第4話 なぜ?

「...」

 考え込んでいた。

 レーゼ王女ではなく、シハルを?なぜ?

 色々な推測を思い浮かべたが、どれもピンとこない。

 シハルたちに聞いたとしても、怖がらせるだけで回答は得られやしないだろう。

 そういうことで、この事実は俺の胸の内にしまっておくことにした。

 気づけば日の光が見え始めていた。

 昨日首だけにした暗殺者たちは今頃森の魔物たちの腹の中だろう。

 俺の魔法は1日ほど続くので、明日までは気が狂うほどの痛みに包まれるのか。我ながら恐ろしい魔法をかけてしまったものだ。

 さて、朝の鍛錬をして、王女たちの元に向かうとしよう。

 朝飯の素材を集めてね。



 数時間後。

 王女たちが目を覚まし、ご飯を食べている。

 今日ここから出立し、ネプラスに向かう。

「そういえば君たち、何か得意な魔法、または体術はないのか?」

 仮に魔物と相対した場合、多少は俺で問題ないのだが、2人を付け狙うアホ猿がいる可能性がある。その時、自衛くらいはしてもらわないと、俺の手間が増えるし、下手に援助をすると逆にさっきまで相手してた奴から痛手をもらいかねない。そういう意味でも、彼女たちに何か自衛の手段を聞く必要があった。

「私は保択魔法が得意ですね」

 王女がそう言った。保択魔法...

 ちょっと心許ないな。

 シハルに期待しよう。

「私は、精霊魔法です...」

 精霊魔法。

 某国から逃げる時に図書館に立ち寄り少々本を恵んでもらったので、簡単な知識ならある。ちなみに俺が魔法を使えるようになったのもこれのおかげである。

 精霊魔法とは、精霊を使役し、様々な系統の魔法を放つ。

 魔法にはいくつかの種類があり、それぞれ保択、攻缶、援助、減益、快夏の五系統、さらに発動の難しさに応じて最大第十段階までのグレードがある。精霊魔法のメリットとしては基本的には普通の魔法より早く魔法が打てること、そして運が良ければ少量の魔力で高グレードの魔法を放つことができる。高位の精霊に気に入られればの話だが。

 シハルが使役する精霊は、保択、攻缶、援助、減益、快夏全て。まさかのオールラウンダーだっだ。

 ...

 よし。

「王女様、ちなみに他の系統の魔法は使えますか?」

「は、はい。攻缶魔法を少し...」

「ではそれを今から練習しましょう」

「へ?今から?」

「はい。今からです」

「?それってどういう『ピー!!』な、なんですか今の音は...」

 言葉を遮るほどの甲高い俺の口笛の影響のせいか、一匹引っかかった。よし。

「それでは俺が惹きつけるので、王女様は魔法の準備をお願いします」

「??」

 ますます疑問が隠せない王女様。しかし、藪から現れたそいつを見て、やっと理解したらしい。

「まままま魔物ですよ!早く討伐してくださいな!」

「何言ってるんですか王女様!決めるのは王女様ですよ!」

「むむむむ無理に決まってるではありませんかぁ!!」

 シハルの後ろに隠れ込む王女様。

 わざと苦戦しているが、それでもシハルの後ろで怯えている。

 うーん、そもそも魔物嫌いかもしれない...

 今はダメか。

 俺は猪の魔物を瞬殺した。もちろん首を切り落として。食料にするためである。

 魔物化した動物は肉質が変化するが、特殊な魔法を用いれば肉質を元に戻すことができる。そんなことができるのは思い至らない限り俺1人となるのだが。

「王女様、今すぐできるようになれとはいいません。ですが、時間をかけて、できるようにしてください。俺は王女様方に自衛できる手段を提供したいだけなのです」

「で、でも...魔物は怖いです....」

「それも含めて、です。時間をかけて慣れていきましょう。というかこの先魔物だらけですよ」

「ええ?!」

「そりゃそうですよ、魔族領なんですから」

 王女の顔から色がますます落ちていく一方であった。

「嫌だ連れてかないでぇぇぇぇぇ!!」

 およそ王女とは呼べない形相で、俺たちが進む方向とは真反対に進む。が。

「ダメですよ王女様、この森魔物だらけですから何が起きるか分かりませんよ」

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 パニック状態の王女様を引き摺りながら、俺たちは最初の目的地、ネプラスに向けて進んでいった。












 一方、某国。

 召喚された川西と結依は何が起きたか理解していなかった。

「ここは...」

 周りには何やら何かの成功を喜ぶ人たち。

 そしてレンガ造りの壁。その壁にかかる松明。

 足元を見ると訳のわからない模様が書かれている。

 川西は一つの結論に行き着いた。

「ここは...異世界か...?」

 もし異世界なのだとしたら、それは川西にとっては夢が叶ったと言っても過言ではない。

 しかし。

 問題はここから。

 召喚されたのはなぜか。

 というかそもそも隣の女は誰なのか。

 考えるだけで問題が満載だった。

 しかし召喚者とは関係なしに男たちの話し声は続く。

「しかし2人とは...どちらが真の聖剣の主なんだ?」

「いや、わからん...」

「もし男が偽の主だったら...殺すか。そして女が偽だったら...なぁ?」

「ああ...」

 2人にとっては、どちらにせよ地獄のような会話だった。しかし、すぐにその会話は遮られた。

「遅くなり、申し訳ありません」

 1人の女性が、2人に近づいてきた。

「私は、レーゼ=ラ=ルビウス、この国第一王女です。私は召喚に応じてくださった感謝と、謝罪を申し上げにまいりました」

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