査問7 王の裁定と賠償

「席へ戻るように。裁定を言い渡す。書記官は遍く書き記すように。ただし、この査問会の記録は許可を得た人間以外の閲覧を禁じる。公開する部分については別途宰相から指定し公文書を作成するので、それを参考とし、全員、公文書以上のことを口外しないように」


 全員がそれぞれ席に戻ると王の裁定が始まった。


「さて、テオドール・トレヴィラス、ソフィア・ベルグラード。婚約破棄については、テオドール・トレヴィラスの完全なる有責を認め、免責を一切行わずにキュステ・トレヴィラス家からベルグラード家に事前に定めた条件での賠償を行う。詳細が定められていない場合は、叶えられる限り、また公益性に抵触しない限り、ベルグラード家の要求をキュステ・トレヴィラス家で呑むように定める。リアム・トレヴィラスとエミーリエ・メッサーシュミットの婚約破棄も同様の裁定とし、ヴォラシア公爵、バイロン家との間で協議する。ただし一族に連なる者とはいえエミーリエ・メッサーシュミットは厳密にはヴォラシア公爵家の一員ではないため、その分、酌量して按分する。また今回の婚約破棄について、テオドールとエミーリエ両人の不貞が原因であり、リアムとソフィアには一切の瑕疵がないことを公示する」


 しんと静まり返った謁見の間に、書記官の筆記の音だけが響き渡る。


「次に誘拐についてへの裁定を行う。犯人へ繋がる確実な物証はすでに隠滅され、二人が乗せられた船はレグルス神聖皇国の神殿騎士によって討ち取られ密貿易船の犯人達は全て死亡している。また、貞節を重んじる貴族社会において令嬢が誘拐されたという事実だけで大きな瑕疵になりかねない事を考え合わせると罪に問うことは難しい。ただし、証言や残された証拠だけでも大逆罪に問えることを鑑み、以下のように裁定する」


 一度言葉を切り、書記官の記録を待ってヴィルヘルムは続けた。


「テオドール・トレヴィラス、まずは王位継承権を一時的に剥奪する。完全なる剥奪は血族が少ないため留保し、執行を猶予する。また誘拐についての賠償は婚約破棄の賠償額に上乗せするものとする。またリアムの出生に対しての侮辱については、王妃の出身であるシュミットメイヤー家に謝罪を行いキュステ・トレヴィラス家から賠償するよう申しつける」


 テオドールは無言のまま、深く頭を下げた。


「エミーリエ・メッサーシュミット。現在、そなたにはメルシア王国が奇襲し滅ぼした元キシュケーレシュタイン王国王女への賠償として、国費から貴族として品位保持するに足りる年金の支払いをしている。また、成人後は一代限りの名誉爵位を贈与する予定であったが、メルシア連合王国の爵位についてはその品格相応しからざる事を鑑みて取り消しとする。長年のリアムの出生に対する侮辱、虚言についてはエミーリエの出生と、シュミットメイヤー家とメッサーシュミットの因縁を考慮して王妃への直接の謝罪とし、賠償金はシュミットメイヤー家へ支払う事。なおこれについてはメルシアからの年金から差し引きで支払うこととするが、メルシア王家からの誠意として、常民として、贅沢をしなければ十分に生活できるだけの最低年金の支払いは保障するものとする」


「え! そんな!」


 何かいいたげに腰を上げたエミーリエをテオドールは動きだけで止めた。

 この馬鹿女が今ここで何か起こせばさらに重い裁定をくだされる可能性がある。巻き込まれる愚は犯せなかった。


※明日も公開予定です。その後は通常程度の更新頻度に戻るかと思います。

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