第20話 ゲッドォ"ォ"ォ"ォ"ォ"

 気温マイナス150℃の極寒というには寒すぎる森の中で、1人の剣士、1人の侍が佇む。

 そして、2人同時に踏み出し、剣が激しくぶつかり合った。

 そのまま2人は剣劇を繰り広げていった。

「ぬしのその剣術誰に習うたんじゃ?流派くらいは教えてくれよなぁ!!」

「それは...秘密だっ!!」

 打ち合いながらも、彼らは楽しそうに戦っていた。

 マイナス150℃の世界の真ん中で、激しく火花を散らしながら。

(...肺が凍りそうだ。いやはや、親父に液体窒素に蹴り落とされた甲斐があったってもんだな)

 実際、俺もあの時は死んだと思った。だが、死んでなかった。気が付けば、俺は布団で寝ていた。視界全てに広がる布団の山には驚いたけど。

 5462回。俺が液体窒素の中に蹴り落とされた回数である。最初こそはすぐに凍るもんだが、後半になってくると妹とどっちが長く液体窒素の中にいられるか勝負!!みたいなこともしてたし、なんなら喜んで飛び込むまであった。

 その地獄の責苦が、今この戦いの場で役に立つと思うと...なんかアホらしく感じてくるが。

 そう考えつつも、剣をいなす余裕を感じられる彼を、凪は全てを曝け出させようと思った。

 ので...

「気分が変わった。お前の全てを曝け出させてやるよ」

「面白い冗談を言うもんだの。まだわしゃ本気じゃないって言うのかぁ?」

「そうさ...余裕が感じられる」

「そりゃあわれの剣筋が単純じゃけぇじゃろ」

「単純?...そう思われてたか。いやはや、これは失礼」

 俺は苦笑いしながら、表情を直す。

「じゃぁ...本気で行くぞ」

 凪から放たれる覇気に、彼は後ずさったが...

「ええのぉ!!もっと打ち合おうなぁ!!!」

 彼もまた、狂気の笑顔を浮かべて凪に向かっていった。



「ふっ」

 まずは剣波を放ってみる。さっきよりも少し弱いが、数は圧倒的に多い。

 これをどういなすか...

「嘘じゃろおい冗談じゃねぇ!!」

 数に驚いたのか、彼はそうは言ったものの、全ていなし切った。

「嘘だろって言いながら全部いなすのかよ...冗談だろ」

「残念ながら冗談じゃねぇ...だが剣波飛ばす奴なんて滅多に見ねぇからよぉ!!!」

「?!」

 彼の魔力がさらに増幅した。

 すると、俺の流した汗が凍った。

 さらに寒くなっていく。

 マイナス170℃くらいか...?

 いや。

「お前...まさか!?」

「...今更気づいたんか」

 彼はまたさらに気温を下げていく。

 マイナス200℃...230℃...250℃...

 周りは、寒さの影響で凝縮された窒素と酸素が霧のように俺たちを囲んでいた。

「この極寒の空気が...街に流れたら...どうなるのか...わかってるのか...?」

 流石の俺も、絶対零度近い気温の中で普段通りに動けると言うわけではない。

 分子の動きが停止する絶対零度では、どのような運動も許されない。

 常人なら凍死するくらいの温度の冷風が、今この場に溢れている。

「阿呆が。それを見越して結界張っとるわ」

「...そうか」

 今でも余裕の表情を作ってるが、内心はとても焦っていた。

(やばいやばいやばいやばいこのままじゃ凍らされて負ける...もう負けるのは勘弁ってのになぁ...)

 焦りを落ち着かせ、俺は決心した。

「...この世界に来て最初にを使うのが、名前も知らないお前になるなんてな...」

「何を言いよるんだ!隙は出さんぞ!!」

リォ

 その瞬間、凄まじい熱が生み出される。

「...その熱で冰王を相殺しよう思うとるのなら、見当違いも甚だしいでぇ!冰絶カゼア!!!」

 彼が放った冰絶カゼアは、俺に届くことなく、水のように溶けていった。彼は予想外という顔で立ち尽くしていた。

「...その熱、いったい何℃なんじゃ...?」

「さぁ...少なくとも、鉄くらいなら一瞬で蒸発させれるよ」

「冗談も大概にしてくれよ、なぁ!!」

 俺に迷わず突っ込んでくる彼。熱波と寒波がぶつかり合う。

(...待て)

 たった今、俺は疑問を感じた。

(熱と冰、相反するものがぶつかる...)

 俺は、それが何やら嫌な結果につながると思ったらしい。

 考える...

 考える......

 考える.........





「やべっ」

「?!」

 咄嗟に距離を取った俺に彼はびっくりするが、そんな暇もなかった。

 なぜなら、大量の水蒸気が発生したことにより、2人の視界が遮られたからである。

 うっすらと影は見えるものの、後ろの木草もうっすらと見えるため、狙いがつけにくい。

 それをウザく感じたのか、彼が一帯を吹き飛ばす。

 霧が晴れ、あたりは平地になり、凍った地面の上には俺と彼が立っている。

「...まさかこれを待っとったとでもいうんか?」

「まさか。全くの予想外だよ」

「...そりゃあそうじゃろうな」

 また、2人は見つめ合う。

「...そろそろ終わらせるぞ」

「本当はわれともっと斬り結びたかったが...仲間が待っとるけぇなぁ。わしが勝ってわれを連れて帰るでぇ!!」

「そういうわけにはいかないね...!」

 2人して、構える。

 そして、双方からとてつもない気が放たれる。

 それは、凍った地面の表面を吹き飛ばし、砂埃を空高くまで立たせるほどである。

 2人は、地面を蹴った。

「零・冰絶ラストカゼア!!」

鳳凰リォ・フォン!!」

 2人は、そのまま相手を斬りかかり...

 凄まじい光と共に、その場は何も見えなくなった。



 光が明けると、凪が彼の首に剣をたてていた。

「...俺の勝ちってことでいいのかな?」

「...ああ、異論はねぇ。われ、名は?」

「今聞くのかよ...ナギだ。君は...?!」

 相手の名前を聞こうとすると、彼は突然、膝をついた。

「ナギ...いや、よ」

 我が主ぃ?!

「このゼン、この忠誠を、剣と共にあなたに捧げよう」



 待って。

 なんで喧嘩ふっかけてきた相手が俺に忠誠を誓うことになるの?

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