とあるバレー部員の話

Ayane

第1話 男子部員のはなし①

 高校男子バレー部に所属する俺は最近楽しみにしていることがある。それは部活終了後の居残り練習だ。


 ウチは強豪とはいえないけどそれなりに強くて部員もそれなりにいる。早く試合に出たくて自主練習をしたいのだけど、体育館は上級生が使っていて下級生はなかなか使わせてもらえない。ならばと体育館の外で練習できる場所を探していた時にその場所を見つけた。


 体育館や部室棟から少し離れた場所で、街灯の明りが届く開けたスペース。しかも木と木の間にネットまで張ってあってサーブやスパイクを打つのにちょうどいい。もしかして誰かが練習に使っているのかも知れないとしばらく様子を見ていたけど、誰も来ないので遠慮なく使わせていただくことにした。


 次の日も秘密の場所に行ってみた。誰かと一緒に行けばスパイクの練習もできるのだけど、何となくしばらくは一人で練習をすることにした。


 1週間くらい経ったある日、何本目かの打ったボールが変なバウンドの仕方をして茂みの中に飛んで行ってしまった。

 辺りは薄暗くて茂みの方は街灯の明りが届かない。慌てて探しに行ったけどなかなか見つからなくて、明日の朝練の前に見つけないとと焦っていたら声を掛けられた。

「これ探してるの?」

 まさか人がいるとは思わず本気でビビった。見ると俺が飛ばしたボールを片手に持った制服姿の女子生徒が立っていた。

「すみません!もしかして当たってしまいましたか?」

 当ててしまったかと慌てて尋ねてみたら

「いや、足元に転がってきただけ」

 素っ気なく返されて、取り敢えずケガさせなくて良かったとボールを受け取りに近づくと、小首をかしげながら尋ねられた。

「自主練してるの?」

「はい。体育館は先輩が使ってて場所がなくて。外でできる場所を探してたらそこの空き地を見つけたんで…。もしかして先輩が使ってたんですか?」

 話し方から上級生だと思って慌てて事実確認と今まで勝手に使っていたことの謝罪をしなければと焦りに焦っていると

「使ってないし先輩じゃないよ」


 ボールを返してもらいながら少し話をすると、同級生で隣のクラスの子で男子バレー部の裏方を手伝ってくれているとか。

 ウチの部にはマネージャーはいなくて、スコアを付けたりドリンク配ったり部員と直接かかわる作業は主に1年や2年がやっている。洗濯とかドリンク作りとかいわゆる雑務をするように言われたことはなかったけど、いつも彼女がやってくれていたんだ。

「えっと、いつも、ありがとう…?」

 なぜか疑問形になってしまった感謝の言葉に「別に」とまた素っ気なく返された。

「最初はマネージャーに誘われたんだけど、大変だし人見知りするから裏方だけ手伝うことで納得してもらった」

 今年から就任した監督に誘われたそうだ。以前の監督はあまり変化を好まない人だったらしいけど、今の監督は良いものは続けて改善が必要なものはガンガン変えていく方針らしい。就任あいさつで1、2年でも有能な奴はどんどん使っていくという宣言から、バレー以外で時間を取られることを避けるためにマネージャーを置こうと考えてくれたようだ。


 そうこうしている内に下校時間が近づいてきたから慌てて帰る準備を始めると、彼女も鍵を返しに行くからと行きかけてふと何かを思い出したように振り向いてつぶやいた。

「ここ、今は誰も使ってないよ」




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