言いたい放題
「いや、待って。部屋から出るなってライ……モンド先生に言われてる。あまり詳らかにしていないが、彼は僕の護衛も兼ねている。勝手に出るわけにはいかない。そもそもテオは君だけじゃなくて君の血統まで侮辱した。それで有利に戦えないのか?」
尋ねると、ソフィアは悔しげに歯軋りをした。
「わたくしも言い返してしまいましたから。そうなると女は不利ですわ。女のくせに乱暴な言葉を使ったと。同程度でもこちらの方が印象が悪いのです」
なんと返していいか分からず曖昧に笑うと、ソフィアは思い出したように手を離してドレスの隠しから書面を取り出した。
「そうだ。あの時か弱い野花ちゃんなどと申しあげた件、謝罪させていただきます。つきましては謝罪を受けた件、一筆いただけますか?」
「……これぐらいなら。うちの親戚が原因だし」
先程もしれっと間抜けと言われていたし、罪悪感すら覚えていないに違いない。
おざなりな謝罪で正直謝意は感じられないが、彼女の態度がサバサバしすぎていて呆れや怒りを超えて感心する。
だから謝罪を受けた件と、この間の発言を不問にするという旨を書いてある文書に、内容を確認してサインしてやった。
ソフィアはそれをしまって再びリアムの手を取った。
同じ年の少女にしては硬い掌は力強くて暖かい。
「ちゃんと読みもせず、あっさりとサインするのはお勧めしませんわよ」
「ちゃんと読んで、サインするかどうか決めたよ」
「なら良いですけれども。さて、サインもしていただきましたし、参りましょう」
「だから、行かないって……」
「保護者に言われたからって、こんな事案を前に従順に引きこもるなんて良い子を通り過ぎて愚鈍ですわ。貴方は将来の約束をしている婚約者が他の男のイチモツを咥え込んでいても気になりませんの? 政略で愛はないから大人しく従うんですか。あっ! もしかして寝取られるのが性癖?」
リアムとエミーリエは政略結婚ではないし、もちろん婚約者を寝取られるのも性癖ではない。
「そんなわけあるか。行けばいいんだろ! 確かにそんな事になってるなら結婚すべきじゃないだろうし。ちょっと待って。ライモンドに書き置きを残しとくから。後、なにか必要なものはある?」
「そうですわね。服はその部屋着で問題ないというか、むしろ庶民っぽくて程よいと思いますので、後はちょっとしたお金と、護身用の獲物は一応お持ちください」
令嬢らしからぬ言葉がちょいちょい挟まるのは気にするべきではないのだろうが、さっきからイチモツやら獲物やら言いたい放題である。
傭兵団出身らしい母でさえ、そんな言葉遣いをしない。
だが、それへの言及を避け、言われるままにリアムは最新式の護身銃とナイフを身につけ、財布に小銀貨と銅貨が入っていることを確認して、小銀貨一枚は靴下に直接つっこむ。
そして、ペンを手に取ってメモに『ベルニカ公爵令嬢と少し出かけてきます』と書いておいた。
婚約者の浮気を疑って乗り込んできますとは言いづらい。
もっともたいして時間もかからず帰って来られるだろうからこれで充分だろう。
そう思ったリアムだったが、そうではなかったと知るのは後の話である。
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