第13話 真理

「さて、2vs3か...数的にはこっちが不利だが...」

「大丈夫でしょ、私たちでも」

「まあ、そうだな」

 賊たちが何か話しているが、シハルたちには聞こえていない。

「じゃあ、俺が男と長髪エルフを」

「じゃ私は、男のすぐ隣にいるエルフもらうね」

 それを皮切りに、戦いは始まった。


「さて...多少は乱暴に行くぞ?」

 やってきた男から放たれる殺気は、ナギよりも鋭かった。

 シハルとジレインは戦慄するが...

(このくらいでびびってちゃ...!)

火弾フレアバレット!!」

 シハルが先制攻撃を打つが...

「甘い」

 賊はつぶやくと、あっさりと火弾を薙ぎ払った。その姿はまるで...

「ナギさん...?」

 シハルの目には凪のように見えた。王女が暴走した時に見せた、剣で魔法を斬り倒すその姿が、重なって見えた。しかし。

「戦場で呆けるとは、怠惰なり」

 その言葉の後、シハルの顔に鞘が入った。

「シハルさん!!」

 ジレインの声は...

「大丈夫ですよ、なんとか間に合いました」

 届いていた。ギリギリで護璧が間に合ったらしい。

「よかった...では、少し返しますか」

 ジレインがそういうと、どこからか棒切れがジレインの手に現れた。

 男は視線に殺気を込めてジレインを睨む。

「お前...それは舐めているのか?」

 男は戦いを汚されるのが心底いやらしいそうだ。

 しかし、ジレインは無言で男に襲いかかる。

 それを避けようともせず、受けようとした。

 だが、刹那。

(これは...)

 一瞬の判断で、彼は避けた。

 瞬間、彼の左肩すれすれに斬撃が飛んできた。

 それは、地面を割り、天すら裂いた。斬撃が飛んだ後には、空には暗い空間が現れている。

「その武器は危ないな...先に片をつけておこう」

「...っ?!馬鹿おにぃ!!何でを使うの!!」

「これを使わないと勝てないんだよ、今の俺たちだと...!」

 ジレインはそういう。

 シハルは思う。確かに、こいつらには今の私たちの状態だと勝てないと。逆立ちしても敵わないと本能的に感じていた。しかし、こいつらは私の命の恩人、師匠を奪い去ろうとしている。敵わないとわかっていても...

「なんで、あんな奴にこんなに必死になるの?!ここで死んだら...」

「それでも!!あの人に恩を感じているから!守ってもらっているから!!今度は私たちが守るのよ!!!」

 シハルは決意の目で宣言した。

 ジレインは...

「たしかに、シハルさんのいうとおりだ。付き合った時間は短いものの...我々には、この依頼に付いて以来助けられてきたんだ。その恩を返すのは当然...いや、義務なんだ!!」

 ジレインも覚悟を決めている。

「そう...わかった」

 アヌはそう呟くと...

「おにぃがそう決めたなら、私も覚悟を決める...ただ、出し惜しみはしないから、覚悟してね?」

 ハイライトが消えた瞳孔を目一杯に広げ、俗に威嚇行為を行なった。

「これは...常人が当てられると気絶するな」

「そうね...この子も危険だわ」

「いや、作戦変更だ。あの娘と男が持つ武器を回収する」

「え、いいの?この男さえ連れ去ればいいのに...」

「いや、この男も連れ去る。だから、お前は先に撤退しろ。主を連れてな」

「...勝つ算段はあるのよね?」

「当然だ」

「...そっか。じゃあ、まかせるね」

 シハルたちは、男に集中するが...後ろの女の挙動不審に、シハルはあることに気づいた。

「ジレイン、アヌ!あの女を狙って!あいつ、ナギさんを連れて逃げる気だ!!」

「承知!」

「わかってるわ...今から嬲り殺しにしてあげる!!」

 アヌが人格が変わったように狂っているのはシハルは今は気にしないらしい。気絶しないのは以前同じような現象に巻き込まれたおかげで耐性があるのだろうか。

 ジレインの地割りと、アヌの魔法が女を襲う。

「がっ...ぐぅぅ!」

 女もなんとか防いだようだが...

 凪を相手に渡してしまった。

「流石に片手封じじゃ、は防げないわよ...やってくれたわね、あんたたち」

 凪は奪還した。あとは逃げるのみなのだが...

「じゃあ、あなたたち、さらわれてくれる?」

「「!?」」

 ジレインとアヌはその言葉に動揺した。

 その隙を狙われ、ジレインは顎に重い一撃を喰らった。

 だが、なんとか意識を保った。

「ばかおにぃ...油断しないって言ったのに」

「はは...そこを突かれると痛いね...」

 兄妹のやりとりは、まるで日常の中で交わされるようなもので、この戦場には見合わないようなものだったが...

「じゃあ...君は、捕虜にしておこうか」

「ばかおにぃ。この子は私が甚振って殺すの!!!!」

 女は鳥肌を立てた。

 負ければ、自分はとても耐えられないような境遇に追いやられるだろう。

 そんなことは....

「もう豚箱に押し込められるのは...嫌なのよ!!!」

 ジレインとアヌ、ユイの戦いは、こうして始まった。






 男はユイがいる方向を見やり、再びこちらに直った。

「やはり理解できんな。なんでこいつがこの魔族共あほどもについたのか...」

「?!ナギさんにこの世界の知り合いが...?!」

 シハルはその可能性を疑ったが、それはすぐに却下された。

 本人からもこの世界に知り合いはいないと伝えられていたのだ。

 そう考えると、可能性は一つ。

「...あなたも、なの...?」

「ほう、その言葉を知っているのか。博識だな」

「それはどうも...!!」

 シハルが魔法を放つが...

 容易く受け止められた。

「...本当に理解し難い」

 男はまるで、自分を救ってくれた恩師をゴミを見るような目で見ているようだった。

「なぜこいつは、こっち側につくと決めたのだ?魔族は悪なんだ...」

「そうやっていっつもいっつも...なんで私たちが悪なんだとわかるのよ!!!」

「その存在自体が悪だからだ」

 そうきっぱり言われた。

 シハルも、そう言われて、固まった。

「なぜ存在自体が悪になるか、と聞きたい顔だな。なぜなら、貴様らは神話時代から我らが神様の邪魔をしているからだ。それだけで生きることなど許されないというのに、貴様らは今ものうのうと生きている...!!」

 男が放つ気迫に、シハルは後退っていく。

「貴様らを全員神の御名の下に!!死という名の裁断を下すのだ!!!!」

 凄まじい殺気が放たれ、森が泣く。

「お前たちをこの世から消し去り、平和な世をもたらす!!それが、人類連合主クメリス様の、創神クメリク様の御意志なのだ!!!」

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