第29話
「はぁ、はぁ」
フィオレンティーナの中で
「ヴァンテージさん…」
瑞穂さんの話によりますと、さっき戦った真紅の機体にヴァンテージ大佐が乗っているみたいです。ヴァンテージさんはファイルーテオンの中で別れて以来、ずっと姿を見ていません。
結局、対談は破談となり、ウィンダムも攻撃受けて撃沈、クルーは全員脱出出来たのが幸いでした。ウィンダムを失った事で、ラストフィート姉妹はイラストリアスのブリッジの各リーダーにつきました。当初は不満を持つものがいると思いましたが、ラストフィート姉妹が可愛いくて愛嬌もあり、それでいて即戦力になるので、イラストリアスクルーからマスコットキャラクターとして愛されています。ヴァルカン艦長はウィンダムが轟沈した責任と歳を理由に、アルグを抜けて、地元で余生を過ごすと、アブレイズ氏が言っていました。
[アヤ、エクスフェイトを運ぶから手伝って]
「分かりました、姉さん」
アルテミューナの足元には半壊したエクスフェイトがあり、コックピットハッチは開けられてパイロットのシグネットさんは既に回収済み、後はイラストリアスに持って帰るだけ。直して使うようですが、誰が使うかは未定です。
[私は機体を運ぶから、アヤは残骸をお願い]
「分かりました」
散らばったエクスフェイトの残骸をかき集め、回収しにきた僚機に手渡します。
「これで全部でしょうか」
細かい残骸は回収しきれませんので早々に帰投します。機体から降りると姉さんがやってきました。
「アヤ、最初は押されぎみだったのに、よく立て直したわね」
「瑞穂さんがアシストしてくれたのです。私1人ではやられていました」
「あぁ、由華音とフィオレンティーナの記憶にある娘ね。シャウラから聞いてるわ。乗ると声が聞こえるの?」
「いえ、モニターに文字が出るのです。それに、自分の意思で動けるようなんです」
「ふーん、それで、由華音の居場所は分かったの?」
「はい、どうやらさっき戦闘してた真紅の機体に乗っているみたいです」
「そう、彼奴に洗脳されてしまったのね」
姉さんは悲しそうな表情になるもすぐに元に戻ります。
「瑞穂ちゃんを使って由華音の現在の居場所特定出来るかしら?」
「それは、聞いて見ないと分かりません」
「じゃ、聞いてみましょ」
そう言って姉さんはフィオレンティーナに乗り込むと、続いて私もセカンダリーシートに座ります。姉さんが電源を入れるとフィオレンティーナは正常に起動しました。
「で、どうやって会話するの?」
「えっと、普通に聞けば答えてくれるはずですか。瑞穂さん聞こえますか?」
"何か用でしょうか?"
「あら、ほんとに文字ででたわね」
「では、聞いてみましょうか。単刀直入に聞きます。ヴァンテージさんは今、何処にいて、どんな状況なのか、分かりますか?」
"今は意識が無く、分からない。場所もよく分からない。…"
「困りましたね、場所が特定出来ないなんて」
「でも、あの機体は、改造してるけど、恐らくエリーゼね。となると、由華音はファイルーテオンにいる」
「成る程、しかし、ファイルーテオンに潜入するのは困難です」
「そうなのよね、瑞穂ちゃん、何とか出来ない?」
"由華音は今、私の呼び掛けには一切応じてくれないの。それに…"
「瑞穂ちゃん、どうしたの?お姉さんに聞かせて」
姉さんのこんな口調は初めて見ました。
"……それに、あの日、撃たれて…"
「どうやら、ヴァンテールさんは最後まで抵抗して、銃撃で瀕死になり、治療された代わりに何かを盾にされて従っているって感じですかね」
「…いや、瑞穂ちゃん、何か隠しているわね」
「姉さん?」
「由華音の性格を考えると素直に従うとは思えないわ」
"……………"
瑞穂さんが隠し事をしてるとは思えないのですが、何か言えない事情があるのでしょうか?
「瑞穂ちゃん、隠さず全て話してくれる?お姉さんは瑞穂ちゃんの事を信頼するから。そうでしょ?アヤ」
「あ、うん。だから瑞穂さん、正直に話してくれませんか?」
"…分かりました。由華音は艦内を逃げ回った後、とある部屋に入った場所に、そこには由華音曰く、アーヴィングが大量にあったの"
「何ですって?!」
「姉さん?アーヴィングとは」
「アヤはまだ階級が低かったから聞かされていなかったのだと思うのだけれど、ラツィオは強化兵士の制作に失敗したから、代わりになるものを開発しようとした。安易に量産可能でパイロットの育成も必要の無い、無人機を」
「そんな計画が…」
「ファイルーテオンは内部に大型の格納庫があるからあれ自体が動く基地と言ってもいい」
「それでは、その無人機が襲ってくる可能性も…」
「ありえるわね」
もし、実戦投入されましたら膨大な数を相手にしなくてはなりません。それでは此方が疲弊してしまいます。
"それを見た由華音は驚愕し、そして、追い詰められてしまって、仲間になるのを拒むと、銃撃されて瀕死になり、次に気付いた時はベッドに拘束されて、数日間、怪しい薬を打たれて…それからは私の声が届かなくなったの"
「薬…」
「恐らく、思考力を奪い、記憶を消し、幻覚を発生させて、洗脳すると言う、昔ラツィオが即戦力を作る為に、作った薬よ。そんなものまで持っているとは…」
「そんな薬が…で、でも薬の効果が切れれば…」
「無理ね、効果が切れれば禁断症状が表れるから、自ら摂取するか、禁断症状で暴走し、もがき苦しむかどちらかね…」
「それじゃあ、ヴァンテージさんは…」
「元に戻す方法は、本人の精神力次第……待って、アヤ、雛子にも同じ薬を使われているとしたら…」
「まずいですね、艦内で暴れられたら被害が大きくなります」
[アヤさん、リーザさん、探しました。此方にいましたか、緊急事態です。至急ブリッジへ来て下さい]
唐突にシレアさんから通信が来ました。
「シレア?まさか雛子が?」
[はい、雛子さんが目覚めたのですが、現在暴れてまして、止めようとした乗務員の約40%がやられています。その影響で運航に支障をきたしています。設備の被害も甚大です]
「ミレアは?ミレアなら押さえ込めるでしょ?」
[現在はお姉ちゃんとミレアが交戦中です。他の乗務員はお姉ちゃんとミレアが来る前にやられています。幸い重傷者はいません]
「分かったわ、今すぐ向かう。行くよ、アヤ」
「はい、姉さん」
私と姉さんはフィオレンティーナから降りると急いでブリッジに向います。イラストリアスのブリッジは普段は大勢いますが、停泊中の今は最低人数しかいません。
「あ、リーザさん、アヤさん」
「シレア、状況は」
「お姉ちゃんとミレアが食堂で戦闘中です。逃げれらないよう、無事な乗務員で扉を押さえ込んでいます」
「イレア、実弾を使ってないでしょうね?」
「麻酔銃と、ゴム弾を使っていますが、弱った所をテーザー銃で、最終手段として、実弾も持っています」
「まぁ、イレアは撃たないでしょうね」
イレアさんもシグネットさん相手に撃ちたくないと思うでしょう。
しかし、私はこんな時に別の問題も考えていました。それは設備の損傷です。さっき、シレアさんは設備の損害甚大と言っていました。ヴァンテージ大佐が戻ってくるまでにイラストリアスの修復もやらなければいけません。修復ついでに、ラストフィート姉妹の意見も参考にし、ブリッジの改装も良いかもしれません。
「アヤ?どうしたの?考え込んで」
「いえ、何でもありません」
今は余計な事を考えずにシグネットさんの事だけを考えましょう。
「シレア、決着はつきそう?」
「映像を見る限り、雛子さんは以前より、戦闘力は上がっているようですが、ミレアの方が体力も戦闘力も上ですので、いずれは」
そして数十分後、シグネットさんの体力が尽きて、鈍った所をイレアさんが麻酔銃を撃つと、徐々にシグネットさんの動きが鈍くなり、そして動かなくなりました。イレアさんはシグネットさんを厳重に拘束すると監視カメラにピースしています。
「皆さん、もう大丈夫です。扉を開けてください」
シレアさんが呼び掛けると扉前で押さえ込んでいた人達が物を退かし始めました。そして、扉が開くとイレアさんとミレアさんは扉を押さえつけていた人達に拍手で出迎えられています。
「何とか終わったようね」
「雛子さんは再び暴走しないよう、厳重に拘束しておきます」
「心苦しいと思うけど、宜しくね」
「はい」
シレアさんは短く返事すると、ブリッジを出ていきました。
「さ、アヤ行くわよ」
「何処にですか?」
姉さんにっこりと笑って。
「片付けしに、食堂へ」
数日間かけて破損した各種設備を全て運び出し艦内を綺麗にします。負傷した乗務員は安静にと、言いましたが一部は軽症だからと、手伝ってくれています。全てはヴァンテージ大佐の為に、と。現在、シグネットさんは厳重に拘束されて、治療を受けている状態です。
「インテンス大尉、艦内の清掃が終了しました」
「ご苦労様、60分休憩って事を皆に伝えておいてください」
「了解です」
イラストリアス設備搬入用出入口の近くにあるテントの所に設置したテーブルの上にノートパソコンを置いて、カタログを見ながら破損した設備を一個一個確認します。
「これと、これは廃盤なので新製品。料理器具は厨房スタッフに聞きましょうか。医務室も被害が出てますので此方にも予算を組まないと。ついでにブリッジもラストフィートさん達に対応するように改装して…」
詳細な設備額はまだ不明ですので、おおよその金額ですが、改装費用を合わせると結構な額になってしまいました。アブレイズさんは上限は設けないと言ってましたが、出来るだけ費用は押さえないと、姉さんに何言われるか分かりません。それに修理、改装時間も考慮しなければなりません。幸い格納庫と発艦設備と艦橋は無事なので防衛は可能です。
「イラストリアスの改修中に順番に全機体をメンテナンスしましょうか。後は雛子さんの治療をしなければ」
それにしても、今日はかなり冷えます。しかし、キーボードを打つので厚手の手袋は使えません。悴んだ手を息で暖めながら資料を作っていますと、不意に頬に暖かい何かが当たりました。
「アーヤ、あなたも少しは休憩しなさい」
「姉さん…」
「こんなにも手が冷たくなるまでやって…」
そう言って姉さんは暖かい缶コーヒーをパソコンの隣に置くとキーボード上の私の手に触れます。
「頑張るのもいいけど、倒れたら由華音が悲しむわよ」
「…ヴァンテージさんは何度も私を悲しませました」
私は姉さんがもって来てくれた缶コーヒーを開けると一口飲む。
「由華音の事、心配?」
「えぇ、私の…たった1人の上司ですから」
「そっか…変わったわね、昔とは」
「私もこんなにも変わるとは思ってなかったです。これも全てヴァンテージさんのおかげです」
缶コーヒーを一気に飲み干すと空缶をゴミ箱へ投げ入れました。
「もう、休憩終わり?」
「厨房のクルーや、ラストフィート姉妹に意見を聞きに行かなければなりませんので、時間がそんなにありません」
「そう、じゃあ私も一緒に行く。可愛い妹1人に任せられないからね」
「…ありがとう、姉さん」
全ての乗務員に聞き、資料を作り終えた頃には既に日は沈んでいました。
「アヤ、お疲れ。今日は頑張ってる可愛い妹にお姉ちゃんがご飯奢ってあげる」
「いいの?」
「いいのいいの。お店はアヤの好きなお好み焼きの志摩でいいかな?」
「はい!」
私と姉さんはバスでミューンズブリッジシティ市内中央区へと向かいますと、以前、ヴァンテージ大佐と一緒に行ったお好み焼きの志摩に入ます。
「らっしゃい!お!今日はリーザちゃんとアヤちゃんか!この前のアヤちゃんのお友達のべっぴんさんはいないのか!」
「ヴァンテージさんは…今日は忙しいって断られてしまいました」
「そっかそっか、綺麗なお嬢ちゃんだったからまた見たかったが、残念だな」
「ちょっと、大将?目の前にべっぴんさんが二人も並んでんのにそれはないんじゃない?」
「おぅ!そうだったな!近すぎて目に入らなかったぜぃ!」
「とりあえず、私はいつもの4玉で」
「私も同じ…もので」
そう言えば、ヴァンテージ大佐に私のオススメを注文したのを思い出します。そして、私は無意識に涙を流していました。
「アヤ?」
「いえ、なんでもありません」
私は一旦、ヴァンテージ大佐の事を忘れますと、大将の焼いてくれたお好み焼きを食べます。そして、姉さんの計らいでウィンドウショッピングをすることにしました。
「アヤ、こう言うの似合うんじゃない?」
「それは私より、ヴァンテージさんの方が似合う…」
「…早く由華音を取り戻さないとね」
「はい…!」
私はヴァンテール大佐に似合いそうな服を購入し、イラストリアスへ帰還しますと、それを部屋のクローゼットへと大切にしまいます。
そして、次の日、今日から本格的にイラストリアスの改装が始まります。暫くドッグに入れて作業するので迎撃出来るよう機体は全て出しておきます。私はフィオレンティーナに乗り込み、基地内の格納庫へと移動させます。ついでにフィオレンティーナとアルテミューナもオーバーホールさせる計画です。フィオレンティーナから降りて格納庫の出入口を見るとアルテミューナに続き、リネージと両腕の無いエクスフェイトも入ってきました。
「…誰が動かしているのでしょうか?」
イラストリアスの機動兵器のパイロットは人数がぎりぎりで予備がいません。本来、リネージは私が操縦するのですが、今回はフィオレンティーナを先に格納庫へと移動させてから、リネージとエクスフェイトを移動させる予定でした。
「基地の誰かが手伝ってくれているのでしょうか?」
エクスフェイトはアルグの高性能機、リネージはラツィオ製なので、それぞれアルグの一般兵士では操縦難易度が高く、立たせるのが精一杯ですが、両腕の無いエクスフェイトは普通に歩き、リネージはスキップしています。
「え?」
機動兵器でスキップさせるには相当な操縦技術が必要です。現に私がリネージに乗ってもスキップなんて出来ません。
「誰が動かしているのでしょうか?」
その答えはすぐに分かりました。
[こらー!イレアー!揺れるから機体でスキップするのやめなさーい!]
[わぁぁぁ!ごめんなさーい!リーザちゃん!]
リネージにイレアさんが乗っていると言うことはエクスフェイトにはシレアさんが乗っているのでしょう。イレアさんもシレアさんも普段はブリッジにいるのに、機体を軽々と扱うのは、やはり普通の人間じゃないって事を感じます。リネージとエクスフェイトはそれぞれ機体を固定させると、リネージからはイレアさん、エクスフェイトからはシレアさんが降りてきました。やはり、エクスフェイトはシレアさんが乗っていたようです。そして、機体でスキップしてたイレアさんは格納庫の隅で正座で姉さんに怒られれています。
「姉さん、子供相手に何もそこまでやらなくても…」
「いいんです。お姉ちゃんも少しは反省してもらわないと」
「お姉ちゃんはぁ、ちょっとぉ、はしゃぎすぎなのですよぉ」
いつの間にかシレアさんとミレアさんが隣にいます。
「そう言えばアヤさん、聞きました?」
「何をですか?」
「エクスフェイト、私達が貰う事になったんです」
「え?!」
シレアさんは私達って言ってました。つまり、姉妹で乗ると言う事でしょうか。確かエクスフェイトは1人乗りだった気がしますが。
「あ、大丈夫です、アヤさん。エクスフェイトは改造して、遠隔操作しますので、私達はいつも通りブリッジ勤務です」
「あ、そうでしたか」
よくよく考えてみれば、シレアさんは乗るとは言っておらず、貰うと言ってました。
「エクスフェイトの改造、楽しみですねぇ」
どうなるかはさておき、ラストフィート姉妹によって減ったブリッジの人員を何処に割り振ろうか考えなければなりません。2~3人ならともかく、十数名と言う人数なので、配属先が無いと、イラストリアスを降りて貰うしかなくなってしまいます。出来れば全員揃ってヴァンテージ大佐に、おかえりなさい、と言うのが全乗務員の目標になっていますから。
「艦内雑用か、機動兵器の交代要員ぐらいしかありませんね」
イラストリアスの改修が終わるまでに、最低でも足手まといにはならないぐらいには育成しなければいきません。
「…ヴァンテージさんの仕事も片付けなければいけませんから暫くは徹夜ですかね」
そして、3週間が過ぎ、イラストリアスの突貫の改装が終了しました。その間に、ヴァンテージ大佐が乗っていると思われる真紅の機体が無人機を連れて各地の復興したラツィオの基地や、アルグの穏健派の基地を壊滅させたという情報がありました。これ以上、ヴァンテージ大佐による被害を食い止めなければなりません。元ブリッジの方々も機動兵器の操縦にもだいぶ慣れて、戦闘出来るぐらいにはなりましたが、恐らくヴァンテージ大佐には敵いませんので私達が相手にしなくてはいけません。
「アヤさん、アヤさーん!」
「雛子さん、病み上がりなんですから、無理は駄目ですよ」
「えへへ、だって何だか嬉しいんだもん」
今、私とシグネットさんはイラストリアスの格納庫にいます。シグネットさんも無事に禁断症状が解けて退院し、今はリハビリ中です。少しだけ、後遺症が残ってますが治るのも時間の問題でしょう。
「そのチョーカーは?」
「あ、気付いた?えへへ、お姉さまと似ているでしょ?アヤさんも付ける?」
「いえ、私はいいです」
「そっか。あのね、アヤさん、私、思い出した事があるの」
「なんでしょうか?」
「私、お姉さま、由華音さんと出会った時には既に洗脳状況だったようです」
ヴァンテージ大佐から話を聞いた時から疑問に思ってましたがやはりそうだったようです。
「そうでしたか。それでは、あの時、暴走したのもそれが原因でしたか」
「うん、ノイズを聞いた瞬間、何処かへ行かなきゃって使命感が出て来て…」
つまり、ヴィラージュ氏はヴァンテージ大佐を取り込む為にシグネットさんを利用したと推測出来ます。
「それにしてもエクスフェイト、随分変わったね。あれじゃあ魔改造レベルだよ」
「…えぇ、そうですね」
まかいぞう、がどういう意味か分かりませんが、エクスフェイトは改装が終わり、仲良く姉妹3人でソフトウェアの更新を行っています。
「外見がフィオに似ていますよね」
「やはり、フィオレンティーナが機動兵器の理想的な形なんでしょう。それより、エクスフェイトが改装されて寂しくはないんですか?」
「寂しくない、と言えば嘘になりますが、私にとっては嫌な記憶しかないので跡形も無くなるぐらいにされた方が私も嬉しいです」
「そうですか」
エクスフェイトはほぼ原形が無くなっており、ジェネレータを脚部に移動、増設したようなので、大まかなシルエットはフィオレンティーナに酷似しています。原形が残っているのは頭部だけです。
「さて、機体の搬入しましょうか。雛子さんはフィオレンティーナをお願いします」
「はーい」
シグネットさんがフィオレンティーナに乗り込むのを見届けると私はリネージに乗り込みます。
「ふわぁぁっと、いけません、緩んでいますね」
徹夜続きだったので、少し寝不足かもしれません。リネージを格納しましたら少し仮眠しましょうか。なんとか、リネージを操り、固定させると、乗務員には暫く自由行動を指示して、眼鏡をサイドテーブルに置くと自室のベッドへ倒れる。
「久し振り…ですね…ベッド…で寝る…のは…」
暗闇に着信が鳴り響き、照明を点けずに受話器を手探りで掴みとります。
「どうしました?」
[インテンス大尉、緊急事態です。数百機の過激派の機体が多数こちらに向かって来てます。至急ブリッジに来て下さい]
「分かりました。今すぐ向かいます」
急いで着替えて眼鏡を掛けると、ブリッジへと走って行きます。
「ダンフリーズ艦長、状況は?」
「現在、ヴァンキッシュ大尉のアルテミューナと、第3、第4小隊が先行して迎撃中、第5、第6小隊がイラストリアスの防衛をしています。アルグの部隊も防衛の為に湾岸沿いに展開。フィオレンティーナは発進待機の状態です。第1、第2小隊は甲板にてインテンス大尉の指示待ちです」
「分かりました。私もフィオレンティーナで出撃します。上空にガンシップを待機させておいてください」
「了解」
「アヤやん!、イラストリアスは援護可能だよっ!」
「分かりました」
急いでフィオレンティーナの所に行くと、シグネットさんが待っていました。
「雛子さん!?」
「アヤさん!お姉さまがいるんでしょ?私も行くよ!」
「…分かりました、ではセカンダリーシートへ」
「はい!」
シグネットさんをセカンダリーシートに座らせると、私はプライマリーシートへと座り、電源を入れます。
[インテンス大尉、発艦準備完了しました]
「了解です。では、雛子さん行きますよ?」
「はい!」
一気にスロットルを全開にし、
「姉さん!」
[アヤ、遅いわよ。無人機は私の部隊が相手にするから、由華音の所に行ってあげなさい!]
「…はい!ブラウン大尉、私はヴァンテージ大佐の所へ行きますので、部隊の指揮任せます!」
[了解!インテンス大尉!ヴァンテール大佐の為にも、全員生き延びさせますよ!]
フィオレンティーナを巧みに操り、無人機を交わして、速度を落とさずに真紅の機体に向かって突撃する。真紅の機体もライフルやキャノンを撃ってきますが、瑞穂さんが予測射線を表示してくれますので私は紙一重で避けて行きます。
「ヴァンテージさん!ここで捉える!」
ライフルを収納すると、速度そのままに懐に入り組み付く。
「このまま、地上に引きずり降ろします!」
そのままの速度で地上に激突し、砂煙が上がる。相手もスラスターを吹かしていた為か、衝撃は少なかったですね。
「アヤさん、無茶苦茶ですよ…」
「こうしなければ、捕まえられませんから」
突如、砂煙の中から赤いツインアイが煌めくと、腰の砲口が光る。
「アヤさん!」
瑞穂さんから予測射線が出るので、最小限で避け、素早く右手でショートブレイドを引き抜くと、胸部を切り裂く。裂けた装甲から、ヴァンテージさんの姿が見えました。
「ヴァンテージさん!」
真紅の機体は左手でスピアを抜刀すると、フィオレンティーナの腹部に刺してきます。
「くっ!」
コンソールの一部がショートしつつも、ショートブレイドを捨て、右手で真紅の機体の左腕を掴み、押し倒す。真紅の機体が右手でショートブレイドを振り下ろしてくるので、それを左手で受け止める。
「瑞穂さん!後はお願いします!」
「え?アヤさん?」
"はい!"
麻酔銃を持って、フィオレンティーナをコックピットハッチを開けると、ヴァンテージさんの元へ。ヴァンテージさんも此方に気付いたのか、切り裂いた装甲の隙間から出て、左手でダガーを持って襲いかかって来ます。
「ヴァンテージさん!」
真紅の機体のハッチの上で対峙しダガーを銃で受け止めて、弾き落とすと、今度はヴァンテールさんの右ストレートが頬に当たり、眼鏡が外れてしまう。。
「しまった!」
霞む視界でヴァンテールさんを捉えようとするが、腕を掴まれて投げられてしまい、倒されるとヴァンテールさんが上に乗ってきて、首を絞めてきます。そして、落としたダガーを拾い、躊躇い無く、振り下ろしてきました。
「ヴァン…テージ…さん…」
滅多刺しされる中、間近にヴァンテージさんの顔が見える。久し振りに見る顔は懐かしさを感じると共に、その瞳は私を副官として見ていない。
「お姉さま!それ以上はダメぇ!アヤさんが死んじゃう!」
シグネットさんがヴァンテールさんの腕を掴むと、ヴァンテージさんはシグネットさんに向き直りダガーを振りかざす。
「雛子…さん、逃げ…て」
「きゃああ!」
シグネットさんが悲鳴を上げるとヴァンテージさんは目を見開き、動きが止まりました。そして、手からダガーが落ちて、金属音が鳴り響きます。
「お姉さま?」
「あ…あぁ…」
「瑞穂さん!今の内にヴァンテージ大佐を!!」
私が力の限り叫ぶと、フィオレンティーナはツインアイを光らせて動きだし、右手でヴァンテージさんを軽く握る。
「離せぇ!」
そして、膝立ちし左手を差し出すと、雛子さんが私を乗せます。
「アヤさん、すぐにイラストリアスに戻りますね!」
そう言ってシグネットさんはコックピットへと戻ろうとすると、ヴァンテージさんを探しに来たのか、エクラがやって来ました。
「どうしよう、この状態じゃフィオは戦えない…」
「ヴァンテージ…さんと…死ねるなら…本望です…」
「アヤさん!まだ諦めないでください!きっと援軍が来ます!それまで私がどうにかします!」
そう言ってシグネットさんは真紅の機体に乗り込みました。
「雛子さん…その機体…では…」
恐らくIFFがあるので攻撃出来ないハズですが。だが、真紅の機体は立ち上がるとエクラ蹴り飛ばし、遠ざけていきます。
「雛子…さん?」
私の疑問を余所にフィオレンティーナは離脱する準備をしています。フィオレンティーナの指にもたれ掛かれ、霞む視界で見上げた空は夕焼けではなく、無数の黒い塊が、よく見えないですがあれは件の無人機でしょう。
「瑞穂…さん、私を置いて…ヴァンテージさん…だけでも…」
しかし、フィオレンティーナは首を横に振り、私を置いてこうとせず、優しく手で包み込みます。
そして、フィオレンティーナに向かってビームが飛んできました。フィオレンティーナは上手く回避していきますが、私を振り落とさずにいるためでしょうか、大きく動けず逃げそびれてしまい、徐々に逃げ場所が無くなっていきます。そして、追い詰められて周囲を囲まれてしまいました。
「終わりだ。諦めるんだな」
ヴァンテージさんの勝ち誇った声が聞こえます。ラツィオにいた頃のヴァンテージさんに口調と声のトーンが似ていますね。
「忘れてる…かも…しれませんが…私は…貴方の…副官…ですよ」
「あたしに副官などいない」
「今の…貴方は…そうで……しょう………ね」
薄れ行く意識で最後に見えたのはフィオレンティーナを庇うように降り立った機体だった。
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