第3話 奇跡の子

 朝食後。

 エルフも王女も、素直に俺の飯を食べてくれた。良かった。

 だがエルフの方は、食べるまでの方が苦労した。

 なんの「私にはこんな豪華なご飯は食べれません」だの「ご主人様方のお席を汚すわけには...」だの言ってたので、全部否定してありのままでいろと言って、その後に命令としてその飯を食えと言ってようやく口をつけてくれた。それで、口にしてしばらくすると、泣き出した。当然だが、どれだけあの国で酷い仕打ちを受けたのか。それがよくわかる場面だった。

 エルフが落ち着いて食べ終えた後、現状を共有しようとしたが...あれ、エルフの名前、聞いてねぇな...と思い、聞いてみる。

「そういえば、君、名前は?」

「名前は...ないです...ただ、1番としか...」

 ...

 どこまで腐っているのか、よく見てみたいものだ。

 もはや物として扱っているとは、人間とは呼べない何か。

 この世界はいったい...

「名前はないのですか...」

 王女も嘆いてはいるが、そこまで天然ではなさそうで良かった。

 ここで「かわいそうに」なんて声をかけてたら、きっと人への嫌悪感がさらに増していただろう。そうしたら俺の計画が一瞬にして瓦解してしまう。

 しかし、外見からしておそらく...もう遅かったのだろう。

 お偉方達の慰み者として酷使し続けられ、飽きられ、捨てられた。

 しかし国王はそのボロ雑巾をひどく気に入って拾い上げたが、またすぐに飽きられた。

 そこでちょうど聖剣の主である俺が召喚されたから、火蓋を切る用として、選ばれた。

 だいたいこんな感じだろうか。

 王国内での扱いを見るに、こうとしか考えられない。


 新しく名前をつけることにした。

 年頃の少女で、体に変化が現れ始めている頃。

 これは、元いた世界の成長期に現れる子どもの変化の名前を使って...

「シハル...なんてどうだ?」

 俺の頭をフル稼働させて出した案だ。

 これを蹴られたら実に三日ぐらいは萎えてしまいそうだが...

「その名前...使っても...いいの...?」

 シハルがそう問いかけてくる。

 返す言葉は決まっている。

「もちろんさ」

「...私は...これから...シハルと名乗らせていただきます...」

 恥ずかしながらも、名前をもらえて感動しているシハル。

 そして...

「これからよろしくお願いしますね!シハルさん!」

「あっ」

 レーゼ王女がシハルに抱きついた。

 シハルは突然抱きついてきたレーゼ王女にひどく困惑している様子だ。

「お、王女様!」

 シハルは思いっきり慌てているが、レーゼ王女はどこ吹く風だった。

「街に着いたらどうしましょう...まずは服を買って、それから...」

 ...

 なんか男の根性を見せないといけない話をしている。

 覚悟を決めよう...

「王女様!!」

 シハルがレーゼ王女に気付いてもらうべく何度も名前を呼んでいたが、今のでようやく気付いてもらえたらしい。

 レーゼ王女、周りに気づかなすぎ...

 これは買い物の時一緒についていかないと、どこかへ消えてしまうな...

 しかし、ついていくと俺は二日くらい昏睡するかもしれない...

 俺は、究極の選択に頭を悩ませながら、2人の会話を聞いていった...


 数時間後、昼過ぎ。

 ようやく彼女たちの会話が終わった。

 果てしなく長かった...慣れてたけども。

 慣れてたんだが、この数時間は長く感じた。

 さて、2人の会話中に俺は次の目的地を決めていたので、2人に話す。

「さて、2人が話している間に次の目的地を決めた。目的地はここ」

 地図を指差す。

「魔族領の街、魔族戦線の目と鼻の先の場所、ネプラスだ」

 まずは情報収集。

「ここで物資を整えて、最終目的地である魔都サンマスに向けて進むぞ」

「「はい」」

 俺たちの目的地が決まった。

 あとは俺の精神と体力を極限まで鍛えるだけだ。





 その夜。

 俺は深い眠りについた2人を後目に、森の中を歩いて行った。空を見上げると、綺麗な星空が広がっているが、俺がいた世界とは違う星空だ。いまがいつ、何時なのかは分かりやしない。だがしかし。

「殺気をダダ漏れにしているのは、暗殺者としては失格だな。俺の知ってる子供よりも下だぞ?」

 1人の首を切り捨てながら挑発気味に言い放つ。

 誰を狙っているのかはもうわかるのだが、目的を吐くまでは死んでも死なせやしない。現に首を切られた暗殺者は、

「ぎゃぁぁ!なぜだ!なぜ首を切られているのに死なないのだ!」

 と喚いていた。ちなみに痛みもセットでついてくるお得な特典付きだ。

「さて、こうなりたい奴はいくらでもかかってくるといい」

『ほざけ!』

 もれなく全員かかってきた。

 久しぶりの運動としよう。


 一瞬で終わった。

 手応えのない奴らだった。

 もれなく全員喋る頭となり、気が狂うほどの痛みを永遠と味わい続けるだろう。

 なぜ死なないのかは、魔法を使ったからだ。

「独学でもなんとかなるもんだな」

 まあ、まだまだ未熟なのは違いないが。

 しかし、奴らの目的...

「おい。これは本当か?」

「ま、間違いない。俺らは陛下にただ奪い去ってこいと...」

 奴らの目的には耳を疑った。俺は完全に俺とシハルを殺して王女を連れ戻せとでもいうと思ったが...

 奴らの目的。それは...

『王女と聖剣の主を殺し、エルフを奪い去れ」

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