をつけていたので、すぐに起き、彼女の元へと向かった。

 するとそこには...

「...」

 大量の血と共に、色が抜け落ちているジークがいた。

 テリアは近付くが、悲しむ暇もくれなかった。

「っ....」

「...やった...やったぞ!!グレイをやった!!これで俺が総大将だ!!!俺はいつまでもここにいるグレイとは違う!!俺は魔族を攻め滅ぼすために身命を賭す!!」

「カハッ...」

 俺を刺したのは、俺の次の地位にいる人物だった。

 俺に最も不満を持っている人物でもある。

 このものに俺の軍を任せるのも不安だが...

 仕方がない。

 全てが終わった事なのだから。

(ジーク...)

 彼はすぐに俺とジークの死体の後処理を影に任せた。

 俺とジークは山奥に埋められた。

(お前を信じてるぞ)

 テリアは魂と体を切り離し、霊体となった。

 そして新たな体を探し求め、戦場を彷徨った。









 ーナギ一行ー


 ナギたちは一日中動き回ったが、アルラたちと遭遇することはなかった

。アルラたちが行方不明と知ったのは、一日中動き回り、物資補給のために街に戻った時である。

「...そうですか」

 彼はギルドマスターにそれだけいい、前線へと戻っていった。

 前線へと向かう途中、シハルとゼンが慰めてくれる。

「ナギ、大丈夫」

「そうだ。きっとどこかでなんとか生き延びとるはずさ。自称われの嫁なんじゃし、あの執着具合ならきっとすぐにわれの目の前に現れるだろ」

 2人の慰めに、少し救われた気がした。

「...そうだな」

 俺は再び前を向き、魔物と対峙する。

 いつも通り、シハルが斥候、俺とゼンが前衛をつとめていたが...


 シハルが緊急の連絡を入れてきた。

「ナギ、大変なことになった」

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