三者三様
話終わったとばかりにエリアスがルブガンド公の隣の席についてすぐ、両手で謁見の間の扉を開けてソフィアの父、ベルニカ公爵が入ってきた。
ベルニカ公はエリアスの隣の椅子に、足を広げて背中を背もたれに預けて腰掛ける。
「隣席に
こちらに聞かせる半分エリアスに話しかける半分なのか、ベルニカ公爵は謁見の間全体に響く大声で言った。
ソフィアの口の悪さは父親譲りなのだろう。
だいたい彼女に涙を見せるような可愛らしいところがあれば、もう少し上手くいっていたのだ。
だが、在学中、そんな殊勝な様子は皆無だった。
それなのにさも自分が悪いかのように他の公爵の前であからさまな侮辱表現で詰られるのも腹立たしい。
怒りで歯が軋むが、今の状態では反発も出来ない。ただ俯いてモザイクタイルの床の模様を見るだけだ。
「すでに出来上がってるのに、それ以上酒が必要か? 酔っているなら参加しなくていいぞ。部屋に帰れ」
エリアスが他の公爵に対するよりも気安い口調でベルニカ公に釘を刺した。
「馬鹿言え、ほとんど素面だよ。ソフィアの親として真面目に立ち会うさ。コッコとうるさいニワトリ野郎をすぐさま絞めて料理してやろうかと思ったあの晩餐から二ヶ月も待つ羽目になったんだ。冗談で腐してないと始まる前このゴミを捻って焚き付けにしてしまいそうだからな。まあ、始まったら起こしてくれ」
たしなめたエリアスに対して物騒なことをさらりと言った男は大きなあくびを漏らし、腕を組んで目を閉じる。
続いて入ってきたのはエミーリエの伯父のヴォラシア公で髪や瞳の色味以外はエミーリエによく似た女性を伴ってやって来た。
二人とも不機嫌に顔を顰め、厄介ごとに巻き込まれたとでも言わんばかりにエミーリエを睨みつけると、無言で書記側の席に腰をかける。
時を置かずして、ライモンドがまるで雛鳥を見守る親のようにリアムとソフィアを連れてやってきた。
ベルニカ公の隣にソフィアを座らせ、リアム、ライモンドの順で三つ席を埋める。
王太子になったリアムは本来ならば継嗣として玉座の横か後ろに席を与えられるはずだ。
それが、ソフィアの下座に座っている。
この内輪の席で、先ほどの発表と異なる何かがあるのかもしれない、と、ほんの少しだけ期待をし、楽観的な気持ちになった。
本来王の次に上座に座るはずのエリアスと公爵の中で最も力を持つベルニカ公爵がインテリオとルブガンドの二公の下座に座っている時点でそれが的外れな感覚であり、公爵の中では上下関係などない事や、リアムの席は今回の件の当事者故に、壇の下に指定されていただけだとわかりそうな物だが、追い詰められて何か希望を見いだしたい時、さらに凝り固まった価値観を通してみると、いつも以上に物事が歪んで見えるものだ。
その後しばらくして青ざめた父母が入ってきてテオドールに駆け寄ってくる。
父母が口を開く前に、テオドールの後ろに立って着席する様子のなかったフィリーベルグ公爵が低い声で告げた。
「キュステ公、公爵夫人。気持ちは察するが、直接話をする事は罷りなりません。速やかにそちらに着席を」
ヴォラシア公爵の横を示されて、テオドールの頭を抱いた母がフィリーベルグ公爵に食ってかかる。
「テオは私の宝物なの! 濡れ衣を着せられてこんな理不尽な場に引き出されて辛い気持ちになっているのよ! 母として抱きしめて声をかける事ぐらい許されるでしょう! この人でなし! 人の心も分からない恥知らずの赤毛の仔犬が宮廷で大きな顔をするな!」
母の言葉に、ぎゅっと胸の前を抑えた後、それを一喝した父がテオドールの後ろのフィリーベルグ公爵に頭を下げた。
「ペトロネラ! 控えよ! フィリーベルグ公、妻が許されないことを口にした。今は思わぬ事で精神の均衡を欠いているようだ。妻に代わってお詫びする」
「キュステ公、どうぞお構いなく。ご心痛もここから増すばかりでしょうし、私ごときの事はお気になさらず、席におつき下さい」
「ケイン……いや、フィリーベルグ公爵。温情に感謝する。テオ、お前も真摯に反省して受け入れなさい。私達はどんな結論が出てもお前の親だ。今日話した事は忘れていないね」
一気に老け込んだ顔で父はフィリーベルグ公爵に礼を述べ、母を席につかせながら早口でテオドールに言った。
公爵は何か言いたげに首を振ったが見逃すことにしてくれたらしい。だが、それ以上は赦さず、追いやるように彼は父を席につかせた。
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