第4話 男子部員のはなし④

 彼女が体育館の鍵を返しに事務所へ行っている間に、彼女とアキラの昔の話を聞かせてもらった。

「アイツ教えんの上手でしょ」

「うん、ちゃんと言葉にしてくれるからわかりやすいよ」

「ふふ、私もアイツに教えてもらったからね」

 次期エース候補を教えてた、とは?


 聞けば、二人が進学した中学のバレー部はまともな指導者がいなくてほぼ同好会みたいな様相だったとか。人数だけは足りてたから公式試合には出られたけど当然ながら1回戦負け。せめて1勝くらいはしたいよねっていう緩い目標を立てて、小学校時代の指導者にアドバイスを求めたり、動画を見てこんなのやってみるかと試してみたりと試行錯誤と独学で技術を磨いていったそうだ。


 ただアキラは感覚で覚えるタイプで、動画やアドバイスを見聞きしただけでは理解できないことがあって、そういう時は彼女が実際にやって見せて体重を掛ける部分とか姿勢はどうするかとかポイントを明確にして伝えると、アキラはすぐにコツをつかんでできるようになったそうだ。

 学年が上がってやっとちゃんとした指導者に指導してもらったら、多分アキラの才能が開花したんだと思う。当初の目標だった1勝どころか卒業するまでには県ベスト4まで行ったらしい。漫画みたいなエピソードだけど二人を見ていたら何か納得。


 でも、ここまで聞いたらやっぱり疑問に思う。

「なんでバレーやらないのかな」

 ほとんど独り言だったんだけどアキラはふふっと笑って答えてくれた。

「たぶん未完成なものを完成させるプロセスが好きなんじゃないかな」

 未完成を完成させる…?ウチの女子バレー部もそこそこ強くてある程度完成されてるから興味が持てなかったのかな。でも今日一緒に練習した感じじゃ俺なんかと違って即戦力になるレベルだと思うし遊ばせておくのは勿体ない。てか、使わないならその能力少し分けてくれないかな…などとアホなことを考えていると

「だからキミの練習を手伝ってるんだろうね」

「へ?俺?」

 急にこちらに話が振られて間の抜けた返事になってしまったけど、なんで俺?

「下手っぴだからだよ!」

 笑いながら言われても事実なので別に不快にも思わないけど、今一つ真意が読めなくて呆けた顔をしていたら

「だから、アイツはキミを一人前のプレーヤーにするつもりなんだよ」

 …ええっ!?いや中学時代の話はアキラの才能があってこそだから、凡人の俺なんかに教えたって試合に出られるようになるかも怪しいのに。心底ビックリしていたら

「んー流石に見込みのないヤツを教えたりはしないんじゃない?」

「それに、私の練習相手になってくれるんでしょ?だったらエースくらいにはなってもらわないと」

 ふふんと返されて、ああ、ハイになってた自分がコワイ…。

 折角なのでと連絡先の交換をしている間に彼女が戻ってきたから、アキラとは再会を誓って、彼女とはまた学校でと別れて家路についた。


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