第8話 魔物嫌いの真髄

 街を出てしばらくするところに森がある。

 ここが、フォレストウルフが生息している森だ。

 本来、魔物は人間でいう動物と変わらないもので、危害を加えなければ襲われることはないが、動物とは違う点がある。それは、魔力に寄せられやすいこと、魔力を大量に浴びると、凶暴化することである。魔物が凶暴化すると、自分の仲間以外は見境なく襲い出す。その為、凶暴化した魔物を狩るという討伐依頼があるわけだ。ちなみに、これは随分と世話になった門番による話である。フォレストウルフの特徴なのだが、森の中にいればほとんど気づけないほどの迷彩色。その代わり、いざ襲うときはパキパキと枝が折れたような音がする為、気づくのは容易であるということ。また、彼らは群れで行動するが、そもそも一個体の戦闘能力が非常に乏しい為、下位探索者でも楽々解かれるであろうとのこと。それらを含めて、初心者にはうってつけの狩猟対象となっている。


「さあ、もうそろそろかな?」

 枝が折れたような音が聞こえたので、近くにフォレストウルフがいるということがわかった。今回は俺は出ない。出るのは、王女様と、シハルである。王女様はというと...

「タスケテ...タスケテ...」

 亡霊のような表情で誰にも聞こえない声で助けを求めている。本当に危ないときは助けるとは言ったが、そもそもあの王女に安全な状況が訪れるのだろうか...

 一方シハルはというと、

「ねぇ、レーゼ様、そんな死んだ表情してないで、援護の準備してくださいよ。でないと、守ってあげませんよ」

 と、王女様に見捨てます宣言していた。

 しかし、王女様の目は死んだまま。

 生き返る予兆もなし。

 ほんとに、大丈夫か...?

 シハルも、どうやら彼女自身に生きてもらうことは諦めたようだ。そりゃ、魔物を目の前にして生きる気のない目をされたらそうなるよな。しかし、これは魔物の大群に放り込むくらいの出来事がないと魔物を前にしても正気を保てないのか...?

「レーゼ!!魔物きてるよ!?」

 シハルが懸命に現実に戻そうとしているが、王女の目は虚ろなまま。顔もますます色が失われていっている。

「ーっ!!もう知らない!!」

 あ、諦めて守りに専念し出した。

 知らないって言っても、そこは優しいのか...

 と思っていたとき。

「マモノ....マモノ...コロス...コロス!!」

 機械みたいに「マモノコロス」を繰り返しながら王女様が攻缶魔法で暴走し出した。

 流石に俺でもあれとやり合えって言われたら逃げるくらいには暴れている。

 シハルのすぐ近くで暴走し出したのでシハルが心配なのだが...

「....ゲハッ」

 被弾したが、なんとか一命は取り留めている状態のようだ。しかし、結構な深手を負わされたみたいだ。

 それよりも...

「マモノ、コロス、ゼッタイ、ニガサナイ!!」

 ...バーサーカーに変貌してんじゃねぇか。

 あの温厚で魔物見ただけで失神する王女様はどこへいったんだ。

 そんないつもの王女様は迷子状態のバーサーカーレーゼ王女は、厨二病なら誰でも憧れる目が赤くなった状態で見境なく攻缶魔法を乱射していた。

 まあ、俺やシハルの方にも吹っ飛んではきてるが。

 俺は魔法をぶった斬り、シハルはそんな俺の防御方法に呆然としながら保択魔法で防御していた。

 魔法をぶった斬る現場を初めて見たら、俺でも呆然とすると思う、わかるよその気持ち。

 だが、俺は研究に研究を重ね、ついに魔法の原理を理解した。これを公開すると、ヤバイことになるので、この情報は俺の秘密とし、もう公開してもいいほど平和になったときに別人の名義で公開しようと思っている。

 シハルにも、王女様にも秘密だ。信頼できる人にだけ教えても、情報はどこからか漏れ出すかもしれない。だからこそ、俺1人だけの秘密にしておくのだ。

「やれやれ...これじゃ50回分の納品どころじゃないぞ...」

 それにしても。

 バーサーカー王女様がフォレストウルフを倒し続けて、もうすぐ10分経つというのに、もうフォレストウルフ討伐依頼の納品分500枚は達成している。それどころか、その2倍の数は確保できている。

 しかし、バーサーカー王女様はとどまるところを知らず、まだ暴れ続けている。もうそろそろ止めないと、この森の生態系に大打撃を与えそうだ。

 そう思い、止めに入るも...

「うおっ」

 動いたものに対して発射する魔法でも放っているのだろうか、バーサーカー王女様に近づくとものすごい量の魔法弾で歓迎された。もちろん全部斬り捨てたが。シハルは開いた口が塞がっていない。これは宿に戻ると根掘り葉掘り聞かれそうだ。無視しようと心で決めている中でも、俺に向けて魔法弾のオンパレード。流石の俺でも、100を超える量の魔法弾を捌き切るのは無理がある。しかし、絶対できないというわけではない。ちょうどいい、これを俺の肩慣らしに利用させてもらおう。


 一方、シハルは何を思っているのかというと...

(そんな量の魔法弾を、全弾精密に、しかも標的に全弾命中ですって...?!)

 驚愕していた。

 王女様の暴走と、その魔法操作の精密さに。

(普通は、10発の魔法弾を操れるだけで立派だというのに...人間は、これほどまで進んでいるというの...?)

 そんな思いを抱えた。


「おーい、王女様。もういいですから止まってください」

「シネ!!」

 殺意マシマシ魔法弾の雨が向かってくる。

 が、しかし。俺はある援助魔法をかけた。そのおかげで...

 全弾、避けきれた。

「実験は成功だな」

「...」

 シハルが後ろであんぐりしてる。

 いつかシハルの胃に穴が開きそうだ。

 胃薬、作ってあげようかな...

 それよりも。

「さて、実験も成功したし...王女様を落ち着かせるとしようか」

 またさっきと同じ...縮地を自分にかける。

 それによって、瞬間的な反射速度が上昇し、工夫すれば空を駆け上ることができるようになる。

 そんな俺も現代日本のファンタジー小説で飽きるほど見てきた技術を魔法によって再現することができたのだ。

 それを駆使し、空中でバーサーカーしている王女様の猛攻を避けながら、背後に回り込む。

「王女様、しばらくお眠りくださいね」

 首を峰打ちしてあげる。

 すると、さっきまでの殺意マシマシな目は白目を剥き、気絶した。

 とりあえず、だ。

「これで...依頼完了...か」

 王女様をおんぶする。

「シハル、帰るぞー...」

 シハルに帰るよう促したが、返事がないので見てみると...

「まほう...いっぱい...しんたいきょうか...びゅんびゅん...はやい...」

 ...幼児退行していた。

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