第10話 理解し難い
須藤凪、彼女いない歴
告白というイベントでさえ経験していない。
厳密に言えば時代逆行する直前に経験したというべきだが、それはまだ未遂。定番の「好きです!付き合ってください!」という言葉は聞いていない。
つまり、須藤凪には告白するされるというイベントを今まで経験してこなかった。
しかし。
告白されてしまった。
出会って数分の女性に。
しかも相当気が合う女性に。
危うく三途の川を渡りかけた自分を現実に呼び戻してくれた点はとても優しいと思う。が。
その前後のセリフが少々危ないのだ。
俺がいないと病んで何か大事件を起こしそうなほど、危ない女性に絡んでしまったのか。
はたまた、これはとてもすごい尽くしにくるタイプで、必死に俺から捨てられないようにアピールしている子犬なのか。
真意はわからないが、とにかく俺が言いたいのはただ一つ。
「なんであの一瞬で俺を好きになったんだ?」
それだけだった。
やってきたカフェで俺はそれを聞いた。
もうスピード交際とかそういう次元じゃないレベル。
秒交際?
そんな聞いたこともない単語が頭に思い浮かぶレベルの秒での告白だった。
もう意味がわからん。
「え?そんなの決まってるじゃん」
「何...?」
「運命を感じたからだよ!!」
...
今まで生きてきた中で、一番訳がわからん。
いや、数回ハモッただけでよ?
それだけで運命感じるか?普通。
「それよりも...何その剣!今まで見たことないんだけど!!見せて!!!」
「...」
俺はまたもや某宇宙猫状態になっていた。
アルラが何か言ってるが、さっぱり頭に入ってこない。
やがて俺は、考えるのをやめた。
ずいぶん寝ていたのだろうか、目が覚めると日が暮れていた。
目が覚めて最初に視界に入ったのは...
アルラだった。
「おはよう!いい日暮れだね!」
「...聞いてもいいか?」
「あ、大丈夫!ナギくんの純潔は奪ってないよ?後その剣も触ってないからね!」
「いや、そういうことじゃなく...」
「じゃあ、何が聞きたいの?まさか、私の趣味?!えへへ〜そんなこともう聞いてくるなんて...」
アルラが何か想像してトリップし出してるが、御構い無しに聞く。
「ここ...どこ?」
「,,,」
そう。
見慣れない天井。
とても宿とは言えない狭すぎる部屋。
ベッドには付き合いたてのイチャラブカップルが使ってそうな枕も。
そして極め付けは、アルラの...目のやりどころがないほど、露出した服。
もう、そういうことですよね?ということは誰でも理解させられるほど、わかりやすい空間だったが、念のため聞いておいた。
「そりゃここは、私の家ですよ?」
「そうじゃなくて...ここは、ネプラスなのか?」
「んー、そうだけど...え?帰るの?今?!」
「それはもちろんだろう。仲間も心配してるし...」
「嫌だー!帰らないでー!私と既成事実作ってから帰ってよー!」
「うぉい!とんでもないこと口走るんじゃねぇ!!」
危なかった。もし朝まで起きてなかったらと思うと...
身の毛がよだつ。
「というか、仲間に紹介したいし」
「それを先に言ってくれよ...」
そう安心したのも束の間。
「私の未来の夫だって...」
「だからなんでもう付き合ってることになってんだ?!」
やばい。
すでに俺が振り回されている。
このままじゃ精神的に疲弊し切ってまた倒れそうだ。
そう思った俺は...
パリィン!!
「あ!ちょ、まってよ、ナギくーん!!」
その場から逃げ出した。
クズと言われようが関係ない。
俺は、とにかく精神的に攻めてくる彼女から逃げ出したかった。
俺はそのまま宿に駆け込み、爆速でチェックインを済ませ、ベッドにダイビング就寝した。
翌日。
「起きてよナギ」
シハルにそう言われて目覚めると、朝だった。
...逃げ切れたんだ。あのSランクから。
安堵したのか、涙がボロボロ流れ出した。
「?!...何かあったの?」
「ああ、いや...それよりも、王女は?」
シハルが指差した先には...
「えへへ...うへへ...ナギさぁん...」
何を想像しながら寝ているのか、非常ににやけながら幸せそうに寝ている王女様がいた。
それを見た俺は...余計に涙が溢れ出してきた。
「本当に、何があったの...?」
「いや、本当に何もないんだ...幸せだなぁって」
「幸せ?」
「ああ。最初、俺がこの世界に召喚された時は1人だった。人間を裏切った時も、この先、また1人になるかもしれないって思ってた。だが、お前らがついてきてくれた。それが、嬉しくてな...ほんとうに、ありがとう」
「...そっか」
シハルはそれだけ言うと、
「はやく。朝ごはん食べに行こう」
「ああ、そうだな」
朝ごはんを食べに、部屋を出る。
だが、シハルは玄関の扉を開けた瞬間、硬直した。
なにがあったのか、シハルの目線の先を追うと...
アルラがいた。
「ここにいたのね!ナギくん!」
...
俺はアルラに会釈した。
「私からの返事はどうなの?」
そう言った後、再びにっこりと笑い...
後ろを振り返り、身体強化を限界まで積んだ状態で窓から逃げ出した。
「あ!待って、ナギくーん!!」
アルラも、身体強化を使っているのか使っていないのかわからないが、俺と同じスピードで追いかけてくる。
「お前は誰だぁぁぁ!!!」
「私はアルラでしょ、覚えてないの、ナギくーん!!」
「俺の記憶にはそんな名前の人物はいなぁぁぁぁい!!!」
街中でのチェイスはしばらく続き、終わったのは受付嬢が何故か俺たちの前に現れてにっこりと止めに来た時だった。
あの受付嬢、本当に何者...
一方、某国。
「そうですか、あなたが」
川西は王族に対する礼儀を最初から知っていたかのような仕草をとった。結依はあわあわしている。
「はい。まずは、突然こちらの世界に召喚させていただいたこと、深くお詫び申し上げます」
「いえ、何か事情があるのでしょう?」
「はい。詳しくは道中説明するので、まずはこれを」
「「これは?」」
「これは、王族に謁見するときに必要なブレスレットです。これをつけていれば、あなたたちは王族の賓客として、王城の使用人、騎士たちに困り事があれば対応してもらえるようになるので、つけることをお勧めします」
「ありがとうございます」
川西と結依はそれを受け取り、腕につけると...
2人の意識が途切れた。
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