第18話 妹

 暗い...


 俺は今、どこにいる...?


 誰かの声が聞こえる...


 誰だろうか...










 15X2年、薩摩。

 俺は島津軍の一兵として、妹を守るために毎日刀を振るっていた。俺の妹は、10代ながら右大将、信長公に身染められるほどの美貌を持っていた。普通この時代ならば、喜ぶべきことだろう。だが俺は現代から来た、現代の考えを持った人だった。


「すまないな、こゆき。いつも俺のせいで...」

「ううん、いいの。お兄といれば、それでいいの!」

「...そうか。俺も、雪さえいればそれでいいんだよ」

「うん!ずっと一緒だからね!」

「ああ」


 俺は追撃を覚悟で夜逃げをした。両親はいないので、人質がどうとかに困惑することはないだろう。だが、もし親族がいた場合は...見殺しにすることになる。始めはその親族達も誘って夜逃げを図ろうと考えたこともあった。しかし、リスクを考えると...2人で、密かに逃げたほうがいいと考えた俺は、妹を連れて各地を放浪しては、その地の大名に仕え、路銀が貯まってはまた別の地へ...と住む場所を転々としていた。気がつけば、もともと自分が住んでいた尾張から、九州の南端である薩摩まで来ていた。夜逃げを決行してから、もう7年のことである。

 今は薩摩の森の中で、小屋を建てて2人で暮らしている。雪には極力家を出るなと伝えており、雪もそれを守ってくれていたので雪の存在を最後まで隠し通すことができた。路銀が貯まったので、次は天草を経由し、島原の有馬氏のもとで路銀を稼ごうと考えていた。

 今日はいよいよ薩摩から出立しようと思っていた。


 家に帰ると、雪がいなかった。

「...また森に散歩でも行っているのか?」

 またいつもの散歩か、と俺はその時は思い、雪が帰ってくるのを待った。

 だがしかし、亥の刻をすぎても、雪は帰ってこなかった。

「...流石に探しに行くか」

 俺は家を出て、雪を探しに出た。





 雪が降り出した。

 とても季節外れの雪なのに、なぜか肌寒い。

 その中で雪を探し続けていた。

 それでも、雪は見つからなかった

 探し続けて半刻たった時...

 畦道で倒れている人を見つけた。

 その面影に、何か見覚えを感じた。

 俺は最悪を想定しながらも、それを否定する気持ちがいっぱいの状態で恐る恐るに近づいた。









 そこには、全ての尊厳という尊厳を踏み躙られた雪がいた。




 身体中が傷だらけで出血痕もあり、首には圧迫された跡もある。

 眼球は片方だけ抉り出されており、口も半開きだった。

 そして、極め付けは腹を引き裂かれ、臓物が出されていた。

 俺は一瞬、目の前の現実を否定した。

 そんなのはありえない、これは幻、夢だと。

 目が覚めれば、きっと暖かい家で雪がおはよう!と言ってくれると。

 そう信じて、再び目を現実に向けると...その景色は、何も変わってなかった。


 吐いた。

 泣いた。

 怒った。

 憤った。

 憎んだ。


 俺は、この瞬間修羅と化けた。そして、ふと周りを見渡すと、どうやら村と村を繋ぐ道のように見えた。俺はその畦道を辿って着いた2つの名もなき村へ行き...



 老若男女問わずそこに生きる人全てを殺した。




 とある丘。

 修羅は倒れた。そして、涙した。

「...あああああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 悲痛な叫びが空に響く。

 山から朝日が登り、俺を照らす。

 だが、そんな俺に朝の挨拶をしてくれる妹は...踏み躙られてしまった。

「なんで...なんで俺はこんな目に遭わないと...」

 妹を返せ。

 そんな言葉を2つの村で何度口にしたかわからない。

 だがそんなことをしても、俺の唯一の愛する存在は、もう帰ってこない。

「妹のいない世界で...何を目的に生きればいいんだ...」

 俺は、服を脱ぎ、刀を拭いた後...

 切腹した。

「いま...そっちに...いく...か...ら...」






 ...

 ......

 .........







「わぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「いっっっっっっったぁぁぁぁい!!!!!!!」

「うるさぁぁぁぁぁい!!!!!」

 何かに頭をぶつけながら目が覚めると、俺の視界にはレーゼとシハル、そしてアルラ一行が入っていた。

「...何しに来てたんだよ」

「それは勿論、愛する夫のお見舞いに...」

「違うでしょうがアルラ様ぁぁ!!」

 エスターの右ストレートがアルラの頬に直撃し、ふっ飛んでった。

「それよりも...誰だ俺に頭突きしたやつ」

 1人、わっかりやすい口笛を吹きながらあさっての方向を見ていたが、まあ見なかったことにしよう。

「それよりも、ナギさん。その涙は...」

「えっ?」

 気づくと、俺は涙を流していた。

「なんか、ずっと醒めない悪夢を見ていたような気がする...」

「...その心配はないですよ。だって、私たちがいますから」

 そうシハルはいい、俺を優しく抱きしめる。

「だから、安心して寝てくださいね」

「...ああ」

 俺は安心感を抱いて、シハルの抱擁を受け入れた。すると、当然ー

「あら?浮気ですか?」

「だ・か・ら アルラ様!あなたはナギさんの妻じゃないでしょうがぁぁぁ!!」

 いつの間にか復活したアルラにエスターが今度は左ストレートをかます。そしてアルラは窓を突き破り、そのまま落ちていった。

「むぅ...私もいますからね?私にも頼ってくれてもいいんですよ?」

「ああ、勿論そうさせてもらうさ、レーゼ」

 レーゼが膨れ気味でこっちを見てくるが、返事に満足したのかとても満足げな顔を見せた。

「ナギさん。困った時には私たちに声をかけてください。些細なことでも、力になります」

 そういうエスターと、アルラ一行。

「...ありがとう」

 今度は、また...





「そういえば2人とも、なぎさんに何か用があったんじゃないのですか?」

『あっ!!』

「ナギくん、すぐにギルドに来て!!」

「お、おう...?」

 どうやら、俺の仲間はゆっくり休ませてくれる暇はくれなさそうだ。

 俺は笑いながら、ギルドへと足を運んだ。












魔津波デウブラーまで、あと二日...ー

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