査問8 学園の処分

「さて、最後に、王立学園の創立者として、以下の処分をくだす。その方らは平等を目指し連合王国の安定を願って学園を設立した私の理念を無視し、不心得な教師を抱き込み、王族同士または将来の夫婦としてお互いに敬意を持って支え合わなければいけなかったリアムやソフィアに不当な振る舞いをなした。また、爵位を持たないあるいは爵位の低い令息令嬢に対して横暴な態度を取って虐げ利用し、また、本分である勉学を疎かにしていたことは学校での聞き取り、卒業パーティーで取った行動、今回の夜会の準備の不出来、それに先程の大逆罪についての受け答えなどで明白である。放校も検討したが、以下の通りの処分とする」


 王立学園を辞めるというのは貴族子女にとって不名誉な事だ。

 学園は連合王国が安定し首都が移転した際に鳴り物入りで作られた学園である。家が伯爵以上の爵位を持つ子女か、難しい試験を突破した優秀な成績の人間しか入れない。

 試験なく学園に入った貴族なのにそこを辞めるのは人柄もしくは学習面でなんらかの問題があるか、授業料が払えないほど家が傾き、なおかつ奨学金も成績不振で借りられない人間と見なされる。

 まして放校処分になったなれば深刻な問題を起こしたと思われるだろう。

 今はまだ王立学園の歴史は浅い。

 二十代後半より上の貴族は学園に通っていないから若いうちはそこまで影響は出ないだろうが、学園が出来た年から下の上位貴族に関しては全て学園の卒業生という図式が成り立ち、それは生涯にわたって貴族達の付き合いや力関係に反映されていくだろう。

 実際に今まで放校になった人間はいないから、最初の放校処分者ともなれば貴族社会を揺るがす大きな話題になるに違いない。


「まず、両人とも今年度中は停学とする。そして停学期間中は、テオドールは赤狼団での雑用と訓練への参加、エミーリエにはフィリーベルグ神殿での奉仕を申し渡す。テオドールはその際に先程申し渡したシュミットメイヤー家への謝罪も済ませるように」


 書記官側の席で、がたり、と音がして視線をそちらにやると母が青ざめた顔で椅子の肘掛けに身体をもたれかけさせていた。


「そして次年度については、最終学年に進級させず、一年生へのクラスに再入させる。王立学園のカリキュラムを最初から学び直し、三年間に渡って授業態度良く、優良な成績を維持する事を条件に卒業を認める。一教科でも平均を下回った場合は放校処分とする。なお教師は、全て人品や能力を精査して、ふさわしくない人間は全て今年度いっぱいで解雇し入れ替えを行っておく」


 元同級生や今の下級生である二、三年生を上級生として嘲笑を浴びながら、三年間過ごさないと王立学園の卒業資格は得られない。また今までのように教師の手も借りられないということだ。

 王立学園を卒業しなければ上位貴族として落伍したと見做されるから、それでも耐えるしかない。


「テオドール、お前が特に懇意にしていた教師は一足先に懲戒とした。ごまかしは一切効かないと認識するように。お前はまだ若い。今回の事を心の底から悔いて、自分が何をやったのか理解し、勉学に励み、態度を改め、リアムを誠心誠意支えるように。三年間で態度を改め、真摯に反省する様子が見られないようならば、その時は完全に継承権を剥奪するとともに王籍から除籍し、キュステ公爵家はコンラートを以て断絶とする」


「ご厚情……感謝、いたします」


 王の裁定にテオドールは改めて床に跪くと平伏した。

 重々しく頷いた王は、次にエミーリエにその氷のような瞳を向けた。


「エミーリエ、爵位がなくとも王立学園をしっかりと卒業出来れば、仕事を探すのには困らないし、商家などへ嫁ぐ可能性も見出せるだろう。三年間の間にあらたな道を模索するように」


「え……そんな……。そんな酷い。生きていけない。私、どうしたらいいの……」


 呆然と口にしたエミーリエはその場で泣き崩れた。

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