第22話 大襲撃 ー 魔津波撃退(1)
人間の宣戦布告。
それは魔族領中を駆け回った。
ある者はあまりの衝撃に、思わず吐いた。
ある者は何を思ったのか、泣いた。
ある者はそこまでするのかと怒り喚いた。
ある者は人間の非道さに憤った。
ある者は愛する存在を奪われた人間を憎んだ。
その一報は魔族領内の魔物たちにさまざまな反応をもたらした。
そして魔族たちの注目はネプラスへと向けられる。
人間領に最も近く、
ネプラス、西門。
数多の冒険者とネプラス防衛軍、統治する貴族の私設兵が陣を広げていた。
中央にネプラス防衛軍と貴族の私設兵、中央前にレーゼ含む高ランク冒険者パーティー数団、両翼に冒険者を等分に配置している。
ちなみに俺とアルラは右翼に配置された。
そんな俺はアルラとちょっとした雑談をしていた。
すると、アルラがこんなことを言ってきた。
「ねね、この戦いで生き残ったらさ、うちらの金で祝杯あげるから一緒に飲もうよ。私、ナギくんのこと好きだからさ」
唐突なカミングアウトに俺は驚きを突き抜けて、1分くらい動かなかった。
「...?あれ?ナギくん?」
「戦前に何言ってんですかアルラ様?!そう言うのは今言うもんじゃないでしょう?!」
「だってぇ...今しか言う機会がなかったじゃん!!」
「この戦で生き残って終わった後に言えばよろしかったのですよ!!」
「最悪を想定して今言ったのさ!!わかる?!」
「私たちが死んだ場合、その約束は叶えられますか?!叶えられませんよね?!さらに仲の良い友人を失った痛みを一方的に与えるのですよ!?わかりますか?!」
「っちぇ...」
「...わかれば良いのですよ」
「じゃ、戦いの最中に言うね!!」
「何もわかってない?!」
エスターとアルラのこのやりとりは俺が気を取り戻すまで続いた。
西門管理棟屋上に、ギルドマスターは総司令として立っていた。
そして、宣言する。
「第一陣、突撃せよ!!!!」
その宣言とともに、中央先方を中心に声が上がり、前進した。
『うぅぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
その声は、街中に響く。
ここに、第三次人魔戦役が幕を開けた。
彼らは各々の守るもののために、突撃していった。
ー右翼先陣ー
どの第一陣の部隊も、最初にぶつかったのは
特に右翼は魔津波の発生源に最も近かったこともあり、序盤から戦いは苛烈を極めた。
魔法が飛び交い、さまざまな武器が火花を散らし、後方に治癒部隊が負傷者を治癒していた。
特に
「くそ...あの
「兄貴!大丈夫ですか?!」
「ああ、大丈夫だ、問題ない」
そう話しているのはかつて凪たちにいちゃもんつけてたちまちボロボロにされたごろつきたちだった。こういう者すら戦場に立たせざるを得ないほど、この状況は予想外であった。
「魔都からの援軍は来るのか...?」
「兄貴...」
「...なんでもねぇ。お前ら、ついてこい!!俺たちの意地ってやつを
『おぉっ!!!』
ごろつき頭領の発破に、右翼第一陣はさらに勢いを増していった。
ー右翼待機部隊ー
「なんであいつの発破でみんなやる気が出てるんだ...?」
俺は無意識に不思議に思っていることを口からこぼした。
「なんでって...あいつ、ああいうなりしてて実は仲間想いなんだよ?右翼先陣にはあの頭領の部下だった人も多いし...」
「まじかよ...」
アルラの親切な説明に、俺は意外というしかなかった。
なんせ第一印象がアレだったからだ。
「美女侍らせてるからって俺を襲ったあいつが...?」
「あー...あの頭領、部下からの信頼は厚いけど、顔の怖さもあってか裏仕事もしてるヤバいやつって噂も立っててね...それと頭領自身が彼女欲しいって暴走してたから...」
「...なるほど」
...ますます意味がわからないな。
「おっと、そろそろじゃないかな?」
「...まあ、お互い生き残ろうぜ」
「うん!!」
俺とアルラは互いの健闘を祈るように、拳を合わせあった。
それと同時に、ギルドマスターの号令がかかる。
「第二陣、突撃!!」
「行くぞお前たち!!!」
『おう!』
「行くぞ、みんな!」
『ああ!!』
それぞれが、自分の大切な者を守るために前へと進んで行った。
「てぁぁぁ!!」
斬と音がし、魔物が倒れる。
「ふぅ...これでひと段落かな?」
第一陣とともに右翼の魔物の掃討は、ひとまず終わりを迎えた。
しかし、それだけでは終わらなかった。
「右翼で手が空いている者は、即座に左翼へ向かえ!!左翼の崩壊を阻止するのだ!!」
と指令が出される。
「どうする、ナギ」
「 どうするよ、我が主」
答えは決まっている。
「左翼へ行くぞ、遅れるなよ!!」
「当然...!」
「承知」
ナギ率いるパーティーとアルラ率いるパーティー、それと手の空いた探索者パーティー数団が、左翼へと援助に向かった。
ー左翼先陣ー
左翼では、右翼よりも魔物は少ないものの、それでも魔物の勢いは凄まじいものだった。
だが、探索者たちも歴戦の者を筆頭に、その勢いを必死に止めていた。
「攻撃部隊はそれぞれ魔物を囲んで多対1の状況に持ち込んでから戦闘を始めろ!魔法部隊は私たちの攻撃に合わせて援助攻撃を放て!負傷者はさっさと下がって治癒部隊に治癒してもらえ!!」
あるSランク部隊のその言葉は、左翼の前線を長く維持する要因となったのも当然だが、それに引けを取らぬほど士気が高い左翼では、前線の崩壊が考えられないほどの魔物の討伐ぶりを見せていた。そう、その時までは....
第二部隊も合流し、魔物の掃討まで後少しとなった時。
それは、現れた。
「おらぁ!!...これで終わりか?」
「ああ、ここら一帯は全部やったと思うぜ」
「問題ない。俺の
と、あるパーティー。
その背後から、何かが迫ってくる。
それの外見はまるで、スライム。
だから油断したのだろうが、そこはまだ戦場。
指揮も判断も切れるリーダーが指示をする。
「?後ろから何か来るぞ、戦闘準備!」
『おお!』
後ろからくるそれに気付いた一行は、戦闘準備をする。
「包囲しろ!絶対ににがーー」
リーダーのその先の言葉は放たれなかった。
なぜならそれが、リーダーの上半身を喰ったからである。
「...?リーダー...?」
間を待つこともなく、その他のパーティーメンバーを喰っていく。
残されたサポーターの女の子は、何が起きたかわからない恐怖で、その場でぺたりと腰を落とす。
「...」
その目の前に瞬時に現れたスライムは、まるで嘲笑うように、その女の子も無惨に喰い散らかす。
その場に残ったのは、彼らの下半身と、臓物、頭蓋骨だけだった。
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