第2話 始まる戦い

 国王の首を跳ね飛ばした後、この部屋の時は止まった。

 それは国王の首が床についた後、動き出す。

「ご、護衛!奴を捕えろ!」

 宰相がそういうと、護衛たちが俺に取っ組みがかる。が...

「甘い」

 聖剣一振りで、数人の胴と足を切り分けた。

 とりあえず、ここから脱出だ。

 エルフは一緒に連れ出す。

 レーゼ王女も、場合によっては連れ出したほうがよさそうだ。

 俺はエルフに近づき、問う。

「お前は生きたいか?」

 エルフはしばらく沈黙し、そして涙を流しながら言った。

「生き...た...い...」

「よし、分かった」

 エルフを抱き、立ち上がる。護衛を振り払い、今度は王女の元へと飛ぶ。

「王女様、今のを見て、王国について行きますか?それとも、私について行きますか?」

 時間がないので結論を急かすように質問する。

 王女は迷うことなく、

「あなたについて行きます」

 と言った。

 王女がまともな人間で良かったと思う。

「それでは失礼」

「きゃっ?!」

 俺はエルフと王女2人を抱き抱え、王城を後にする。

 人外みたいな実力持つ人材をこの国が持ってなかったのが幸いだった。

 ちなみに残された宰相たちはというと...

「奴を追え!そして、国王を殺し、王女を攫い、奴隷を庇った国賊に極刑を下すのだ!」

 こうして俺は晴れて、人間全員を敵に回したのだった。



 魔族領内。

 地図は道ゆく途中でもらい、その通りに進んだ。

 そして現在。奴隷エルフと王女を安静にさせ、焚き火を焚きながら俺は考えていた。

 この世界は、人間にとって都合のいいように変えられている。

 まるで人間が魔族のようだ。

 逃げる道中、魔物を奴隷にして、まるで道具のような扱いをする人間が多数いた。

 腹立たしいが、それら全員に手を出すとなるとキリがない。

 我慢するしかないと思って、俺は逃げ続けた。

 そして、魔族。

 これから目にする魔族たちは、いったいどのような生活をしているのだろうか...

 とにもかくにも、俺は魔族の長に会わないといけないと思っている。

 しかし。

 魔族の長が、人間である俺と王女を受け入れてくれるだろうか?

 敵だと言って、俺たちを迎撃してこないだろうか?

 懸念することはたくさんある。

 だが、それらは一気に解決することはできない。

「...一つずつ、解決していかないとな」

 しかし、だ。

 このとても居心地の悪い世界...

「たまったもんじゃねぇな」




「ん...ぅ」

 あれ?私は...

「こ...こは...」

 私、確か召喚者の人に...

「はっ?!召喚者の方...は...」

 近くを見ると、召喚者の方は見張りをされているようです。

 私たちが寝てる間も、私たちを守ってくださったらしい。

「ん?起きたか」

 召喚者の方が近づいてきます。そういえば、名前を聞いてませんでした...

「今聞くべきじゃないと思うのですが、その...お名前の方を...」

「ん、ああ、名前か。須藤凪だ。ナギって呼んでくれればいいよ」

「な、ナギ様ですね!そう呼ばせていただきますわっ!!」

「あ、ああ...?!」

 殺気。

 戦国の世で戦時、ずっと感じ続けていたからか、この世界でも殺気を感じ取れる。

「レーゼ王女、隠れてください。野獣です...」

「わ、わかりましたわ...」

 この世界に来て、おそらく初めての戦い。

「じゃあ、腕試しと行きますか」

 やはり、事前に己の戦闘技術については理解しておく必要がある。

 まずは動き。

 おそらく藪から突っ込んできそうなので、猪か何かだろうと思っていたら、案の定だった。

 俺は身軽にその突進を避けた。この程度なら簡単に避けられそうだ。

「次は剣捌きかな」

 今度は突進してくる猪に三太刀お見舞いしてやった。これも見事に全部命中。これなら安心して剣は振えそうだ。




 朝になった。

 俺は牡丹スープを作りながらエルフとレーゼ王女の目が覚めるのを待っていた。その傍ら、色々思案を重ねていた。

 この先、どう生きていくか。

 エルフと王女をどう守りながら魔族の長に辿り着くか。

 仮に魔族の長のいる街についたとして、俺と王女の存在をどう弁明すればいいか。

 そして、交渉が決裂した場合、逃げる場所はあるのか、はたまた世界に打ち勝てる算段はあるのか、あるいは生き延びる方法はあるのか。

 考え出したらキリがないが、俺は2人の命を背負ったのだ。

 守らなければ意味がない。

 考え、考え続けていくうちにいつの間にかーー

「ぉあっ、スープ焦げる!」

 危なかった。

 後少し遅ければ、悍ましい味に変わり果てていただろう。

 とりあえず、スープはできた。

 あとは、エルフと王女の目覚めを待つだけ。

 ...

 暇だし、素振りでもするか。


 素振り。

 現代日本にいた頃から、親父に毎日やるよう酷く言いつけられ、破ればそれは言いたくもない苦行をさせられた。

 毎日素振り500回、それを3セット。

 小さい頃は死ぬかと思った。

 しかし、高校生ともなると少ししんどいと思うだけになった。

 戦国の世に放り込まれても、常に続けてきた。

 単純だが、全ての動きに通ずる。


「...499...500...はぁ...」

 3セット目、終わり。

 本来ならここで終わるところだが、少し余裕があるのと、まだエルフと王女が起きていない。

 それなら...仮想戦でもするか。

「...」

 まずは目を閉じる。

 視界を暗くし、イメージを作り出す。

 剣道の決勝。

 いつも助っ人として呼び出されては、勝手に出場させられて全国大会優勝が常だった。

 その全国大会決勝で、必ず当たっていた人物、川西。

 俺の、その時のライバルとも呼べる存在。

 それをイメージする。

 ...

 ...

 動いた!

 瞬間、俺と彼の竹刀は当たった。

 しかし、籠手には当たってない。

 再びお見合いの時間が続く。

 俺は、わざと隙を見せた。

 それを待ってたと言わんばかりに彼は恐ろしい速さで胴を打とうとする。が。

 それも俺の策。

 彼の竹刀をはじき、そのまま流れで一撃を入れた。

 仮想戦、終了。

 やはり彼との仮想戦はとてもいいものだと思う。

 さて、エルフと王女も起きたそうだし、そろそろ向こうへ行きますか。











 某国、王都。

「...召喚に成功したのか?」

 魔法陣の中心には、男女がいた。

「...成功らしい」

「やった...」

 そばの魔法師たちは口々に成功を喜んでいたが、男女ーー川西と、結衣

は、今起きていることに警戒をしていた。 

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