第9話 Sランク

 結局、気絶させたバーサーカー王女と、幼児退行してまともに立てなくなっていたシハルを抱きかかえて、ネプラスに戻っていった。道中、はぐれたフォレストウルフにしょっちゅう襲われたが、例の如く斬り捨てていった。

 しっかし、帰ったら王女様とはお話が必要そうだな。それに...多分、シハルから俺に色々聞きたいことがあるだろうし...少なくとも答えられる範囲だけでも答えてやろうか。それはそうとして、このクエストをしたことにより、一つの問題が見えた。それを解決するべく、帰ってももしこいつらが三途の川をまだ眺めていたら、宿屋に放ってギルドへ行く。起きたら連れて行く。それでいいかな...いいよね?

 それよりも...

「出過ぎだろぉ!!」

 尋常じゃない量のはぐれウルフたち。それに加わってのゴブリンまで来ていた。なんで??

「いくらなんでも災厄でもないんだから...」

 これから災厄でも起きるのかっていうレベルで湧いてくるはぐれウルフとゴブリンたち。何が起こるんだ...



 街についたが、案の定王女は目覚めず、シハルは何一つない快晴の空に雲を数え出したので、宿に放り込んできた。今は絶賛絡まれ中である。誰にだって?もちろん決まってる。ゴロツキどもである。

「にーちゃん、手元にいいもん持ってんじゃねぇか」

「俺たちにも分けてくれよ」

 手元に持ってるものとは、フォレストウルフの毛皮である。

 それを500枚分、昨日絡んできて例のアホたちから譲ってもらった魔具である拡張背嚢アイテムバッグを手に持っている。

 まあ、つまりはこいつをよこせっていう話だ。

「いいだろ?にーちゃんならすぐにでも集められるだろって」

 俺はにっこりと笑い...

 目の前であんあんメンチ切ってるやつの股間を蹴り飛ばした。

「あ、兄貴ーーー!!!」

 泡を吹いて気絶している。ふむ...

 ちょっとやりすぎたかな?

「「てめぇ!よくも兄貴をやったなぁ!!?」」

 ふっと不敵に笑い、一言。

「めんどくさいんだよお前らぁ!!!」

 直後、街の一角で爆発音が聞こえたのだそうな。






 ギルドについた。

 相変わらず賑やかなギルドだ。

 あちこちから笑い声と怒鳴り声と野次馬が聞こえてくる。

 ...野次馬は気にしたら負けだな。

 とりあえず、ギルドの受付に...

「「すみません」」

 ハモった。

「「あ、先にどうぞ」」

 またハモった。

「「いえいえ、どうぞお先に」」

 またまたハモった。

「「あはははっ」」

 笑い声までハモった。

 なんかここまでくると生き別れた妹か弟のように感じてしまうが...

「人生でここまで笑ったのは初めてですよ...」

 声的には、どうやら女性のようだ。

 その人物は、フードを外し、名乗った。

「初めまして、アルラ=エリシアです。ランクはSです」

「こちらこそ初めまして、ナギ=スドーです。ランクは最近登録したばかりなので...」

「ああ、そうですか。では、依頼の報告を?」

「そんなところですね。アルラ様は?」

「様とつけないでください。アルラで大丈夫です。あなたとは気が合いそうなので」

「そうですか。でしたら、アルラと呼ばせていただきます」

「敬語もやめてください」

「...わかった」

 俺とめっちゃ気が合うこの美人。一緒にパーティーなんて組んだらとても楽しい旅になりそうだ。

「ちなみに、仲間はどうしたんだ?」

「ああ...今回の依頼は、精神的にダメージがすごいところであってね...それに仲間が...」

「なんとなく察したから。それ以上はやめるんだ」

「そちらの方も、1人なのか?」

「いや、仲間はいるんだが...1人は魔物を見た瞬間に暴走しだしたから気絶させて、もう1人は幼児退行しているから宿に放り込んできた」

「なんかだいぶ問題のありそうなパーティーだが...なかなか楽しそうだね」

「そうだな...そっちも、だいぶ愉快そうなパーティーな気がするよ」

「そ、そうかな...」

 そんな感じでお互いの仲間について語り合っていると...

 とても冷たい空気が流れてきた。

 発生源に顔をゆっっくりむけると...

「すみませんが、受付前での雑談はお控え願えませんか?」

 冷たい笑顔で受付嬢が迎えてくる。

 背後には龍を従えてそうなレベルの気迫だ。

 これにはかつては剣鬼と呼ばれた俺も、Sランクのアルラも臆して、

「「す、すみませんでしたっ!!!!」」

 謝罪まで綺麗にハモった。

 もう、なんか運命を感じてしまう。

「いえいえ、わかったのなら大丈夫です。では、ナギさんから」

 先ほどの冷たい笑顔から温かい笑顔で俺の依頼報告について聞きにきた。

 ギルドの受付嬢、怖い...


 依頼報告は終わった。

 ちなみに、品質が高くて助かりますと受付嬢は言っていた。どうやら、品質が高いと金銭的価値は高くなるのはここでも変わらないようだ。

「ナギさん、ここで何をしてるんだい?」

 アルラが声をかけてきた。

「いや、ちょっと仲間のことでね...」

 そう言って、その後のことも言おうとしたとき。信じられないことを言い放った。

「なら、私たちのパーティーとしばらく行動する?」

「...???」

 今の俺は、某猫とほぼ同じ状況に陥っていた。

 え?Sランクのパーティーが、最低ランクである俺たちと共に行動を?

 なんで????

 情報の処理が追いつかずに、頭からカシャカシャと幻聴が聞こえてきた。

 そこで、続けてアルラが言う。

「なんなら、一緒に依頼を受けましょう。いかがですか?」

 ...

 頭から?が離れない。

 もう実際に?が具現化しそうなほどだった。

 それくらい、俺は本気で思考停止していた。

「...ん?........さん?.....ギさん!!」

「はっ?!」

 やっと現実に戻ってきた。

「ナギさん、どうしました?」

「いや、なんでも...それよりも、本当にいいのか?」

「私は、ナギさんだから言ってるのですよ?」

 ...

 なんか俺はこの先、大変な目に遭う気がしてならないのだが...

「ねぇ、ナギさん。私と結婚を前提に付き合ってくださらない?」

 この一言で、俺はまた某宇宙猫状態になった。

 そして脳が理解したとき俺はフッと笑い...

 三途の川を渡ろうと...

 した瞬間、視界が現実に戻ってきた。

 その視界が最初に捉えた先には...

「ん...ナギさん!!目覚めてよかったです♡」

 語尾に絶対ハートをつけてるくらい可愛らしい声で、俺を蘇生してるアルラがいた。

 しかも、公衆の面前で。

「ナギさん。逃がしはしませんからね?」

 俺は、どうやらとんでもない女性に好かれてしまったようだ。

 それよりも...

「アルラ...少し、場所を変えようか...」

 公衆の面前で一方的にイチャイチャされていたたまれない俺は、それしか言えなかった。

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