第15話 真実とは

 長い時を感じていたようだった。


 あの空間にいた時間は短かったが、そこで得たものはその時間の短さに見合わないものだった。


「...梓がこの世界に...」


 まず、妹の居場所がわかった。


 だが、そこはここから正反対の方向にある...人間領の山中にある小さな村を示していた。


 全てを投げ捨ててでも迎えに行きたいのは山々だが、仲間を捨てるわけにはいかない。


 それに...俺には、まず魔族領を治める魔王に会わなければならないから。


 だが、もう...妹、梓ににはなってほしくないから...


 一刻も早く、魔王に会いに行くとしよう。


 次に、魔法についての理解を深めることができた。


 魔法の本質までは理解したが、それを斬ったり殴ったりすることはできるが...それをどうやって集めたり魔法として構築するのかは理解できなかった。


 だが、先の存在のプレゼントのおかげで、その原理を理解できた。


 様々なレパートリーの魔法を使えるようになるだろう。


 他にも、いろいろ知ることはできたが...


 早く目覚めて、シハルたちの手助けに行かないとね。

「待ってろよ...一緒にぶっ飛ばそうな」














 一方、アルラたちはー


「エスター!のところまではあとどのくらい!?」

「えっと...あと数分ほどで鉢合わせるといった感じです!あとダーリンではなくナギさんではございませんか!?」

「もう私たちは結婚してるの!!ダーリンの心配をしない妻がどこにいるの!?」

「もういいです...あと3分ほどです!!オトセラス、大丈夫ですか?」

「ああ、はい。大丈夫です」

「わかりました。ではもう少し飛ばします!!」

 全速力でナギたちの元へと向かっていった。


 そして、もうナギたちの元まであと少しというところで。

 とてつもなく大きな魔力を感じ取った。

「これは...?!」

「...っ?!この魔力、アヌのものじゃない!!」

「...!!」

 3名はを思い出した。

「急ぐわよ!!ダーリンが危ない!!」

「わかりました!!」

「了解...!」

 3名は先ほどよりも急いでナギたちの元へ向かっていった。



「あ、ダーリン...シハルさん?!」

「シハルさん?!大丈夫ですか!?」

「...ぁ...アル...ラ...さん...ェ...スター...さ...ん...」

 アルラたちが重症のシハルを見つけた時には、すでに彼女の命の灯火は消えかけていた。

「だ、大丈夫?!いま、治癒魔法を...」

「私のことはいいから...はやく、ナギさんを...」

「あなたを見捨てるわけにはいかないわ!!!」

 シハルは自分のことはいいというが、アルラたちは聞く耳を持ってくれなかった。

「...なんで?なんで私を...役立たずを...見捨てないの...?」

「役立たずなんて誰が決めたのよ!あなたは仲間、そうとなった以上は助け合うのが常識ってもんでしょ!?」

 今までシハルは、役に立たなければ捨てられてきた。

 だが、ここは違う。

 役に立たなくても、それをカバーしてくれる、許してくれる仲間がいる。

 それを初めて知ったシハルは、思わず大粒を目から溢した。






「...ここは...」

 木洩れ陽も眩しく感じてしまう。だが、ここは確実に現実。そう確信できた。

「シハルたちは...」

 そう思い、体を起き上がらせて周りを見渡すと、横たわりになっているシハルがいた。

「ッ?!シハル!!」

 急いで駆け寄ったが...安堵の表情で眠っていた。

 しかし、右肩から左脇腹にかけて服が破れており、血痕がついている。つまり、一度は重傷を負ったと言うこと。

「...」

 不思議と怒りが込み上げてきた。腹の底からどす黒い感情が湧き上がってくる。だが。

「今は感情的になっている場合じゃない...」

 霊性を取り戻し、索敵を行なった。すると...

「...?!この反応...アヌか?」

 アヌから膨大な量の魔力反応があった。それも、ほどのだ。

「だとしたら...」

 弱々しい反応を放っているのがジレイン、アヌほど膨大ではないものの、魔力が常人より多い二つの反応が...敵。

「ここからだと間に合わないかもしれない...」

 アヌの魔力反応にブレが生じている。おそらく、もうそろそろ魔力が切れるのだろう。

 ジレインも危ない。

「...ここから攻撃するしかないか」

 俺は、ある体制をとった。

 それは、さながら弓を引く弓士のようで、銃の引き金を引く狙撃手のような構えだった。

 俺は、弾に様々なデバフ魔法をかけた。

 そして、弦を引くように弾をゆっくりと引きこみ...

 そして、適切な位置で固定した。

 あとは...引き金を引くだけ。

 狙いを定めようと、スコープもどきを覗いてターゲットを視認した...

「...」

 忘れるわけがない。

 あれは...あの姿は...

「...結依...?」









「ねえ、いい加減にしなよ?僕だって、弱者をいたぶる趣味はないんだよ?さっさとそこどいてよ」

「どか...ない...!!」

「あーもう!!なんでなの!瀕死のお荷物いらないでしょ!私たちが処理してあげるって言う優しさをなんで受け取ってくれないの!!」

「お兄ちゃんは...わたしが守る....!!」

「...もういいや、2人一緒に吹き飛んでよ」

 ユイは衝撃波を放った。まともに受けたアヌは...

「カハッ...」

 勢いよく吹っ飛び、後ろにある木に背中を思い切り打ち付けられた。

 ジレインも同じように、木に背中を打ち付けられたようだ。

「ふぅ...これで回収可能かな?それじゃ、2人ともー」

 ユイがそう言いかけた瞬間。薮から何者かが出てきた。その正体はすぐにわかった。

「あー!もう、いつまで時間かけてたの?!こっちはもう待ちくたびれていたんだよ!」

「ああ、すまない。少々時間を食ってしまった。そいつらは生きているか?」

「もっちろん!僕、手加減得意だからね!」

 褒めて!!と尻尾を振る犬のようなドヤ顔をかましているユイを優しく撫でている男。

 と、その顔は警戒の顔に瞬時に変わった。

 同時に、藪からアルラ一行が出てくる。

 しばらく時が止まった。

 その時を動かしたのは、当然男だった。

「チィッ」

 舌打ちと共に放たれた魔法は、精密としか言いようがなかった。

「アルラ様っ」

 エスターが護璧を張ってくれたことで、出落ちということにはならなかった。

 これからアルラ一行vs賊が始まる...

 瞬間。

 あたりは大爆発に包まれた。

「アルラ様!」

 どうやらアルラたちは護璧を張られて守られているようである。

 アヌたちも同様だった。

 一方、直撃したと思われる賊たちは...

「イアアアアアァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!」

「...」

 ユイの片腕をもぎ取り、男の心臓を貫いていた。

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