査問3 証拠などありはしない

「では、その後の件に移ります。卒業パーティーでの騒動の後、リアム殿下とベルニカ公爵令嬢が行方不明となりました。キュステ公爵令息はメッサーシュミット嬢の部屋のドアに挟んであったとリアム殿下直筆の手紙を持ってきました」


 そこで宰相は手元の手紙を読み上げた。


「『私、リアム•トレヴィラスは継承権を放棄して、愛し合うソフィア•ベルグラードと二人、ひっそりと生きていきます。探さないでくださいと』という内容で、筆跡鑑定でリアム殿下の筆跡だと断定されています。またその際キュステ公爵令息が、『リアム殿下が花鏡通りに隠れ家を借り、自分の振りをして学園を抜け出して度々ソフィア嬢と淫蕩に耽っていた。それを自分達に気付かれたために、彼らは駆け落ちした』と教師に申し立てています。また隠れ家を借りていた証拠として、リアム殿下の寮の部屋から発見された彼の署名の入った賃貸契約書が提出されています」


「この件について異議のあるものに発言を許す」


 そう言った王にリアムが手を上げた。


「異議を申し立てます。僕はその部屋を借りていません。部屋を借りる契約を結んだ記憶もありませんし、その部屋は間違いなくテオドールが借りていたものです。そして学園を抜け出したのも借りた部屋で淫蕩に耽っていたのもテオドールです。彼はエミーリエのことを友人と言っていましたが、単なる友人ではなく、肉体関係にあった特別な友人でした。あの日も二人が寮を抜け出していたため、不貞の証拠を押さえようとソフィアに誘われて、僕達は彼らの、その……関係を持っている最中の現場に乗り込みました」


「関係を持っている現場とかいう婉曲な表現だと分かりにくいと思いますので具体的にお伝えしますが、そこの二人が」


「結構です。ここにいる全員、リアム殿下の言葉で充分に通じています」


「あら、そこの男の粗品のサイズにはご興味ないですか? 残念ですわ。わたくし今はリアムと良い友人関係、もちろん言葉通りの意味で、を築いていますが、その当時はまともに喋ったこともありませんでした。その彼と不貞を働いていると言われるのは心外です」


 宰相に言葉を止められたソフィアが底意地悪げに、親指と人差し指を広げた。

 リアムがそれをさりげなく嗜めて、話を本筋に戻してくる。


「そこで揉めた末に我々は拘束され、こちらが持っていた証拠は処分されました。また手紙を書くよう強要されました。僕は確かにソフィアと駆け落ちするという内容の手紙は書きましたが、それは彼らに脅されて仕方なく書いたものです」


「このような場でよくもペラペラとでっちあげられるものだな! こちらには証拠もあるんだ。継承権が惜しくなったからって自分で書いた手紙を無かったことにするな。出鱈目じゃないなら証拠を出してみろ!」 


 彼自身が言った。彼らの持っていた証拠は処分されたと。

 その通りだ。自分はあの部屋の暖炉でそれらを燃やして灰までも処分した。学園の教師に依頼してソフィアの部屋の証拠も処分し、自分の隠れ家を探し出した人間も始末させた。

 彼らがいない間に全て隠滅できている。

 だから今、彼らの不貞と駆け落ちの証拠がある反面、リアム達には何もない。

 勝ちはなくても負けることはまずない。その自信が重くあるべきテオドールの口を軽くする。

 そう強気にリアムに返すと、リアムの唇がふっとあがった。

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