第7話 ヒョロヒョロくんは強い

 依頼は受けた。

 しかし、50回受注はやりすぎたか?と思ったがそうでもないらしい。

 むしろ大歓迎です!!的な笑顔を受付嬢はされていた。まあ、問題ないか。

 ちなみに一回につきフォレストウルフの毛皮10枚納品とのこと。基準もあり、それにそぐわない場合、納品は認められないらしい。つまり、細切れにして10枚にし、ギルドに納品はい楽勝〜♪みたいなことはできない。ちなみに基準とは、フォレストウルフの背中の毛皮丸々一枚である。

 とまあ、クエスト受注はしたが、まずは休息を取らないとな。そう思い、宿に向かったが...

 後ろからつけてくる奴らがいた。


 人通りの少ない通りに出た。

 すると後ろでコソコソしてた奴らが声をかけてきた。

「ようそこの嬢ちゃん、かわいいねぇ〜。俺らと一緒に来ない?」

「そうだぜ嬢ちゃん。そこのヒョロヒョロよりも、俺たちの方が守れるぜ?」

 ...テンプレすぎてにやけるのを抑えてるせいで、プルプル震えている。

 それを奴らは怖がっていると思っているらしい。後一歩で可愛いかわいい嬢ちゃんたちが手に入ると。

「なあ、そうだろ?ヒョロヒョロくん?」

「俺たちの方が守れるから、嬢ちゃんたち、もらっていってもいいよなぁ?」

 ...こんなん笑うなって言う方が無理でしょ。

 我慢の限界、近い...

「なー、返事しなよヒョロヒョロくん」

「おい、もしかしてお前が怖いから、『どうぞ、連れていってください』ても言えないんじゃないのか?ギャハハ!!」

「確かになぁ!ごめんな?ヒョロヒョロくん。俺が怖くて!」

 盛大に煽りに来てるが...

 奴らのやりとりが面白すぎてそれどころじゃない。

 ちなみに奴らが連れ去ろうとしてる2人を見てみると...

 あ、王女様立ったまま気絶してる。

 その才能羨ましいことや...

 シハルは...盛大にブチギレていらっしゃる。

 なんか後ろに龍が見える...シハル自身何かオーラを纏ってるように見えるんだが、こいつら気づいてないのか...?

 ああ、こいつら、俺を格好のおもちゃにして、精神的にも身体的にもボコボコにしてから、シハルと王女様とあれこれしたいのか...

 なんかバカすぎてもう笑いが抑えられないって。

「ヒョロヒョロくん、そろそろ返事してくれないと、俺たち強硬手段に出ちゃうヨォ?」

 なんかめんどくさくなりそうなので、ここは早々に逃げることにした。「シハルさん、程々にやっておしまい!!」と言わんばかりのアイコンタクトをシハルに向ける。その目線を感じてシハルが、「やっていいの?」と言いたげな表情をする。そこで俺が「程々ならよし!」と言いたげな表情を送ると、シハルが修羅となった。

「ーーーー....」

 とても小さい声で詠唱しているが、魔法の素人の俺でもわかるくらい、その魔法はとても精密に発動しようとされていた。

「氷結」

 シハルがそう唱えると、奴らの足元が凍った。

「お、おい!てめっ、何しやがったっ!!」

「あ、兄貴!足が凍らされてます!」

「そんなんわかってんだよ!おい、お前、待て!まだ話は終わってねぇぞ!」

「あ、兄貴!...」

「...!.........!」

 だんだん遠くなり聞こえなくなる声を尻目に、俺たちはゆっくりと宿に向かっていった。しかし...ちょっと気になるな。




 翌朝。

「兄貴、ここであってるんですか?」

「ああ、偶然ここに入っていく昨日の嬢ちゃんらを見つけたからな。お前ら、わかってるな?」

「はい!ヒョロ男をぶちのめして、嬢ちゃんたちを連れていくんですよね!」

「ばっ、大声で喋るな!いいか、作戦はさっき言った通りだ。あいつらを嫁にしたいなら...この作戦、本気でやれよ!!」

『おおっ!!』

「へぇ、つまり俺はここで死ねと?」

「ああ、そうだ。おまえみたいなヒョロヒョロくんが美少女を侍らすなんて、羨...ま.......し.........」

「そうかそうか」

 俺はにっこりと笑う。

 奴らは一気に戦慄した。

「お前、なぜここに!?」

「なんでって、君ら、気配丸出しじゃないか。これで隠れてるなんて、笑わせないでくれよ」

「はぁ?!」

 意味わかんねぇよ!!と顔で言っている。

 まあ、これくらいの気配を悟れないくらいじゃ、あの時代は生きていけなかったからな...

 過去の感傷に浸っている場合じゃない。

 目の前のゴミをなんとかしないと。

「さて、いろいろ聞きたいこともあるが...ここは街中だし、目立たないところへ行こう」

 指をぱちっと鳴らす。

 その次、景色は街中の裏路地から森の中へ切り替わった。

 男たちは驚愕する。

「な...まさか転移魔法か!?しかも無詠唱!!?」

「いやぁ、独学では苦労したよ。でも意外となんとかなるもんだね」

 そう。この男、今まで習得した魔法は全部独学で習得したのだ!!

 普通に考えたらありえないことなのだが。

 だが、この男、須藤凪は親からあらゆる武術を叩き込まれる過程で、途方もない訓練量を課された。

 そんなことに比べれば、魔法の開発など凪にとっては屁でもないのである!!

 ちなみに本人はその訓練の内容については黙秘している模様。

 そんな脳内で響く誰かの声なぞ気にせずに。

 目の前の奴らを処す。

「さあて...君たち、首を斬られた後、どうなるかわかる?」

「知らねぇよ」

「そうか...じゃあ、今から思い知らせてあげよう」

 凪の目から光が消えた。

 そして次の瞬間、部下の1人が悲鳴と共に、首が地面に落ちた。

 そして、凪の姿が見えない。

 そんな中で、次々と部下の首が斬り飛ばされていく。

 無惨な悲鳴の中で、部下は「なんで首が斬られてるのに死なねぇんだぁぁぁぁぁ!!」と痛みに苦しみながら精一杯言った。そこでやっと手を出してはいけないやつに手を出したと頭領は後悔し出したが一歩遅かった。

 首を斬り飛ばされ、激痛と共に恨言こんげんの嵐を凪に放つが、凪はどこ吹く風だった。

「さっ、いい仕事したね。戻るとしようか、2人が待ってる」

 大声で聞こえるように言い、後ろを振り返ると俺を思い切り殺意マシマシの目で睨んでくる。それを「はっ、ザマーミロ!」と思いっきり言ってやり、転移で宿に戻った。


「どこ行ってたの?ナギ?」

「いやぁ、ちょっと街の清掃に行っててね」

「何それ?」

 2人の疑問を軽く流した後、3人はギルドへ向かった。

 そこで奇妙な出会いがあるのは、また次の話。





 一方、放置されたゴロツキたちはと言うと...

「いてぇぇぇ!!あのやろおぉぉぉ!!次あったらぜってぇぶっ殺してやる!!いてぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 首を斬られた痛みに苛まれながら罵詈雑言を吐いていた。

 しかし。

 パキッと、枝が折れる音がする。

 何者かと頭領の意識は向いたが...

 それは、フォレストウルフだった。

 それを見た瞬間、彼らの顔は絶望に染まった。

「あ....ああ...」

「や...やめ...」

 そのあと、森中に彼らの声にならない悲鳴が轟いたのだが、誰1人として耳に入ることはなかった。

 しばらくして満足げなフォレストウルフたちは、森の中へと帰っていった。

 すると、頭領一味がいた場所に謎の人物が現れる。

「やっぱりあいつらじゃ無理か。というか、あいつら、付き添いの女に目が向いたな...?あの野郎、地獄でも覚えてろよ」

 そう言うと、謎の人物は森の中へと消えていった。

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