第28話

今日はアブレイズがアイリスを説得する日なので、私とアヤはフィオレンティーナに乗り込み、ウィンダムの格納庫へと移動中だ。

「最近、ウィンダムの格納庫によくくる感じが」

私が捕虜になったのが随分前に感じる。そう感じながら指定された場所へと、フィオレンティーナを移動させ、固定されるのを確認すると、機体から降りる。その時、初めてウィンダムに降りた時の記憶がフラッシュバックする。

「…」

「どうしました?ヴァンテージさん」

「ううん、なんでもない」

フィオレンティーナの隣に止まったアタッカーからボーセルが降り来るのを確認し、3人でウィンダムのブリッジへと向かう。そして、ブリッジの扉が開くと、ラストフィート姉妹が出迎えてくれる。

「こーんにーちはー!」

「うるさいよ、お姉ちゃん」

「あいたっ!」

イレアがシレアに突っ込まれている。

「ゆかみん!アヤやん!今日はよろしくね!そっちの知らないお姉ちゃんもよろしく!」

「へぇ、ウィンダムには、お嬢ちゃんみたいな小さい子がブリッジにいるのか」

「そうですよぉ。お姉さんはパイロットなんですよねぇ?」

「あぁ!ツカサ・ボーセルだ!機体でも生身でも近接戦闘が得意だぞ!なんかあったらいつでも呼んでくれ!」

「「はーい!」」

ボーセルがどうもラストフィート姉妹を子供だと勘違いしているようだ。まぁ、パイロットとブリッジクルーなのであんまり接点は無いのが原因かもしれない。そのラストフィート姉妹はか弱い子供を演じているが、実際は実年齢も強さも上なので、立場が逆な気がする。

「今日はよろしくお願いします」

「此方こそ、よろしくね、由華音、アヤちゃん」

「そっか、アブレイズさんも行くのでしたね」

「ふふふ、今日は僕が主役だからね」

「あぁ、はい、そうでしたね」

「由華音はいつも淡白だね。今度、食事に行こうよ」

アブレイズはいつもポジティブ過ぎて時々困る。

「そろそろ、出発じゃぞ」

ヴァルカン艦長の言葉で私達は用意された席座る。本来、ウィンダムのブリッジには席が必要最低限しか無いが、今回は私とアヤ、アブレイズさんの為に新たな席を増設してくれた。ボーセルは他の乗務員の所へ行った。

そして、各自が席につくとウィンダムはイラストリアス甲板から離陸する。

「やっぱ、離陸の瞬間は何度やっても慣れないわね」

「ヴァンテージさん、フィオレンティーナで何度も体験してるではありませんか」

「それはそうだけど、それとこれでは事情が違うの」

機体で離陸するのと戦艦で離陸するのでは前者の方が体に掛かる負担が違うのでそっちの方が慣れてしまっている。

まぁ、アヤはあんまり機体には乗らないので分からないかもしれないが。そして、暫く飛行すると、正面モニターに巨大な戦艦が表れた。

「前方にファイルーテオン発見ですぅ」

「ファイルーテオンから通信、後部ハッチから着艦せよ、との事です」

「うむ」

ウィンダムはファイルーテオンの開いたハッチから中に入る。

「ファイルーテオンって大きいのね」

「ファイルーテオンは別名、空飛ぶ軍事基地って言われてる大型の航空母艦よ。ソーラーシステムによって着陸すること無く飛び続ける事が可能で、補給物資は定期的にコンテナに入れられて地上から打ち上げられて上空で回収してるから、着陸する必要がないのよ」

「へぇ、リーザさん詳しいですね」

「それを、無能のアイリスは動く別荘としか使ってないんだから」

リーザから説明を聞いていると、ウィンダムが固定される。そしてファイルーテオン側から舷梯が掛けられるので、アブレイズを先頭に、ヴァルカン艦長と私とアヤが着いていく。今回、リーザは、ヴィラージュを見ると殴りかかりそうだったので、ウィンダムで待機してもらう事に。そして、ウィンダムのハッチが開くとヴィラージュと数人の私兵が出迎えていた。

「やぁ、アイリス、こうして会うのは久しぶりだね」

「あら?ミズキこそ、相変わらず変わらないわね」

「ふふ、また僕に惚れたのかい?また以前みたいに舞台で踊ろうよ」

「そうね、今日の結果次第ではまた、考え直すかもね」

私達はヴィラージュに案内され、ファイルーテオン内を歩く。先頭はヴィラージュとアブレイズが歩いているが、私とアヤとヴァルカン艦長の周囲を過激派の私兵が囲んでいる。

「では、お連れの方は此方でお待ちください」

そう言われて私達は1つの部屋に通される。その部屋はそれなりに広いが、机とソファーが一式あるだけの質素な部屋だった。

「アブレイズさんの説得、上手くいくといいね」

「それは、分かりませんが、ヴァンテージさんはヴィラージュ大将を恨んでいないんですか?」

「そりゃ、雛子を惑わした憎い相手だけど…そんな事をしても何も解決しないから」

私も内心では、1発ぐらい殴りたいが、そんな事したら、アブレイズの努力が無駄になってしまう。なので私は平常心を装いつつ、衝動を抑える。

「ヴァンテージさんは姉さんと違って理知的です」

「そんな事は無いよ?リーザさんも理知的だと私は思う。ただ、どんな手を使ってでも勝つと言う思考だったから、他の部隊からは狡猾とか、悪女とかって言われてたけど…」

「姉さんは、昔から悪どい戦略が得意で私もよくゲームとかで苦労しました。その点ではヴァンテージさんは正攻法で攻めて勝っていましたので、私はヴァンテージさんを心から支えたいと思いました」

「そうだったんだ」

「戦争にルールなんてありませんので、姉さんみたいにずる賢く勝つのも必要かもしれませんが、それでも、相手が人間ある以上、礼節が必要だと思うのです」

「確かにそうだけど、時には」

その時、室内が揺れる。

「何事?!」

「分かりませんが、通路に出て確認しましょう」

アヤはそう言って扉に向かう。

「っ!開きません!」

「私も手伝うよ!」

2人で引っ張るが、扉はびくともしない。

「そうだ!シレアに連絡して、ハッキングして開けてもらおう」

「ダメです、電波妨害されているらしく、繋がりません」

再び、室内が揺れ、私はバランスを崩すが、アヤが支えてくれた。

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがと、アヤ」

「慌てなくてもよい、イレア達がその内来るじゃろう」

しかし、待てどもやってくる気配がない。

「どうしたのだろ?ウィンダムでも何か問題が?」

待っている間も室内は時折揺れている。

「こうなったらフィオに頼んで壁を破壊して…」

「それをやりましたら取り返しのつかない事になります」

「だよねぇ」

その時、扉が唐突に開きゼストが入ってきた。

「っ!あなた生きていたのね!」

「オマエヲコロシテ、イモウトをタスケル…!」

ゼストは入って来るなり、襲い掛かって来た。

「ヴァンテージさん!危ない!」

アヤは私とゼストの間に割り込み、拳を受け止めるが、直後に蹴りを入れられ壁に叩き付けられる。

「アヤ!」

その直後、私は頬に一撃入れられ、蹴りをくらう。

「ヴァン…テージさ…ん」

私はなんとか応戦しようとするが、ゼスト相手では手も足も出ず、一方的にやられる。

「ぐっ!このままでは…」

なんとか立ち上がるが、立っているのがやっとな状態では逃げるのも厳しい。

「アヤ、ヴァルカン艦長と一緒に逃げて。こいつの目的は私だから」

「それだと、ヴァンテージさんが!」

「私の事には構わず!大丈夫だから!」

「でも…」

「行け!インテンス大尉!」

「っ!分かり…ました。ヴァンテージ大佐…」

アヤは敬礼すると、ヴァルカン艦長を連れて部屋を出ていく。私の考え通り、ゼストは2人は眼中に無いらしく、私に襲い掛かって来た。

「よほど私に恨みがあるみたいね」

私は扉の位置を確認すると、ゼストが突っ込んで来たタイミングに合わせて、拳を避けると背中に蹴りを入れる。そして倒れた隙に扉に向かい、廊下に出る。ファイルーテオンの構造は分からないので、手当たり次第に走る。途中、アイリスの私兵に見つかり銃撃されるも、何とか避けて逃げ続ける。

「はぁ、はぁ」

ある程度、逃げた所で壁に手を着いて息を整える。周囲を見回してもゼストどころか誰もいない。

「ウィンダムに戻るにはどっちに行けば…」

右を見ても左を見ても同じような通路が続いている。どっちに行こうか迷っていた時、不意に足音が近づいて来たため、近くにあった扉を開けて中に入る。部屋は暗く、照明が点いていないようだ。そして、暗闇に身を潜めて扉に耳を当てて外の様子を探る。

「いたか?」

「いえ、見失いました」

「ここは逃げ場は無い。何としてでも、目標を探し出すのだ」

どうやら、私を探しているようだ。それにしても兵士に追いかけられるとは、私が何かしたのだろうか?

「暫くは見つからずに済みそうね。それにしてもこの部屋は何だろ?」

真っ暗闇の中を手探りで歩く。そして、突き当たりっぽい所まで来ると、唐突に照明が光り、眩しさで目を手で覆う。明るさに慣れたので手を降ろすと、そこにはガラスで隔てた向こう側に無数に並んでいる見たことのある機体があった。

「この機体は…」

それは、ラツィオにいた頃、総司令官から聞いた話だが、近々無人兵器を運用するにあたって実戦させる計画があると聞いた。結局、実戦配備する前に大打撃受けてしまって計画が白紙をなってしまったが。

その時に見た資料に無人機用に新たに設計された機体、アーヴィング、それが今、私の目の前にある。

「ようこそ、由華音。私の工場へ」

「!?」

背後の扉が開き、アイリスと数人の兵士が入ってきた。兵士は銃を構えて私に狙いを定めている。

「しまった…」

背後はガラス、正面は兵士と、逃げ場が無い。

「どうする?ここで死ぬか、私の仲間になるか。貴女ほどの腕なら歓迎するわよ」

「何度も言うけど、そんなの、お断りに決まってるじゃない!」

「そう、やっぱりそれが貴女の答えなのね」

ヴィラージュが右手を挙げると周囲の兵士が一斉に銃を撃つ。銃声と共に無数の銃弾が発射され私の体を貫く。今度ばかりは、誰かが助けに来る、と言う展開も無いようだ。床に倒れると血が流れ出て体の周りを赤く染める。

「安心しなさい、体は有効利用させて貰うわ、回収しなさい」

ヴィラージュはそう言うと、兵士は瀕死の私の両脇を抱えるとそのまま何処かへと連れていく。連行されている途中では意識を失った。


「…ここは」

目を開けると見知らぬ天井と照明が見え、口元には呼吸器が付けられている。起き上がろうとしたが体が動かない。指先とかは動くのでどうやらベッドに拘束されているようだ。

「アヤとヴァルカン艦長は無事に逃げれたのだろうか」

遠くからヴィラージュと誰かが会話している声が聞こえる。

「蘇生は成功し、体に残ってた銃弾は全て取り除きました。今では怪我もほぼ完治しています」

「そう、それじゃ始めてちょうだい」

「かしこまりました」

1人の医師が近付いてきたと思ったら、直後に腕痛みと同時に薬が流し込まれる感覚が奔り、反射的に体が動くが、拘束されているので動く度に拘束具が体に食い込む。

「1本打ち終わりました」

「ふふふ、気分はどう?由華音」

「いい…訳…無い…じゃない」

意識があるのがばれたようだ。

「なら、もう1本いきましょ、やりなさい」

ヴィラージュがそう言うと、今度は逆の腕に痛みが奔る。薬が注入されると同時に声にならない叫びが私から出る。

「さすがに2本打ち込みますと、目に見えるぐらい体に影響が出ますね」

「でも、まだ余裕そうね、もう1本いきなさい」

「しかし、前例が無く、どんな影響が出るか分かりません」

「やりなさい、命令よ」

「かしこまりました」

意識が朦朧としてる中、もう1本打たれる。感覚が麻痺しているのか、何処に打ったのか分からなくなっている。そして、程なくして全身が痙攣し、涙が絶え間なく流れる。

(由華音!しっかりして!)

瑞穂の声が頭に響く。しかし、今の私には答える余裕すら無い。

「これ以上は被験者が死にかねません」

「そう、それじゃ、今日はここまでね。おやすみ、由華音」

全身の痙攣が止まった頃には私は意識を失った。

その後も数日に渡って何かしらの薬を打たれ続け、私は少しづつ自分の中で何かが変わっていく感じがした。そしてぼんやりする頭で気がついた時は何かの機体のコックピットだった。

「敵は全て倒さなきゃ…平和の為に…」

私は機体の電源を入れる。


"AX-74DF-H Exige Form-Forcas"


機体の計器類が表示されると、それらを瞬時に確認し、異常がないか確認する。

[発艦準備完了、出撃せよ]

オペレーターから発艦準備が整ったようなので私はスロットルを全開にし、ファイルーテオンから発艦する。

機体の翼を展開して、目的地のミューンズブリッジシティまで巡航速度を維持する。暫く飛行し続けると、目的地付近に今回の目標が表れる。

「目標、発見、排除する」

敵空母から、複数の量産機と白の機体とワインレッドの機体が出てきたので、白の機体を僚機のエクスフェイトに任せて私はダークレッドの機体と量産機をやる事に。今乗ってる機体は元は遠距離重視の機体だが、私の戦闘スタイルに合わせて遠近両用となっている。

「敵は全て撃墜する…」

大型ビームライフルで量産機を複数撃墜すると、ガトリングでダークレッドの機体を狙い撃つ。相手も簡単にやられる訳もなく、回避した後にライフルを撃ってくる。変則的な動きで回避すると不用意に近付いてきた敵量産機を高周波ロングセイバーを抜刀と同時に切り伏せる。そして、ダークレッドの機体に急接近し、ロングセイバーを振り下ろすと、敵機もショートブレイドを出して受け止める。動きがぎこちない感じを見ると敵パイロットは機体に慣れていないようだ。ならばと早期に決着つけようと、積極的に攻め込む。

相手のショートブレイドの弾き飛ばすと、続いてライフルを蹴り飛ばす。無防備になった所で腰のガトリングを展開し、発射する。だが、砲身を回転させる僅かな時間で敵機に懐に入られて避けられ、組付かれる。振りほどこうとするが、敵機の方がパワーあるらしく、振りほどけずにいた。

エクスフェイトに救援を求めようにも向こうは向こうで高速機動する相手に苦戦しているようだ。こうなったらと胸部のビーム砲を発射しようとしたが、敵機の胸部でハッチが押さえられ、発射出来ない。更に蹴り飛ばそうとするが脚で防がれる。

何だか此方の考えが読まれている感じがする。そう思ったが、今は目の前の問題を対処することに。他に使える武装があるか確認するが、貧弱な頭部の機銃しかない。

[168、488、作戦エリアに増援が接近しています。離脱してください]

「…」

オペレーターから帰投の指示が出ているが身動き取れない状態では動く事も出来ない。ならばと、このまま、スラスターを吹かして敵機を地面にぶつける。ぶつかった衝撃で離れたのでその隙に離脱しようとするが、エクスフェイトが未だに白い敵機に翻弄されている。

援護しようとすると、ダークレッドの機体が此方を執拗に狙って来るので迂闊に近づけれない。そして、敵機の増援が合流し、状況が悪くなる。ダークレッドの機体を相手している内に、他の敵機は数機でエクスフェイトを追い詰めていた。そして、エクスフェイトは両腕とフライトユニットを切断され、墜落する。

「…やられたか」

何とかパイロットだけは回収したいが、無理をすると自分もやられてしまう。機体を翻し、最大推力状態リヒートで作戦領域を離脱する。

幸い、追撃してくる事も無く、ファイルーテオンに着艦する。私は機体を降りるとすぐに調整槽に入れられて最調整を施された。

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