王立学園編
キュステ港にて
「パパ、お仕事頑張ってね。いってらっしゃい」
リアムの療養も解かれ、貴族達の再編が慌ただしく済んで新学期が始まる少し前、キュステ港でリアムとレジーナはアレックスとケインとライモンドとのしばしの別れを惜しんでいた。
彼らは大公領に赴かないと処理できない業務を片付けるためにキュステ港から船に乗ってハンバーへ赴く事になったのだ。
「離れがたいよ。ジーナ。何か必要な物があれば、すぐに手配するように頼んであるからオクシデンス商会にいるハーヴィーにすぐ言いなさい。貴族との付き合いで困ったことがあればデイジーもいるし、学園のことはリアムとソフィアに頼ればいい。私もなるべく早くメルシュでの仕事を終わらせて戻ってくるから」
今だに幼い子供を心配するような態度のアレックスを宥めるようにレジーナが笑う。
「もう、子供じゃないのよ。寮生活も始まるから、早く帰って来ても簡単に会えないでしょ。寮にはソフィアもいるから大丈夫、お仕事に専念して」
去年一年学園に通えなかったリアムとソフィアは留年も検討されたが、追試の結果三年生相当の学力を認められ、無事に本来の学年である最高学年の三年生に進級することができた。
また、今年度の一年生から全ての生徒に学力考査が課せられ、少なからず高位貴族の生徒が落ちた中、レジーナは無事合格して彼女も一年生として入学する事になった。二人はノイメルシュに戻り次第、寮に入り寮生活を始めることになっている。
余談だがテオドールも学力考査に受かり、再び一年生として学校に入学する。
「親にとって、子供はいつまで経っても子供なんだよ。入学式には一度戻ってこれるかな」
未練がましくレジーナの手をずっと握ったままそう言ったアレックスをケインが引き剥がした。
「移動が順当でも海路なら余裕が五日しかないだろ。五日で仕事を片付けるのは無理だ。アレク。どれぐらいの仕事があるのかもわからないんだ。ほら、そろそろ出航しないと潮目が変わって帰ってくるのが1日ずれるぞ」
「行きたくない……リアム! ジーナのことを頼んだぞ! ソフィアにもよーく言っておいてくれ!」
「出来うる限りは。ライは入学式に間に合うように帰ってくるんだっけ?」
「行きは三人で船で行って、帰りは一人陸路で強行軍ですね。まあ俺は行かなくてもいいんですけど、というか、行かないで良くないですか? ケインさんがフィリーベルグにも顔を出せばいいじゃないですか。あんた本家なんだし、公爵閣下なわけですし。お袋に詰められながら、脳筋の爺様と親父に色々分かってもらうのめんどくさすぎて嫌なんですけど! ねえ!」
「俺はアレックスの補佐だ。オトウサマの為に身を粉にして働けよ。我が息子」
「ほんっとたいして歳も変わらないのに息子とか勘弁してくださいよ……」
「え、そうなの?」
「前に言わなかったか? 今は六歳差だな」
「え?」
「ライモンドさん……落ち着きがないんだね」
「レジーナ殿下。この人達と暮らして認識ズレてると思うので言っておきますが、俺の落ち着きが足りないんじゃないですよ。この人がジジくさいだけですからね!」
はぁああああ、と大きな大きなため息をついたライモンドが皆の笑いを誘う。
「じゃあ、行ってきます。入学式は無理でも、必ず戻ってくるから」
その和やかな雰囲気に勇気を借りるかのようにアレックスは不安気にその相貌を瞬かさせると約束するようにレジーナに告げて、ケインと船に乗り込んだ。
甲板を慌ただしく船員が駆け回り、白い帆がぴんと張られて優美な帆船が港を出ていく。
リアムとレジーナはその船影が小さくなるまで見送って、護衛と共に馬車へと戻った。
「子供扱いで嫌になっちゃう」
「レジーナの事をすごく大切にしてるって伝わってくるよ」
頬を膨らませた妹にそう返すと、その冴えたブルーの瞳に翳が落ちる。
「……そうね。そうだといいけど」
「え??」
アレックスがレジーナの事を大切にしている、というのは誰が見ても明らかなのにこの自信のなさはどうしてだろう。
首を傾げるが、レジーナはそれに応える気はないようで外へとその暗い視線を飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます