第14話 許さない

「神...?連合...?」

 シハルにはわからないのも当然のはず。だが、自分は何もしていないのに、悪だと決めつけられているところには思うところがある。

「なんで...なんで私たちは何もしていないのに!!」

「生きていることが悪なのだ!死ぬがいい!!」

 そうしてまた、男が斬りかかる。

「物理護璧!」

 シハルは、物理護璧で防御を試みる...が。

 男はにぃっと顔を歪めた。

 シハルはそれに気付き、急いで護璧を貼り直したが...

 一歩遅かった。

「....っああああああ!!!」

 袈裟斬りを喰らったシハルの傷はそこまで深くはなかったが、放置すると失血死しかねない傷だった。

「...なぜお前は素直に死んでくれないんだ」

 男が話す。

「お前が素直に死ねば、その痛みもなく、地獄へと行けただろうに。なぜ抗うのだ。お前たちは本来存在すら許されない種族だ。なのに、なぜだ...」

 ぶつぶつ呟いている男が、凪を見やり、なにか気づいたように目を見開く。

「...そうか、この男が原因か!!」

 ドタドタと凪へ向かい、すぐそばに剣を突き立てる。

「...や...やめ...ろ...」

 シハルが体内に残っている魔力を使って回復を試みているが、なかなか傷口が塞がらない。しかも、徐々に意識が薄くなっていく。

「お前の目の前で、お前の生きる意味を無くしてやるよ。ありがたく思うがいい!!!」

 男が、凪に剣を突き立てようとした。

 瞬間、恐ろしいほどの威圧が降り注いだ。

(ナギ...さ...ん....)

 シハルはその威圧により、意識を飛ばした。

 一方、男はその威圧の発生源に向いた。そこにいたのは...

 アヌだった。




 シハルが袈裟斬りを喰らう少し前。

 ユイとジレイン兄妹は魔法の応酬を続けていた。

「ねえ、いいの?妹ちゃん。お兄ちゃんの方はもうそろそろ魔力が切れちゃうんじゃない?」

 ユイの言う通りだった。

 ジレインは極力魔力を節約しているとはいえ、もうそろそろ魔力が尽きる。

 アヌはそれに危機を感じていた。

 自分の魔力は潤沢にある。だが、兄は自分ほど多くない。むしろ、一般人よりも少ない。

 私たちは家柄は良くない。だが、自分は魔力が一般人よりも10倍多かったため、兄が通う学院とはまた別の、貴族や裕福な家庭が通う学院に学費免除で通うことができた。

 そのとき、実力はとてもいいが家柄がダメという理由で、いじめを受けたことがある。その時に、私を救ってくれたのが兄だった。

 兄は、いつも私を救ってくれた。だけど...

「嫌だ...」

 もう、になるのは、兄が許しても、自分が許さない。


「ねぇ、聞いてるの?お兄ちゃん、もう魔力切れちゃうよー?」

 アヌは無反応を貫いていた。

「ねー、お兄ちゃん。妹ちゃん、どうしちゃったんだろうね?」

「お前には関係のない話だ!!」

 ジレインは必死に棒切れで自分に向かって魔法弾を撃ち落とす。

(このままじゃ、ジリ貧...を使うしか...!)

 ジレインが覚悟を決めた。

「ん?覚悟を決めた感じかな?いいよ、最後に、君の名前を聞いてあげようか。私が永遠に君の名前を覚えておくという名誉をあげるよ」

「お前のその言い草には癪だが...いいだろう。俺の名前はジレインだ」

「ジレイン?ジレインっていうと...まあいいや。わたしはユイだよ。ユイが、君を殺す名前なんだ。覚悟しなよ」

 両者が構え、静寂が走る。

 そして今、2人が踏み出そうとした瞬間...

 恐ろしいほどの威圧が2人に降り注いだ。

 その威圧の発生源を向くと...

 アヌがいた。

「...お兄ちゃんを傷つける奴は...殺す!!」

 それは、さる日の兄を、もう見たくないから。

 兄には、もう傷ついてほしくないから。

 兄を思う妹が今、暴れ始めた。






(ここは...)

 俺は、何をされた?

 たしか、この世界に落ちて...いや、もう少し先か。

 ...

(!!そうだ、俺は...)

 謎の二人組に奇襲をかけられ、俺は不意打ちを喰らった。

 そのまま意識が落ちてしまった。

(早く戻らないと...)

 そう思い、目を開けるとそこは...

 謎の空間が広がっていた。そして、それはまるで...

(...忘れるわけがない)

 そう、凪の目の前には...

(俺の家...)

 凪の自宅があった。


 まるで入れと言わんばかりに玄関が開いている。

(入ってもいいのか...)

 ここで入らなければ、取り返しのつかない何かが起きそうだったので、家に入る。玄関で靴を脱ぎ、リビングに行くと...

『よくきましたね、須藤凪』

 俺の...もういないはずの妹が、そこにいた。

「...」

 あまりの衝撃に、俺は目を疑った。

 俺の妹、須藤梓すどうあずさは、ここに召喚される五年前に、行方不明になったはず...

「お前は...梓、なのか...?」

 凪は梓らしき人物に問うが...

『残念ながら、私は君のいう梓という存在ではありません』

 否定された。

『それよりも、あなたにはお願いがあるのです』

「お願い...?」

『ええ、時間がないので、ここにある水晶に触れてください。あとは、君の判断に任せます』

 凪は指示された通りに動いた。体に満たされる虚無感で、もう自分の意志を感じれなかった。

 水晶に触れた。

 すると、脳に膨大な量の情報がなだれ込んできた。

 それを、梓の姿を取る存在は眺めていた。

 ...

 やがて、凪は目を開いた。

 そして、梓の姿を取る存在に問う。

「おい!梓は...梓はどこにいる!!!」

『もう時間ですね。それでは私はこれで失礼します』

「おい!!行く前に答えろ!!梓は...梓はどこにいるんだ!!!!」

『今はまだ、彼女のいる場所を伝えることはできませんが...いずれあなたの元に来ますよ。それまで、を死なせないでくださいね...』

「?!彼女とは誰のことなんだ?!」

『どうか、を救ってくださいね、ナギさん...』

 その言葉を最後に、凪のいる空間は崩壊した。









『これで、よかったのでしょうか...』

『もちろんだとも。は強い。いずれこの時空の歪みに気づくはず』

『そう、だといいのですが...』

『その通りになるさ。なにせ、は、僕らですら見抜けないほどの強さを秘めているのだからね』

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