第5話 お話

 王女の魔物嫌いは相当なもので、攻撃しなければ襲ってこないクグマの魔物ですらパニックに陥り、勝手に攻撃する。流石にちょっと深刻なので、なんとかしたいところなのだが...

「王女様...ここまで嫌いなら、元の国に戻った方がよろしいのでは?」

「いやよあんなゴミ溜め!!エルフとかドワーフみたいな人に似た外見を持つ種族をゴミみたいに扱うゴミがいっぱい...私の側近だってそう!一番親しかった私の親友でさえも!エルフをゴミのように扱って、失敗した時は嬲りに嬲って、楽しんだ後に殺してた!!あんなところで私の一生を汚されてたまるもんですか!」

 俺たちについてきた理由がわかった気がする。

「俺たちについてきた理由はわかりました。ですが、魔物嫌いも少しは抑えてください。出ないと、無駄な体力を使うことになりますよ」

「わ、わかってるわょっ....きゃぁぁぁ魔物ぉぉぉぉ!!!!」

 言った側からこれだ。

「はぁ...」

 ため息が止まらない。

 シハルも、指摘してくれると嬉しかったのだが、黙々と王女様が連れてきた魔物を倒していくだけで、会話もクソもなかったよ...

「あのー...シハル?」

「...」

「き、今日はいい天気だね...」

「...」

「今日だけで何匹魔物を狩ったの?」

「...」

「その...精霊魔法の使い方とか...」

「...」

 無言。

 清々しいほどにシカトされている。

 俺、シハルに対して何かしたっけ...

 何も尊厳を傷つけるようなことはしてないよな...?



 シハルは無視こそしているが、シカトしているわけではない。

 むしろ、何を言ったらいいのかよくわからなかった。

 なぜかというと。

(はわわ...かっこいい...ナギさん、かっこよすぎます...)

 凪にほの字だった。

 凪にバレないようにその気持ちは顔に出ないようにしているが、たまにトリップしそうになる。

 凪はシハルの白馬の王子様に当たる存在なのだ。

 女性なら誰しもが憧れる、ピンチの時に自分を助けにきてくれる存在。

 そんな存在がいたら惚れるに決まっている...だろう。

 とにかく。

 シハルは凪に恋心を抱いている。

 そのおかげで、凪と会話しようとするとうまく言葉が口から出てこないのだ。

 それがシハルが凪の言葉をシカトしている原因である。




 王女様は魔物嫌いが深刻すぎて、魔物がいる時は逃げ惑う小動物になり、会話にならない。シハルは俺が話しかけても無視、彼女から話しかけることはほとんどない。

 ...

 あれ?

 これ、早急にコミュニケーション取っていかないと大変なことになるんじゃね?

 そう思うのも山々。

 しかし、彼女たちの状態を考えても、とても簡単にいくとは思えない。

 とりあえず、非常時以外はおとなしい王女様からコミュニケーションを取ってくか...


 その日の夜。

 某国からの逃亡も一週間が経とうとしている。

 俺はシハルが寝ていて、王女様が起きていることを確認し、王女様の元へと向かった。

「王女様、少しお話ししませんか?」

「は、あ、は、はいぃ...」

 いくらなんでも驚きすぎだろ。

 その言葉は胸の内にしまった。

「王女様、僕が召喚される以前は、どんな暮らしを?」

「...」

 しばらく黙った後、口を開いた。

「...生まれてしばらくは、とても愛情を込められて育ててこられたのは真実です。ですが、大きくなるに連れて...それが歪んだ思想を押し付ける愛情のような何かだと気づき始めました。無論、そんな思想には耳をかしませんでしたが...周りも人間至上主義思想を持ち合わせているようだったので、味方がいませんでしたの」

 相当な環境にいたようだ。

「そんな堅苦しい環境に耐え続けた結果、父上の命令であなたを召喚し、そして、あなたの反応を見て、あなたについていくと決めたのです」

 ...

 詳しい理由がわかって、俺の心に引っ掛かっていたものが取れた気がする。

「私の過去は話しました。次はあなたの番ですよ」

「お、俺も話さないといけないですか...正直とても人に聞かせられるような内容ではないですよ...」

「私の話も人に聞かせられるようなものではないです」

 そう言われると、話すしかない。

「...どこから話しましょうか」

 どこから話すべきか。

 現代日本にいた時から?

 戦国日本に落ちた時から?

 ...決めた。

「俺は「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」...空気読んでくれよ」

 俺にとってはいいタイミングで魔物が現れてくれた。

 しかし、だ。

「王女様」

「ナギさん!助けてください!助けてくださいよぅ!!」

「王女様」

「ナ ギ さ ん !早くあの魔物を討伐してぇぇぇぇ!!!!」

「王女様、そんなに抱きつかれると、視界が埋まって何も見えません」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!こないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 王女様はそれはもう俺の頭を潰すほどの力で俺の頭に抱きついていた。そのおかげで、俺の視界には夢の世界が...

 ...煩悩滅殺、精神統一。

 今は欲にまみれている場合ではない。

 というか寒気がした。

 もしかしたら結依が見ているかもしれないな...

 それよりも。

「王女様、知っていますか?」

「なななななにをですかぁぁぁぁぁぁぁ?!」

「剣は極めると...鞘から抜く必要すらいらないんですよ」

 その言葉の通り。

 俺は鞘から剣を抜くことなく、魔物を斬り殺した。

「さて、もう遅いです。王女様も寝てください」

 俺は寝床に向かった。

 ちなみに、王女様はその日は俺が披露した技が理解できず、ずっと頭にハテナが残った状態だったせいで一睡もできなかったらしい。

 ...大丈夫だろうか...







 ネプラスにて...



「おい!お前は本当に魔族か?」

「冗談じゃねぇ!この角が見えねぇのか!」

「怪しいな...身分証明はあるのか!」

「ああ...この通りだ」

「...ならよし」

「ああ...」

 魔族の検問所を通り過ぎる。

「事あるごとに難癖つけやがって...俺が魔人だからなのか...?」

 魔人である男は、不快そうに人混みの中に消えていった。

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