第19話 謎の剣客
「で、俺を介抱してる間に、そんな依頼を受けてきたと」
「...はい」
凪はギルドへの道中で経緯を聞いた。
それを話しているシハルとレーゼはガチガチに固まっていた。
何も怒るわけじゃないけど...
「その依頼を受けるには、少なくともHランク以上じゃないといけないわけで?」
「はい」
「俺たちはもうHランク昇格ラインを満たしてるから、そのクエストの依頼を受けれるわけだ」
「はい」
「でも、パーティーリーダーである俺しか昇格申請ができないから、あんな起こし方をしたと?」
「本当はゆっくり起こそうと...」
「...だいたい察したからもういいよ...」
おおかたアルラは宿に向かうシハルたちを引っ捕らえてついていったのだろう。憐れなり...
それはともかく。
「とりあえず、報酬がうまくないと...」
「100000キラと探索者ランクの無償昇格」
「...なるほど」
凪が悪魔的な笑顔を見せる。
「こりゃぁいい条件だ...存分に利用させてもらおうじゃないか...」
2人はまだ見たことがない凪に戦慄しつつ、とりあえず承諾してくれたことに安堵した。
ギルド支部。
シハルたちは俺に探索者照明を押し付け、いつの間にか商店街へと向かっていたので俺1人で来ている。
俺はいつものように受付へと向かった。
『すみません』
「あっ」
「えっ?」
横を向くと、歳が近そうな男がいた。
デジャヴ?
『あのーすみません、ランク昇格の件で来たんですけど』
「えっ?」
「は?」
あれ...2回連続...
「はい〜お二人はパーティーリーダーでよろしいですか?」
『はい』
『...』
...なんでだ。
「それでは、こちらにメンバー全員分の探索者証明を...」
俺と3回連続でデジャヴった人はメンバー全員分の探索者証明を預けた。
流石に俺が先を譲ると...
先方がとても苛立った顔を見せた。
なんでですか...ハモることに何か異議があるんですか...
「はい、確認しました。ランク昇格手続きに半日ほどかかりますので、今日の夜8時ごろにはもう受け取れると思いますよ」
『わかりました』
ほら見ろ俺よ。
先方の顔を。
怒り心頭で会話どころじゃなくなりそうだ。
「それでは、またのお越しを〜」
そういうと受付嬢は奥へ消えていった。
気配を限界まで消して、抜き足差し足で宿に帰ろうと考えていたが...
「今日の晩の鐘がなるまでに1人で
と耳元でキレられながらそう言われたもんだから、行くしかなかった。
午後6時。
先の彼が言った「晩の鐘」はこの時間のことである。
その30分前に指定された場所に着くと...
瞑想している彼がいた。
今一度よく見てみると、風貌は人間と変わりなかった。
「おどれなんでわしの真似をしたんじゃ、あ?」
まともに聞く彼の声は、意外と若かった。
身長は俺と同じくらいである。
「そもそも、まず俺は君の名前を知らないわけなんだけど...」
「質問を質問で返しんさんなやワレェ!!そんなんをママに教えてもろうとるのか違うじゃろあ”ぁ”?!」
...訛りがすごい。どこの方言だっけか...
「何黙っとるんだてめぇ...」
うーん...どこだったかなぁ...
「おい、聞いとるんかワレェ...」
あともう少しで思い出せそうなんだけど...
「聞いとるんかって言いよるじゃろうがワレェ!!!」
「あ、そうか広島弁か!!!」
「ヒロシマベン?何を言いよるんだ殺すでゴルァ!!!!」
ここまでのやりとり、まるで漫才みたいだなぁ...
しかし、凪は思いついてしまった。
「もしかして俺ら、コンビ組んだら最強じゃない?そう思わない?」
キラキラした目で彼に迫っていく俺。わなわな震え出す彼。
「...殺す!!!」
彼の堪忍袋が破れてしまった。
『
...とりあえず、俺なりの冗談が彼を怒らせたのが悪いのはわかる。
だが、なんで俺は攻撃されなければいけないんだ...まあ、斬るだけだけど。
とりあえず、あの雨に当たると嫌な予感しかしないので、どこかに雨宿りしたいところだけど...
ない!!!!
雨宿りするところが!!!!!!
...仕方ない。
「裂けろ」
剣に力を込めて、斬撃を放つ。
それは、空に作られた暗黒の雲を真っ二つに斬り裂き、消滅させた。
「...何をしたんじゃ、てめぇ」
「斬撃を空に放っただけだよ」
「ふざけんな!!!」
いうことはもっともだと思う。だけど、このファンタジー世界だとできちゃったんだよね...
「そこまでわしを馬鹿にしたいんか...わかった、わしの本気ぃ持ってわれを倒しちゃるよ」
彼に魔力が集まる。
『
彼がそう唱えると、一気に周りは寒くなった。
...広島弁だからって熱系警戒して体を冷たくさせるんじゃなかった。今の体温推定19℃くらい...常人じゃ死んでるんですけどね...
だがしかしご安心あれ。俺は日本にいた頃に親父に液体窒素の中にぶち込まれたことがある!これくらいの寒気、別にどうってこともないのだ!
「わしがこれを使うけぇにゃあ、われに余裕を感じさせるわけにゃあいかんね。一瞬で決着をつけさしてもらう」
すると、またさらに気温が下がった。
「...
彼の手に、氷の剣が作られた。
...剣術勝負か。
「これは...ますます俺が負けるわけにはいかないなぁ!!!いくぞぉ!!」
「こい」
2人、それぞれ大技を繰り出す準備に入った。
まだ、動かない。
10秒経っても、動かない。
まるで氷の中にいるように、時が止まっている。
鳥の鳴き声が聞こえた。
「
「
2人ともに技を放つ。
凪は、地をも裂く剣波を。
彼は、冰剣から放たれた氷山の連なりを。
それらは藍色の光を放ちながら、激しくぶつかり合った。
「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「いきやがれぇぇぁぁぁぁぁ!!!」
果たして、どちらに神が微笑んだのか...
凪の剣波は、彼の氷山を二つに斬り裂いていく。
「?!」
彼は、氷山が裂かれる様子を見て、すぐに回避した。
そこを、飛鳥の如く剣波が通っていく。
「...今までわしゃまともに剣を打ち合うたことがない。訓練の時でしか、剣の打ち合いができんかった...」
彼の言葉は続く。
「さっきは一瞬で終わらせる言うたが...撤回しよう。ぜひに打ち合おうぜ、ワレェ!!」
「もちろんだ!!俺も久方ぶりにまともに打ち合えそうな相手に出会ったんだ...一瞬で終わらせるなんて勿体無いことしてたまるかよ!!!」
1人の剣士と1人の侍が、またぶつかり合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます