王の演説2

「私の元妻であるイリーナ・ノヴォセロクについてだ。彼女は本来の王位継承者たる兄の子を謀殺し、メルシア王国の王権を揺るがした咎で連合王国の王籍、貴族籍、一般籍の全ての戸籍から除籍した。なお帝国とのしがらみもあって今まで公表できなかったが、十年前にリベルタ統治領にて自身の命で己の罪を贖っている。現時点をもって公文書を公開したので詳細が気になる者は確認を。それに伴い私とイリーナとの婚姻は婚姻関係の開始まで遡って無効となったため、かねてから内縁であったフィリーベルグ公爵の姉ベアトリクス・シュミットメイヤーと正式な婚姻を結んで王妃とし、レジーナを私とベアトリクスの娘として王籍に登録しなおした。結婚式については検討中である。次の話題である大公についてと王位の継承についての話をする前に、一つ心して聞いて欲しい」


 そこで一度言葉を止めた王は、威圧に満ちた視線で貴族達を睥睨し、その視線をほんの一瞬、テオドールの上で強めてから、会場の後方正面、全ての家臣の上に戻した。


「勘違いをしている者が多数見受けられるが、爵位は地位ではない。爵位とは責務である。その高低は新たな国であるメルシア連合王国の礎となった功績の多寡だけで決められた物ではなく、地の利、王家、もしくは国王であった四公との関係、対外的な重要性などの視座で定めたものである。それを地位だと認識して、その座に胡座をかくことはまかりならぬ。他者を爵位のあるなし、爵位の高低で見てはならぬ。高い爵位は国家の安寧のためにより大きな責務を課せられていると認識して襟を正すように」


 王の言葉に貴族達はこうべを垂れる。テオドールもそれに雷同せざるえなかった。


「さて、話を戻そう。本来この玉座は兄のものであり、私が王位を降りるべきだと思っているが、兄は私が諸侯と共に歩んだ歳月を鑑みてくださり、その座を固辞された。そこで兄が本来継ぐはずであった旧メルシア王国とリベルタ統治領を王兄の所領とした。また二公の追加に伴い他の諸侯の所領の境界の変更も予定しているが、それについてはこの場ではなく、改めて掲示する」


 ピリッとした空気が場に伝播する。所領や爵位の話が出されたという事は降爵や昇爵、加減封も起こりうるという話だ。

 テオドールが父に視線をやると、他の四公とは違いかなり驚いた表情をしている。父には今回の話は何一つ通っていなかったという事なのだろうか。

 この空気の中問う事もできず、ただ王の話を傾聴する。


「さて、今まで私は王位継承についての明言を避けてきた。それはこの国に磐石な体制が作られていなかったからである。私は若く、継承権を持つ者は少なく叔父上を除いて幼かったから、彼らの暗殺の危険を避けるためにあえて口を噤んできたのだ。だがこの十年で国家は安定し、四公にも今と変わらぬ体制でそれを支えてくださるという約定をいただいた。継承権を持つ者達も王立学園に籍をおける年となった。継承順位を確定して、この安定を次代へと繋げたいと思う。なお先んじてベルニカ・インテリオ・ルブガンド・ヴォラシアの四公の同意は受けている」


 自分の叔父である父を除け者にしたとさらりと暴露した王の厳しい顔つきがほんの少し緩み、今まで見せたことのない私人としての彩りを見せる。


「入りなさい」


 王の言葉の後、典礼大臣が高らかにその名を会場中に響かせた。


「リアム・オディール・トレヴィラス殿下、ご入来です」

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