第3話 男子部員のはなし③
『アキラ』
出逢った頃の彼女はあまり無駄な話をしなかった。自主練中は当然バレーのことだけ。だけど、最近は休憩中にたまに自分のことを話してくれるようになった。中学でバレーをしていたことは結構早い段階で教えてくれてその時のエピソードとか、始めたのは小学校からで幼馴染に誘われたとか、その幼馴染がアキラっていうこととか。
アキラはすごく上手で今は遠い県外の強豪校に進学して、いずれはエースと一目置かれているらしい。今回帰省してくるのに合わせて一緒に練習することになって、だったらと俺も誘ってくれたみたいなんだけど、何か、すごく、行きづらい…。
3人いればブロックを入れた練習ができるし、上手いヤツだからきっとプレイの参考になるよと言われて、俺のためを考えてくれているのが分かってすごく嬉しい。
けど、レベルが違い過ぎてアキラの練習にはならないだろうし、何より親しく話す二人を見るのは、何となく嫌だ。でも、一度行くと行ってしまった手前、やっぱり何となく嫌なんで止めますとも言えず、モヤモヤを抱えたまま当日になってしまった。
待ち合わせは市民体育館の前。家からはバスで行くので早めに家を出たらすでに彼女は到着していた。
「迷わず来れた?」
「うん、バスなんて普段乗らないからちょっと緊張した」
他愛のない話をして時間を潰していると、彼女が俺の背後に視線を移して手を振りながら呼びかけた。
「アキラ!」
来た!最初はやっぱりこんにちは?初めまして?とかご挨拶からだよな。固まって振り向けない俺の背後から聞こえてきたのは
「久し振り~!」
…随分声高いんだな。
そっと振り返ると、そこにはジャージ姿の背が高くて髪の短い人物が立っていた。
女性…に見える男性?事前の情報と目の前の事実がうまくかみ合わなくて大混乱をきたしている中、その人物が全てを察してくれた。
「ちょっと、また男だと思われてたんじゃない?いい加減ちゃんと説明しろ」
ペシンと頭をはたかれた彼女は
「あーやっぱり?途中でそんな気はしたんだけど、当日会えばわかると思って」
えー、ウキウキからのモヤモヤは結構落差があってしんどかったんですけど。
それにあなた普段のクールな感じはどこへ…。
「コイツが幼馴染で一緒にバレーをしていた
「よろしく、元相棒です!」
ほっとしたら何だか気が抜けてしまって、あいさつの後そのまま練習を始めたらすぐに二人に見抜かれてしまって「気合い入れろ!」って叱られた。コワイ。でも俺だけのせいじゃないと強く言いたい!
さすが強豪校の次期エースはプレイも洗練されていてテクニックもある。俺なんかじゃ相手にならないけど、ありがたいことに彼女と同様コツやアドバイスを教えてくれる。ただ彼女と違うのは「こうバン!って感じで」とか「ヒューってきてストン」とかで到底凡人の俺には理解が追いつかない。でもそれを彼女がわかるように通訳してくれて、二人が相棒同士であることに大いに納得した。
今までにない濃密な時間を過ごしてかなり気分は高揚していた。お世辞でも次期エースから「伸び代あるよ!」と言ってもらえたらやる気が出ないわけがない。思わず
「もし、また三人で練習することがあるなら、今度はちゃんとアキラの練習相手になれるようになってるよ!」って宣言してた。
いや、ハイになるってコワイ…。
でもアキラは嗤ったりしないで「うん、楽しみにしてる!」って応えてくれた。
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