お騒がせ教師(ソフィア視点)

「遅刻じゃないの! バカヴェル!」


「盛り上がっちゃったのは姫サンなのに、俺のせいですかぁ??」


「そもそも喧嘩を売ってくるなって言っているの!」


 制服のスカートを翻して学生会室のドアをノックしたソフィアは、返事を待たずにドアを開けた。


「遅くなってしまい、申し訳ありませんわ!」


「今度から気をつけて。席はここだよ」


 上座に座ったリアムに形ばかり注意を受け、ソフィアは副会長の定席であるリアムの隣に腰を落ち着けた。

 自分達が来るまでの間、お茶と茶菓子が出されて交流が図られていたようだ。

 茶菓子は薔薇のような渦巻型に絞られ焼かれたクッキーにジャムが挟んであるものと、砂糖を振られた食べきりサイズのバケツ型のケーキだ。上にちょこんと飾られたドレンチェリーの赤色が鮮やかで可愛らしい。


「お菓子、とても美味しそうね。お茶をいただけます? オリヴェルとやり合ってたら喉が渇いてしまって」


「あ、殿下ちゃん。やり合ってるっても喧嘩ね、喧嘩!」


 ソフィアの横でこっちじゃないよーと言わんばかりに卑猥なジェスチャーをしながらそう言ったオリヴェルの頭を、ソフィアは立ち上がってためらいなく拳骨で殴りつけた。


「ってえ! 姫サンひどい! いきなり殴るなんて! 一応教師なんだけど! 暴力振るっていいと思っちゃってる?!」


「教師ならば教師らしくなさい! それは言語道断ですわ!」


 そのジェスチャーの意味は、男性陣と意外なことにレジーナも意味がわかっているようで、レジーナは汚物を見る目つきをしている。

 ライモンドとリッツ、それにリアムは険を含んでオリヴェルを睨みつけ、ディオンはどう反応していいか分からないとへの字口でオリヴェルから目を逸らし、ジョヴァンニは呆れ果てたようにため息をついている。

 そして残りの一人、訳がわからないといった顔をしているレジーナではない女子の一年生。たしか会計として入ったロスカスタニエ侯爵令嬢だ。

 リアムが、こほんと誤魔化すように咳払いをしてオリヴェルに強い口調で注意した。


「オリヴェル先生。教師の自覚を持って欲しいのは僕も同意見です。貴方には生徒達を見守る役目があるし、見本になってもらう必要があります。ライモンドを通じて父に報告させていただきますね」


「はーい。さーせん」


「わたくしもお母様に報告しておきます」


「あっ、申し訳ありませんでした! ソフィア様グレイス様案件にするのは勘弁してください。次は野郎だけの時にしますから!」


「反省しろ!! この馬鹿たれが!! 毎日毎日朝から晩まで問題ばかり起こしやがって! お前への説教は他にもある! こっちに来い! ユルゲン、悪いがソフィア嬢に茶を淹れてもらっていいか?」


「了解しました」


「あ、ユルゲン、いいよ。僕がやる」


「ですが……」


「隣の席だから僕が淹れた方が効率がいいでしょう。早く始めたいし」


 着席するとリアムが手慣れた様子でお茶を淹れてくれた。


「ありがとう。リアム」


 駆けつけ一杯とばかり飲み干すと、リアムは察していたとでもいうように、すかさずお茶のおかわりをカップに注いでくれる。


「さて、ソフィアも落ち着いたことだし、始めようか。一堂に会した事だし改めて。今期の学生会会長を務める三年生のリアム・トレヴィラスです。皆の協力がなければ会を正常に運営していくのは難しいので協力して欲しい」


 リアムはそう言って頭を下げると小さく笑って、お互い分かっていると思うけど、と改めて一同を紹介し、二年生のディオンと一年生のレジーナとアネットは三年が卒業した来年度、会の中心になるので特に仲良くするようにと話を締める。

 ソフィアは学生生活も今年で最後だとリアムの話で思い至り、自らの過去と未来に想いを馳せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る