凱旋門の上で(レジーナ視点)
手を引かれてオクシデンス商会から連れ出され、途中で寄り道をしながらも乗合馬車に乗せられてたどり着いたのはゾンネンリヒト凱旋門だった。
ケインの母親の家に行くときに遠目で見た建造物だが、近くで見るととても大きい。
どうやらジョヴァンニとここの門番は知り合いらしく、乗合馬車から降りてきたジョヴァンニは門番に親しげに話しかけられた。
「ジョヴァンニ、連れがいるなんて珍しい。彼女か? しかし、とんでもない
「恋人じゃない。学園の後輩だよ。俺と付き合ってるなんて思われたら彼女が可哀想だ」
「いやいや、顔は地味だがお前さんは男前だろ。屋上で具合が悪くなった婆さんを助けた時の勇姿、今でも覚えてるぜ」
「たまたまオレと婆さんしかいなかったからだ。死なれたら目覚めがわるいだろ。それよりも今日は混んでる?」
「いいや、あいかわらずガラガラだ。二人で10ターラだよ。今はギリギリいい時間だ。2ターラはおまけ。楽しんで」
「ありがとな。カップル全員割り引いてるのは知ってるけど!」
「お前ら恋人じゃないんだろ? だから特別割引だ」
「言ってばあさんと孫だって割引いてるの知ってるぞ!」
ジョヴァンニが軽口を叩きながら門番に10ターラを渡して、レジーナに手を差し出した。
「少し昇りますけど、後悔させませんからついてきてください」
ジョヴァンニに気をつかわれながら凱旋門の中の螺旋階段を登ることしばし。
「すごい……」
凱旋門の屋根の上に出たレジーナは思わず声を漏らした。
風は暖かい外套を着こんでいてもピリピリと冷たいが、ほかのなによりも高い建物の上の空気は澄んでいる。
南西方面には宮殿を中心に放射状に走る街路と整った街並みをみおろし、凱旋門を挟んで北東は、はるか遠くへと延びる街道が続いている。
それらすべてが沈む夕陽の下で照り映えていた。
「おっ、いい時間だった。はい、ここに座って、これどうぞ」
いつのまに用意したのか荷の中から敷物を出して引き、インテリオ式の立ち飲みカフェで買ったサンドイッチを渡される。
「あー、食欲なかったら食べなくてもいいですからね。オレの押し付けなんで。横で失礼しますね」
手の中の包みを開けるほどの食欲もなく逡巡していると、ジョヴァンニはレジーナにそう言って、こちらに遠慮することなく自分の分の包みを開け、細い目をさらに細めてパニーニに齧り付いている。
その様子におずおずと包みを開け、思い切って同じように齧りつくと、チーズとハムの挟まったそれは、ほどよい塩気で食べやすい。
「飲み物もどうぞ」
錫製の小さな水筒を渡されて飲むと冷え切った上にとてつもなく苦いコーヒーでレジーナは咳き込んだ。
「いつもこれを飲んでいたの?」
カフェでジョヴァンニはいつものを二つと頼んでいた。
「目が覚めるでしょ? 熱々のやつが飲みたいんですけど、この寒さだとどうしてもさめちゃうんですよね。チーズも硬くなっちゃうし。でも元が美味いからまあまあ食べやすいしお気に入りなんです。景色が良いスパイスになりますし」
最高の時間ですよ、と指を指されてレジーナは正面、西の方角に顔を向けた。
凱旋門よりも高い建造物はこの新王都にはいくつも存在しない。太陽が街並みのはるか向こう、なだらかな地平線に沈んでいくのが見える。
リベルタの海に沈む夕陽をアレックス達とマストの上で見た記憶に繋がって、レジーナの瞳から涙があふれでた。
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