不撓不屈の恋心(ソフィア視点)

 ソフィアの朝は早い。日の出と共に起きて日課の走り込みや剣の修練をし、学校の予習をして身支度を手短にして食事を寮の食堂で取るのがルーティーンなのだが、ここ最近、走り込みも剣の稽古も止めて代わりに向かい合っているのは件の組紐細工である。

 最初に作っていたものはオリヴェルに取られてしまった。

 彼に渡すつもりは全くなかったし、当然父にあげるつもりもなかった。

 紐に石を通し、細かく紐を組んでいく。

 特別不器用なわけではないが、つい力を込めて紐を引いてしまうため形が歪んでいって綺麗に編み目が揃わない。

 自分の髪と瞳を模した色味で微妙に引きつれて歪んだ組紐細工ははまるで今の自分の心境のようだ。

 最初に作っていたお守りをリアムに渡して、遅きに失した感はあるけれども自分の気持ちを伝えようと思っていた。

 だが、自分がそうする前にアネットがお守りを完成させ、ソフィアの前でリアムに渡した。

 受け取った後、困ったように微笑んだリアムは理由をつけてそれをユルゲンに下賜した。

 そこには穏やかで遠回しだが明確な拒絶があった。

 それにソフィアは、らしくもなく恐れを抱いた。

 男社会で育って来たから、エミーリエと違う意味でアネットが男性の理想として語られているような対象だと知っている。

 品が良くて家事や家政に通じ、おっとりと優しくて社交も気遣い深く過不足なくこなして同性との関係も良好に保つことができ、けっして派手ではないが立ち振る舞いが美しい、知性的だが男の領分を侵さない地味めの美人。

 自分がいたからアネットからの好意を断ったと思いたかった。

 だが、あの夜会のあとからリアムの周りには、彼の愛を得たい女性が群がっている。

 だから、単にアネットすらリアムの基準を満たしていないだけの可能性を見出してしまった。

 そうだとしたら自分にチャンスなどなく、同じようにリアムに優しく耐えがたい拒絶されてしまうのではと思ってしまった。

 色恋に心を揺らすなど自分らしくないと思っていても、初めて自覚したその感情を制御する事はひどく難しくて、あまりにも自分らしくなくてうんざりしてしまう。

 その怯懦を目端の効くオリヴェルは見越したのだろう。

 自らを弱める恋などベルニカの人間にふさわしくない、だから戒めとして没収する、彼にお守りを持って行かれた時、そう叱咤されたような気がした。

 いまだに恋に怯える気持ちはあれど、足踏みし後ろ向きになるのはやめようとソフィアは決意し、寮で一人こっそりとリアムに渡すための組紐細工を組み始めた。

 たとえどんな返答が返ってきてもリアムに自分の気持ちを告げてお守りを渡そう、断られたらその時にもう一度諦めるか粘るか決めようとソフィアは決め、そしてそれを完成させた。

 不格好で、たどたどしくて、それでもリアムへの気持ちを諦めることなどできずに作ったソフィアらしい剣帯護り。

 それを小さな布の袋に入れて、返事をすると心に誓って、制服のポケットにソフィアは押し込んだ。

 だがその気持ちを胸にソフィアが登校すると、そんな事を言える状態ではなくなっていた。

 胃薬の匂いを身体から漂わせたリアムが、ついぞ見なくなっていた胃痛顔でレジーナとテオドールが付き合っているかもしれないと告げたのである。

 瞬間、脳裏にレジーナの保護者達の顔がチラッとして、胃痛知らずのはずの胃がはじめてずくりと違和感を訴えた。


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前作『自由を取り戻した男娼王子は南溟の楽園で不義の騎士と邂逅する』番外編含めて完結しました。第一回ルビーファンタジーに応募中ですのでぜひ応援いただきたくよろしくお願いします。

BL要素を含みますが、NTR王子の主要キャラアレックスを主人公にした復讐と赦しの物語です。

https://kakuyomu.jp/works/16816927863309023748

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