一章 ネプラスで

第6話 魔族の街

「おお、街が見えてきたぞ」

 王女様との話から数日。

 ようやく、山の裏に街の明るみが見えてきた。

 そう、山の裏に、だ。

 俺の言葉に王女様は背筋を凍らせていたが、まだつかないことにホッとしていた。

 対するシハルは、これから本格的に魔族領に入るため、人に迫害されないことにホッとしているのか、はたまた自分の親に会いに行けることに嬉しくなっているのか、その真意はわからないが、とにかく嬉しそうだった。まぁ、いいことなのだが。

 俺たちはネプラスに入る前の最後の野宿をとった。次の日で山を越え、ネプラスに入る。そこで...

「なにをしたらいいんだ...」

 よくよく考えると、俺は某王国から拝借した本を大量に持っている。そのため、人間世界についてのことしか書いていない。魔族については、やれ人を食うから危ないだの、同族で殺し合っているとても危ない種族だの、文化を持たない知性のない生き物だの言いたい放題だった。こういうところは全く参考にならなかった。まあ、人間と敵対した俺に悪いところもあるが...この本を見ても分かるように、人間は完全に魔族を敵対視している。そんな魔族たちが暮らす街に、これから入る。そして、俺と王女様は人間。

 これ、何かする以前に一目見た瞬間に敵対されないか?

 うーん...

 これは作戦Nだな。

「王女様、失礼します」

「え、何、何するの?近づかないで!!そんな顔で近づかないで!!」

「そういうわけにはいきません。作戦なので」

「どういう作戦なのよぉぉぉぉぉ!!!」

 王女様の声が山中に轟いた瞬間であった。



 ー数時間後。

 ネプラス東門検問所にて...

「おい、そこ、止まれ!」

「...」

「お前たち、どうして『フード』をかぶっている?」

「...俺たちは人間の国から逃げてきました。その時に、種族の象徴である耳を切り取られてしまい...人間と勘違いさせないためにも、こうして頭部を隠してきたのです」

「そうか...聞いてしまってすまなかったな」

「いえ、大丈夫です」

 そう。

 これが俺たちの作戦、『人間領から逃げてきた哀れな魔族奴隷作戦』だ。

 まぁ、バレるのも時間の問題だと思うが...その辺は後でなんとかしよう。

「それでは、身分証明を...いや、持ってないのか。よし、こっちに来い。俺の権限で無料で再発行してやる」

「いいんですか?ありがとうございます!」

 ふふふ、順調順調。

 順調すぎて怖いくらいだ。

「それでは、フードをとってくれ」

 フードをとる。

「...本当に、お前たち、よく頑張った。ここにきたからにはもう安心しろ。お前たちを虐げる人間はここには一匹もいないからな」

 門番の人がそういう。

「わかりました...」

 俺たちは感謝気味にそう言い、身分証明の発行をしてもらった。


「これの使い方はわかるか?」

「いえ...どうやって使えば...」

「そうか、わかった。これは身分証明と言って、大体これを掲示すればどんなことでも解決できる。買い物でも、検問所の時でも、これを掲示すればものだって買えるし、街にも入れる。だから、無くしたりするんじゃない。特に、お前たち2人。耳を切り取られてるせいでほぼ人間と似つかわない姿をしているから俺みたいに勘違いする輩が必ず出るから、絶対無くすんじゃないぞ?あ、お前らのことについては俺が広めておくから安心してくれよな」

「ありがとうございます...!!」

 本当に何から何まで、色々世話になった。

 騙してるこっちが心を痛めるほどに。

 しかし、どうやって広めるんだ?

「宿は俺の名で紹介しておくから安心しろ。身分証明を出したらすぐに部屋に通してくれるはずだ」

 いや、この門番さん、顔が広いってレベルじゃねぇかも...

 一体何をしたらそんなに人脈が広くなるんだ...?

 全てが終わった後に、その方法を伝授してもらおう。

 そう決心した俺であった。


 そうして、優しい優しい門番さんのおかげで、宿だけでなく、俺たちの身分証明まで手に入れてしまった。その門番さんが「お前ら、その様子じゃこの街は初めてだろ?地図渡してやるから、それを見ながら観光でもしてな」と半ば強引に地図を渡されたが、なかなか具体的だった。そして、なんか手紙も入ってた。おおかた、怪しまれるであろう俺たちを心配した門番さんの紹介の手紙なのだろう。本当に、優しい門番さんだ。俺たちを検査する門番があの人で色々な意味でよかった。そう思いながら、俺たちは紹介された宿へと向かっていった。








 宿に着いた。

 やはり話が来てたのか、すぐに部屋に案内された。

 3人部屋一つ。まあまあだ。

 さて、作戦会議、といきたいところだが...

 あの門番曰く「金稼ぎたいなら探索者になることを勧めるぜ。この街の地図のここらあたりにギルドがあるから、そこで身分証明を掲示、目的を言って指定料金を払えば登録完了だ」と言っていた。金がないと何もできないのはどこへいっても同じなので、俺たちは門番にもらったなけなしのお金をもってギルドに行った。

 ギルドに入ると、中は意外と活気あふれていた。

 様々な種族が酒を交わし、クエストを受け、ボロボロになりながら帰ってくるパーティーもいれば、全員で肩を組みながらクエスト完了報告をするパーティーもいる。

まさに千差万別という言葉が似合う場所だ。

「さあ、俺らも登録をしに行こう」

 様子を眺めた俺たちは、探索者登録受付に向かう。

「こんにちは、登録ですか?」

「はい。人数は俺と後ろの2人を合わせて3人です」

「わかりました。では、身分証明をこちらに出してください。後、探索者になる目的をこちらの用紙に記入していただいて、1人1000ギル、合わせて3000ギル出していただければ登録完了ですね」

 受付嬢の言うとおりにし、滞りなく探索者登録は終わった。

「はい、これで今日からあなたたちは探索者です。ちなみに探索者にはランクが存在し、あなたたちは最低ランクのBランクですね」

「ちなみに、ランクはどのようになっているのですか?」

「はい。ランクは低い順にB、G、H、P、R、O、Y、S、SGランクで分かれています。ランク昇格はRランクまでは自由に可能ですが、Oランク昇格からは月一で行われるギルド会議で厳正に審査されて問題ないとされた後、昇格依頼を受けてそれを達成したらランク昇格とみなされます。それでは、こちらが探索者証明です。身分証明の代わりにもなるので、無くさないでくださいね?」

 受付嬢の急な冷たい視線に心臓がやられかけた。

 あぶねぇ。

 無くさないようにしないと...

「それでは、こちらがBランク時点で受けられる依頼です。お好きなものを好きなだけするのもよし、依頼を一つだけやってその日は帰るのもよし。どの依頼をどれくらいの数受けるかはあなたたち次第です」

 ふむ。

 それなら...

「では、これを頼めますか?」

「わかりました。何回受注しますか?」

「ああ、ざっと50回くらいで頼む」

「わかりました。それでは期限は五日後の正午です。頑張ってくださいね〜」

 なんの依頼を受けたか。

 それは魔物の討伐依頼。

 フォレストウルフの討伐である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る