第23話 大襲撃 ー魔津波撃退(2)ー

 ー中央先陣ー


「おい!この泡ぶくぶく吹いてるやつのパーティーメンバーは誰だ?!」

「くっそ!おい邪魔だどけぁ!!」

「なんでこんな根性なしがこの戦場にいるんだ?!」

 レーゼは乱雑に最前線から後方に放り込まれた。

(ナギさんごめんなさい...魔物の大群は無理でした...)

 直前に、そんなことを思いながら。







 ー凪・アルラたち一行ー


「...やっぱりくるよなぁ...」

「何を言ってるの?!妻である私がなんで死地へ向かう夫についていかないと?!」

「だからなんでここでもそんな設定持ち込むんですかアルラ様ぁ!!」

「...もう放っとこ」

 凪はもうアルラの猛アタックというべきかわからないアタックにお手上げのようだった。

 それを見るシハルとゼンは...

「...まさかの伏兵がいたなんて」

「我が主も、色々大変なんじゃのぉ...」

 ゼンは遠くから眺め、シハルは対抗心を燃やしていた。

「お前ら、見てないで助けてくれよ...」

 と嘆く凪だった。


 そんな雑談をしている間に、崩壊寸前という左翼にたどり着いた。だが、そこには見るのも抵抗があるほど惨たらしい光景が広がっていた。

「...これは...」

 そこら辺に広がるのは、数々の探索者たちの下半身。腰から上はない状態だった。

「うっ...」

「大丈夫か、シハル」

 俺はシハルの背中をさすってあげた。

 そこにゼンが言う。

「シハルよ、この程度で吐くぐらいならこの先はとても付いて行けるものではないぞ」

 確かに、この先、おそらくはこれよりも比較にならない惨状が広がっているだろおう。だが...

 ゼンは、まだシハルの根性を舐めていたな。

「...まだ、行けます...!」

「...その意気だ、頑張れよ」

 ゼンが、会ってから初めて人を励ました。その光景に信じられないと言う顔をしていたが...

 なんとかバレずに済んだ。

「とりあえず、生存者を探すぞ」

『了解!!』

 俺たちは生存者を探し出した。






 ー左翼生存部隊ー


「...くそが...早く、知らせないと...」

 その男は、逃げに逃げて、大切な情報をギルドマスターに伝えるべく、地を這っていた。

 男が所属していた部隊は男を除いて全滅。

 彼は持ち前の頭のキレで、部隊を襲った怪物の正体を見抜いていた。

「あいつは...あのは...!」

 後ろから、ものすごい勢いでスライムが這い寄ってくる。

 後少しで餌食になるであろう...その瞬間。

「はぁっ!!」

 男は、寸前で生き延びた。

 探索者の女ーーアルラが、スライムを斬り刻んだからだ。

「ちょっと待っててね...今応急処置をするからねー...」

 アルラが喋れるまで回復した。

 すると、すぐに男は喋る。

「君、今すぐ逃げろ...あのスライムは...」

「スライム?アレならさっき倒したから大丈夫だよ!」

「違う...!あれは...?!くそっ!」

「きゃっ?!」

 男はアルラの背後にせまるスライムからアルラを救うべく、アルラを突き飛ばした。

 しかし男は、スライムに取り込まれた。

 アルラは、急いで身を起こして反撃しようとするが...

「あっ、こらっその人を...?!」

 スライムは、目の前で綺麗さっぱりいなくなっていた。

「あのスライム、いったいなんなんだろう...」

 アルラは不思議に思いつつも、生存者を探しに動いた。

 しばらく経つと、アルラを突き飛ばした男の下半身がその場所に残されていた。






 ー左翼最前線ー


「くそ、援軍はまだか!!」

「いえ、それが...後方にて、何者かに阻まれています...!!」

「くそ...俺たちはまだ死ぬわけにはいかねぇんだよ...!」

 探索者たちは必死に未知のスライムと戦っていた。

 そのスライムは、俊敏で狙いをつけにくかった。

「...きりがないな」

「リーダー...俺が囮になります。俺が魔物を惹きつけるので、そのうちに後方に後退してください...!」

「お前、正気か?!」

「じゃないと、いつまでもここで引き留められますよ...ぐだぐだする暇があるなら、誰かが犠牲になってでもここから後退する方がいいと思いますが?」

 それは正論。反論の余地もなかった。

「...すまない、任せる」

「生きて帰らないと、死ぬまで呪いますよ」

「へっ...死んでも呪われるのかよ。まあ...へまして死んだら、手土産に酒くらいは持って行ってやるよ」

「お願いしますね。それじゃ、行ってきます」

 仲間の1人が敵陣に突っ込んでいく。

「後退だ、後退しろ!!」

 そのうちに、探索者たちは後退していく。


 囮になった彼は、数多の魔物に囲まれていた。

 当然、例のスライムにも。

「...まだ死ぬわけにはいかねぇなぁ...」

 彼は巧みに敵の攻撃を避けつつ、反撃で魔物を打ち倒していくという技を、この逆境でやってのけていた。

 だがしかし、誰にでも限界というものはある。

 彼は本当に頑張ったのだが、現実というものは残酷である。

 突然、彼の体に力が湧かなくなる。

(ちっ...ここで魔力切れか...!)

 彼にとっては10分もの長い時だが、まだ2分すら経っていなかった。

 その2分の間に魔力を全て使い果たしてしまったのだ。

(...まだ!!)

「だぁぁぁぁぁ!!!」

 彼は体に鞭を叩くように、剣を使った。

 それは、まるで子供が振り回しているような剣術。

 だが、彼の最後の力により、その馬鹿のような剣術からは考えられないような威力が出ていた。

 しかし、その最後の底力も、数十秒で尽きてしまう。

 そして彼は、剣を手放して倒れてしまった。

(...何体殺り切った)

 まだ仲間が近くにいるかもしれない。

 向こうの負担を減らすために、できるだけ多くの魔物を殺ったはずだが...

 彼の周りにはまだ魔物がいる。

 倒れた瞬間に、彼に群がり出した。

 だが、スライムが彼に引っ付いた瞬間、他の魔物は彼から離れ出してしまった。

(...?どういうことだ...)

 そう考えるが、スライムは徐々に彼の体を喰らう。

 後少しで顔まで喰われ尽くそうというその瞬間。


「ふっ」


 どこからか、極細の斬撃が飛んできて、そのスライムのコアを貫通した。

 スライムはもがいた後に、形を失うように彼の体からドロドロと流れ落ちた。

 その斬撃の方向を見やると...


 そこには、凪がいた。

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