悍ましき花は受精を望む(閲覧注意)
※性暴力(女→男レーティングに配慮)表現のあるシーンです。お含みおきの上、ご自身で閲覧のご判断をお願いします。
立ち上がった瞬間、目眩を覚える。
「な……んだ、これ」
ソファーの背もたれに手をつき、リアムは口を開けて短く何度も荒い息をついた。
身体の内側から炙られるように熱が湧き上がって、心臓が普段の倍ぐらいの強さで脈動する。
触りもしていないのに下半身が張りつめ、下着が擦れるだけで先走りでズボンの中がぬるつき、その刺激でさらに中心に熱が集まってはち切れそうになる。
毒を飲んだ時は大抵苦痛と共に命を凍らせていくような感覚があったが、これは逆だ。命を身体を激烈に燃やし尽していくようなそれだ。
下半身に別の生き物、暴れ馬を飼っているような錯覚がする。
これはまずい、よくないと脳髄から警鐘が響く。
慢心していた。この一年弱で身長が伸びて、ライモンドやケインとの訓練で身体も作られた。
今はテオドールの身長も越えて、小柄なエミーリエ程度ならいきなり刺されたり撃たれたりしなければどうにでも対処出来ると思っていた。
そもそもエミーリエの狙いを読み切れなかった。毒を盛られる覚悟はあったが、媚薬を掴まされるとは思いいたれなかった。
あれほどリアムの事を好きでなかったのが透けていたエミーリエが、薬を使ってまでも自分とそういう関係を結ぼうなどと考えられるはずがない。
今日の夜会の最中にアレックスに言われた『お前は、誰の手もついていない美味しい餌だ』という言葉が思い出される。
いろいろなものを失わんとしていた彼女にとってもそうなのだろう。
「邪魔される前に、貴方の子種を三回ぐらいは貰えるかしら?」
とん、と押されただけなのに身体が崩れる。立っていられなくてソファーに身を委ねるとエミーリエの手が小慣れた動きでトラウザーズの左右のボタンをはずして前立てを開けて、中のボタンを外した。
「触るな! きもち、わるい!」
絶対にそんな事をしたくないのに、身体は意に沿わず中のボタンを開けるだけの動きで達して下着が汚れる。
「やだぁ、もうベトベトしてる。リアム。出すのはそこじゃなくて私の中よ」
下着を下ろし、ドレスをたくし上げてパニエの下のシュミーズまでめくって、股を広げてリアムの上に乗ろうとする彼女がひたすらに悍ましくて気持ちが悪い。
悪心とコントロール不能の衝動に歯が軋む。
自分からこの部屋を出られなくても、そろそろ外側から対応出来るはずだが、耐えきれないかもしれないと思ったところで、部屋のドアが派手な音を立てて吹っ飛んだ。
そちらに目をやると足を高く上げた父とケインの姿が見える。
どうやら彼らがドアを蹴破ったらしい。
「大丈夫か! リアム!」
走り寄る父親の顔には、真実自分を心配する色があって、リアムは肩の力を抜いた。
「ちち、うえ。びやく、もられ……ました」
「ケイン!」
部屋の中に踏み込んだ瞬間、躊躇なくエミーリエを引きはがして、腕を捻り上げ床に押さえつけて彼女を拘束していたケインは、ヴィルヘルムからの呼びかけだけでその意を汲んだ。
ドレスの中に手を突っ込むと、エミーリエの豊満な胸の谷間の肉の下に押し込まれ隠されていた小瓶を引っ張り出して、匂いを嗅いで首を振る。
「絞り込めません。媚薬系は造詣が浅くて」
そこにアレックスが肩で息をしながら、飛び込んできた。
「リアムは無事か?」
「媚薬の類を盛られたようだが、種類が分からん」
「貸せ」
ほとんど空になったその瓶を渡されたアレックスは、手のひらに中身の雫を落として匂いを嗅ぎ、眉根を寄せると躊躇なく舌先に付けた。
「おい、これを一本まるまる飲ませたのか?」
「答えろ」
ケインが背中に膝を当てて黒髪を根本から力任せに引くと、顎を仰け反らし、涙を流しながらエミーリエは答えた。
「痛い! やめて! りょ! 両方のグラスに半分づつ! いれました! いっぱい入れたほうが効くと思って」
「そこの、ほうに……たまってたやつ、は、はきだした。そ、こまでは飲んでない、は、ず……」
「ヴィル、リアムをなるべく刺激を与えないように寝室に運べ。ケイン、ミルヒシュトラーゼにライモンドを行かせて口が硬い娼婦を三、四人、ピオニーに見繕わさせて連れてこさせろ」
「リアムは大丈夫なのか? どんな物を飲まされた。命に別状はないのか? 兄貴も口をつけたが平気なのか?」
「落ち着け、ヴィル。この薬で死ぬ事はまあまずない。安心しろ。一舐めなら問題ない。ただ、若くて量を飲まされるときつい。何度か盛られたことがあるが、男性機能を急激に昂らせて精を放った後も滾りが収まらなくなる。女が飲んでも多少の催淫効果がある程度だが、男に特に効く媚薬だ。さっさと出し切らせた方がいい」
「そんなの……いら……ない」
「交わらずに抜くのは苦しいぞ。無理するな」
「いやだ……。認められない相手とそんなことしたくない。万が一、子供ができたら?! そんなことになったら、その子は不幸になる……! そんな目に合わせられない」
リアムは泣きながらその提案を拒否した。
楽になりたいという気持ちよりも、先程エミーリエに抉られた心の傷がリアムを頑なにさせる。
「医者の手当てと同じだ。この薬は粘膜に触れないと落ち着かないし、なかなか抜けない。薬の量にもよるが、一人で処理するなら苦しみが丸一日は続く。意地をはるな。彼女らはそれが仕事だ。気にする必要はない」
「それで、も、嫌だ……」
「本人の望むようにさせよう。とりあえずリアムが落ち着ける部屋に移動させる」
ヴィルヘルムが自らのマントを外すとそれでリアムを包んで、壊れ物でも扱うように抱えあげてくれた。
だが、その微かな振動で猛烈な吐き気と吐精感に襲われる。
天鵞絨のマントも、その縁に使われた白貂の毛皮もヴィルヘルムの正装も吐瀉物や体液で汚してしまい、リアムは詫びた。
「ごめ、なさい。ふく……」
「馬鹿者。謝るのはそこじゃない。罠と分かっているのにあえて飛び込んだのだろう。自分の命の重さを軽んじるな。服なんぞどうでもいい。好きなだけ汚せ」
「ごめ……」
「言いたいことはもちろんあるが、説教は後だ。目を瞑っていなさい。気持ち悪かったらいくらでも戻せ。まったく……妙な思い切りの良さは俺に似たのか。一番似なくていいところだ。そこは」
声音から、抱きしめられ方から、父がただひたすらに心配してくれるのがわかった。
それがリアムの心を潤わせた。
帰国して、自分の出生の秘密を知って感情に溺れ、父や母が語った思い出と、ソフィアの話を聞いて彼らの愛を理屈で解した。
国を背負うものとして順位をつけた時、父の自分に対する態度は王として正しかったと肯定をし、王子としてそのありように追随した。
だから、このお披露目の夜会までの間、王子らしく、それらしく振る舞い続けた。
それが間違っていたわけではない。
夜会は成功裡に終わり、今まで日陰の身として蔑まれていた自分は嫡子として、正当な王子としてようやっと認められて日の当たる輝かしい場所に立つ事ができた。
だがその成功体験だけでは自分の幼い心には、全くもって足りていなかったのだ。
愛情の不足したそれは傷ついてひび割れ渇ききっていた。そのことにリアム自身、気がついていなかった。
マントに包まれたリアムは赤ん坊のように身体を丸め、父に身体を寄せてその力強い拍動を聞く。
身体はいまだにひどく火照り、辛いままだったが、無条件に愛されているという充足感で心は満たされていた。
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