高貴なる者の責務

「ソフィアァ、言ってる事は全くもって正論だが、そもそもお前ら二人ともその無鉄砲さでテオドールのアパートに突っ込んで危険な目に遭ったのを忘れてないか?」


「あっ…!! あれは高貴なる者の務めとして自ら前線に立ち、味方を慰撫リアムを焚き付けてし、敵を屠らんとゴミと婚約破棄しようとしただけですわ」


「それを調子良く使うな。公爵令嬢の立場だって王太子とたいして変わらないからな」


 こつん、こつんとライモンドが二人の頭を拳骨の先でつついた。


「リアムは言うまでもなく自分を安く見積もるその悪癖を叩き直せ。お前の立場は今や庶子の第一王子じゃない。王太子だ。王の次に高い命だ。この国の王族はスペアが少ない。ただの王子だった時以上にその行動で他の人間も巻き込む。それも自覚しろ。今回の件で侍従と護衛は始末書をだしている」


「僕が全部責任を取るって言ったのに」


 顔を上げると、ライモンドがそれに首を振って静かな声で言った。


「だからこそ形式的な始末書で済んだ。だが、命の問題が発生していればそれじゃ済まなかった。俺だってお前らの救出が間に合わなかったり、アレックスさんやケインさんと会わなければ、なんらかの処分がされていた。あの頃は爵位もなかったわけだしな。持たざる者の失態はすぐに命に直結する。なにかを贖う術はそれしかないからだ。それが偉い奴に無理やり巻き込まれたものであってもだ。覚えておけ」


「……ごめん、なさい」


「ソフィアは高貴なる者の責務を調子良く解釈したが、それはノブレス・オブリージュという概念を分かった上でだな? 社会的地位の高い者はその地位に相応しい品位を保ち、義務を負うという事だ。俺は、余裕を持つ者が命しか贖う術を持たない者を護るために己の持つ力を使って、社会のために働く事だと思っている。それを果たすためにも私欲で己を蔑ろにしてはいけない」


 しおっと頭を下げると、ライモンドの大きな手がリアムの頭をぽんぽんと撫でてソフィアに向き直った。


「ソフィアは前にも言ったが、舌禍と好戦的な気質を抑えろ。せめて場所は弁えろ。あの査問会で何度も嫌な汗が出たぞ。腰ヘコなんてあの場で言うな。インテリオ公爵は白目を剥いてた。母親以外からの目も気にしろ。それとどんなに剣の腕が立っても女の力では勝てない事も多い。下手に突っかからずさっさと逃げろ。逃げるのは恥じゃない。俺だって無駄な戦いは避ける時も多い」


「とばっちりですわ!」


「ついでだついで。帰ってきたらお前らの親に説教してもらうと言ってたが、帰るなりそれどころじゃなかったせいか、二人ともまたやらかしたろ。これは反省してないぞと思ったから、二人揃った今、お前達の親の代わりに説教してるんだよ。教師としてな」


「わたくしは、お母様にものすごーく! 怒られましたし、アレックス……エリアス殿下の地獄のマナーレッスンに加えて淑女教育をおかわりさせられて、反省しましたし、別にやらかしはしませんでしたわ」


「何が悪かったか理解して、行動に反映させなきゃ反省したって言わないからな」


「当社比で少しは減ってるはずですけれども!」


「全部減らせるように頑張ろうな!」


「なくなったら寂しいですわよ」


 それもそうか、じゃなーい! と続けるソフィアとライモンドの懐かしいじゃれ合いを見ながらリアムは小さく笑って、そして俯いた。


「ごめんなさい……。二人共心配ありがとう」


 ぺこりと頭を下げたリアムに、ソフィアは肩をすくめ、ライモンドは何も言わずににこりと笑って先程いれたハーブティーを手渡してくれた。

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