第2話 男子部員のはなし②

 今日は初めて試合形式の練習に参加させてもらったけど、全然スパイクが決まらなかった。もっともっと練習しないと。スパイクの練習がしたくてトスを上げてくれるヤツを探したけど、みんな早々に帰り支度を始めていて何となく声を掛けられず、結局いつもと同じ一人自主練をするべく先日見つけた秘密の場所に向かった。 誰も使っていないということなのであれ以来遠慮なく使わせてもらっている。


 途中で洗濯籠を抱える彼女を見かけたので声を掛けてみた。

「まだ作業残ってんの?」

「洗濯物干し終わったから今日の仕事は終わり」

 あの場所で初めて出会ってから何度か顔を合わせることがあって、簡単な会話を交わすくらいには親しくなっていた。

「今日も練習?」

「うん。今日全然スパイクが決まらなくて練習したかったんだけど、トス上げてくれるヤツが捕まらなくって…」

 苦笑いで答えると、小首をかしげながら「そう」とつぶやいて鍵閉めてくると行ってしまった。相変わらず素っ気ないけど、人見知りって言ってたから会話ができてるだけで上出来なんだろうな。


 一人でもスパイクの練習はできるけど人と合わせる練習もしたかったんだよな。仕方がないやと一人スパイク練習をしていると後ろから声を掛けられた。振り返るとさっき別れた彼女がカバンを肩に掛けて立っていた。

「あれ?仕事終わって帰ったんじゃないの?」

「うん、もう帰るけど……」

「?」

「練習、手伝おうか?」

「!」

 ビックリしすぎて言ってることを理解するのに数秒かかった。スパイク練習ができる!と理解できた瞬間嬉しさのあまり何だかテンパってしまって

「えっと! それじゃ! ボールを こう…上にポーンって 放り投げてくれたら 助かる!」

 我ながら下手くそな説明にもうちょっとまともな説明しろよとツッコんだら

「トス、上げられるよ」

「へ?」

 ものすごく間の抜けた顔をしていたと思う。いや、バレー経験者だったのか?今までそんな話もそぶりもなかったけど?ビックリが多すぎると人って考えることを止めるのね。それでも辛うじてお願いできた自分を褒めてやりたい。


 ボールが上がるだけでもありがたいのに、彼女はすごく打ちやすいトスを上げてくれた。しかも合間に「ここ直した方が良いかも」とか控えめだけど的確なアドバイスまでくれて、間違いなく俺より上手い。

 なんでバレー部に入らないのかはすごく気になるけど、聞いたら練習に付き合ってもらえなくなるかも知れないから今は黙っておくことにした。


 その日から時間が合えば練習に付き合ってもらっている。スパイクだけではなくサーブもレシーブもまだまだだから、一人で練習するよりもできることが増えてすごく嬉しい。部活で上手くできなくても、今まではへこんでやる気も無くなってたのが、今ではむしろ自主練でできるようになって見せる!ってモチベーションにつながっている。


 そんな充実した日々が続いたある日、スパイク練習が一区切りついて休憩している時に「市民体育館で練習しないか」と誘われた。

 個人で校外練習なんて考えたこともなかったから、未成年が借りられるのか?とかお金がかかるんじゃないか?とか疑問だらけだったけど、彼女は何度か借りたことがあるらしくて、市内に住んでたり市内の学校に通ってたら借りられるし、小さい方の体育館ならそんなにお金もかからないことを教えてくれた。


 初めて経験することに不安もあったけど、ちゃんと監督にも報告するから大丈夫と請け合ってくれたから安心してお誘いを受けることにした。2人で校外で練習かぁとウキウキしていると

「アキラが帰ってくるから一緒に練習しようって話になったんだ。」


 …あれ?










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