第25話
朝、目覚めると見慣れない天井が映る。
「んぅ?ここは、一体どこだっけ?」
ぼんやりする頭で昨日の出来事を思い出す。
「あー、そうだった、イレア達とゲームしてたっけ。あれ?私の服がある」
イラストリアスから何も持ってきてなかったが、誰かが持ってきてくれたようだ。
そして、ソファーから起き上がり、制服に着替えると、イレアがやって来た。
「おはよー!ゆかみん!よく寝れた?」
「おはよう、イレア。朝から元気ね」
ラストフィート姉妹と久し振りに朝食をとった後、アヤと一緒にイラストリアスへと戻る。
そしてアヤとシレアがハッキングして入手したエクスフェイトのデータが入ったメモリーカードを自室のパソコンに読み込ませる。
「読み込み完了っと。えっと、エクスフェイトの武装は、何にも変わってないみたいね。出力は30パーセント上がっているけど、まだフィオの方が高いわね。パイロットは、強化兵士168?てっきり雛子かと思ったのけれど」
強化兵士168と表記されているが、もしかしたらラストフィート姉妹みたいな遺伝子を改造されて作られた人間かもしれない。上手くいけば保護出来るかもしれないが、ラストフィート姉妹みたいに友好的とは限らない。多分、アルグとしては保護したい所だが、場合によっては殺すこともあり得るだろう。そう、ならないといいのだが…
「ヴァンテージ大佐、少しよろしいですか?」
「ん、大丈夫だよー」
ノックして入ってきたのは、確か通信担当のフェルテ、だったかな、何かあったのだろうか?
「大佐、発信元不明の通信があり、大佐一人でエリアSZのノースポイント、34の137に来るように。とのことです」
「私一人でってこと?」
「はい」
誰かが私を呼び出している、思い当たるのはアイリスか、雛子だろう。アイリスの場合、罠だが、雛子の場合だと、救援要請の可能性がある。
でも救援要請だと、発信元不明では意味がない。そうなると、完全に罠だろう。
「どうしますか?ヴァンテージ大佐」
「私一人か、罠の可能性が高いわね」
「では、無視と言う事で。…ちょっと待っててください。はい、はい、伝えます。ヴァンテージ大佐、新たにな通信が入りました。発信者はシグネット准尉です」
「え?雛子なの?内容は」
「待ってるね。この一言だそうです。どうしますか?ヴァンテージ大佐」
私は少し考える。罠だと分かってて行くか、やめるか。雛子がいるなら助けに行かなければならないが、メッセージの内容的には私を待ち構えているように感じられる。でも、私のやることは一つだ。
「私は、罠だと分かってても、雛子を助けに行くよ」
「しかしヴァンテージ大佐、指定ポイントにシグネット准尉がいると限りませんが」
「僅かな手がかりでも私は行きたいの」
フェルテは少し、考えたのち、何処かに通信をする。
「ヴァンテージ大佐、私を代表して我々クルーはヴァンテージ大佐の考えに従います。ただ、インテンス大尉からの返事がありません」
「アヤか、確実に止めるか、付いてくる感じがしそう」
アヤの前で散々やらかしているのですんなり行けるとは思えない。私としてもアヤに心配かけたくないのが本音だが、雛子を助けたい気持ちもある。
「アヤは私が説得してみる」
「かしこまりました、私達クルーはヴァンテージ大佐を応援していますので」
そう言ってフェルテは部屋を出ていく。私は備え付けの通信機を起動させ、アヤの端末に繋げる。
「アヤ?ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
[…わかりました。今から向かいます]
少し機嫌が悪いように感じたが、予めフェルテから連絡がいっているのだろう。暫くするとアヤがやって来る。
「アヤ・インテンス、参りました」
「入っていいよ」
扉が開き、アヤが入ってる。私も席を立ち、ソファーに腰かける。アヤも私の行動を見て、対面のソファーに座る。
「アヤ、既に話は聞いていると思うけど…」
「分かっています、ヴァンテージさんが言いたい事は。でも、私は賛同出来ません。どうしても行くと言うなら付いていきます」
「どうしても私が一人で行くのは反対すると」
「私はヴァンテージさんの副官です。上司の身を案ずるのは当然の義務です」
アヤの意思は固そうだ。何とか説得の糸口を掴めればいいが。
「…ですが、上司の思想も尊重し、理解するのも副官の義務です」
「え、アヤ?」
「私も別の機体で遠くから見守ります。なので一緒に雛子さんを助けに行きましょう」
「うん、行こう!」
一応、アブレイズさんにも連絡したが、リーザは現在、別件で不在のようだ。
一方のアブレイズさんは止めることなく、応援してくれている。リーザとは連絡がつかないのは気がかりだが、雛子が待っているので、私とアヤはそれぞれフィオレンティーナとリネージに乗り込み、発艦する。アヤとは指定ポイントを見渡せる離れた所で別れて、一人で指定ポイントへと向かう。そしてたどり着くと、フィオレンティーナから降りる。
「ここのハズだけど、誰もいない?」
辺りを見回しても誰もいない。しかし、通信には時間指定が無かったはずだ。
[ヴァンテージさん!罠です!そこから逃…]
「え?何?どうしたの?」
耳に着けている小型の通信機からアヤからの連絡が入るが、途中で切れてしまった。
「アヤ?どうしたの?返事して!」
しかし、通信機からはノイズが帰ってくるだけでアヤから返事は無い。
私が戸惑っている所に、エリーゼがやってくる。
[ふふふ、由華音、一人で来なさいって言ったのに守らなかったようね]
「その声はやっぱりアイリスね!アヤに何したの!?」
[ちょっと、黙っててもらっただけよ。他に協力者がいないか、確認させて貰うわ]
するとフィオレンティーナの両隣にアルマスが降り立つと、手のひらに乗っていた人物がコックピットを覗きこむ。
「ヴィラージュ様、中に誰もいません」
[これで、一人になったようわね]
エリーゼのハッチが開き、中からヴィラージュが姿を表す。
「こんにちは、由華音」
「やっぱり貴方だったのね、雛子を拐ったのは。雛子は何処なの?」
「焦らないで、私は約束は守る方よ」
すると、二人の兵士に付き添われて雛子がやってきた。
「雛子!」
「お姉さま!」
雛子が駆け寄って来たので腕を広げて待ち構える。
「ずっと、会いたかったよ!大丈夫だっ…」
雛子を受け止めた瞬間、私は唐突に腹部が熱くなるのを感じた。
「え?」
訳もわからず、熱くなった箇所を触ると、生暖かい赤い液体が流れている。
「ひ、雛子?」
雛子が私の腹部から何かを引き抜くと、不敵な笑みを浮かべながら、私から離れる。
そして、腹部から血が吹き出る。
顔を上げて雛子を見ると右手には私の血で真っ赤に染まったダガーが握られていた。
ようやくここで理解する、雛子に刺されたのだと、騙されたのだと。
(私って、甘いわね)
「殺りマシた、アイリスサマ。私ヤリまシタ!」
その直後、雛子の不適な笑みをしてるのが見える。
「雛…子…まさか…」
「ご苦労様、シグネット、いや、168。さて、機体は無傷ですし、回収しましょうか。由華音、ここで死ぬか、それとも生きたければ私に忠誠を誓いなさい」
「誰が…貴方に…忠誠を…誓うもの…ですか…」
「なら、ここで死になさい。機体は貰ってくわ」
兵士の一人がハッチが開いたままのフィオレンティーナのコックピットへと向かう。
「フィ…フィオ…」
このままでは雛子も取り戻せないだけではなく、フィオレンティーナを奪われてしまう。そう思ったとき、急にフィオレンティーナのハッチが閉まる。
「ヴィラージュ様!急にハッチが締まりました!」
「どういうことですか?破壊してでも開けなさい!」
一機のアルマスがフィオレンティーナのハッチに手を伸ばした瞬間、フィオレンティーナが動きだし、腕を掴むと、そのまま握り潰す。そしてアルマスの頭部にパンチをし、もう一機に回し蹴りをする。
「フィオ?どう…して?」
「コックピットには誰もいなかったんじゃなかったのですか!」
「はっ!確かに覗きましたが誰もいませんでした!」
「なら、どうして動いているのですか!」
「わ、わかりません!」
私は出血した部分を押さえながら立ち上がる。
すると、敵機を撃墜したフィオレンティーナが此方に気付き、膝を着いて手を差しのべる。
「フィオ?誰が…乗ってるの?」
その時、フィオレンティーナを見ると瑞穂が手を差しのべるように見えた。
「そっか、貴方…だったのね。ありが…とう、私の…大切な機体を…守ってくれて」
私は痛みを堪えて
「ダメジャナイデスカ、オ姉サマ。オトナしク死ナナキャ…」
「雛子…お願い…だから…正気に…戻って…」
後ろを振り向くと、雛子は相変わらず涙を流しながら不敵な笑みをしていて、喋り方も何だかおかしい。
ヴィラージュに何かされたのだろうか。しかし、その手にはダガーではなく、小さい手には不釣り合いな大型の拳銃が握られていた。
「あれは、…デザート…イーグル!?」
リーザが好き好んで使ってた拳銃で、威力が高いのが特徴だった気がする。あんなものくらったら今の私じゃただじゃすまないかも。
そして、雛子は躊躇いなく引き金を引くのが見えたので力を振り絞り、避けるが、銃弾は私の右肩を貫く。
「あぁぁ!」
何とか致命傷は免れたが、これでは右腕は動かせない。雛子は完全に急所に狙いを定めていたので避けなければ即死だろう。
「ツギハ避ケナイデクダサイネ、オネエサマ。コンドはカクジツに、コロシテサシアゲマスから、オトナシクシテクダサイ」
そして、雛子は続けざまに3発撃つ。痛みと出血で意識が朦朧としている状態の私では避ける術が無い。
(あはは、ここまでか)
そう思った瞬間、私と雛子の間を何かが遮った。よく見るとそれは
[どういう原理か分からないけど、こうなったら破壊してあげるわ]
すぐ上を見るとエリーゼが大型ビームライフルを、此方に狙いを定めている。
[由華音共々、消し炭になりなさい!]
「瑞穂、逃げて…」
その瞬間、エリーゼの頭部に何かが直撃する。しかし、威力が低いのか、センサーの一部を破壊する程度だった。
[邪魔が入ったわ。どうやら、あいつが帰って来たようね。由華音、生きていたらまた会えるのを楽しみにしてるわ。168、撤退準備をしなさい]
しかし、雛子はヴィラージュの命令を無視して、私に襲いかかってきた。それを見た瑞穂フィオレンティーナは私を守る為か立ち上がる。
「オネエサマ!オネエサマッタラ!」
雛子はジャンプし、私の目の前に着地すると拳銃を撃つ。
「なっ!」
さすがに揺れる手の上では狙いが定まらないのか2発は外れたが、1発は左足に当たる。そして弾切れになった拳銃を捨てて再びダガーを抜き取り、私に向かって飛びかかると私を押し倒し、馬乗りになり、ダガーを振り下ろす。
「雛子に…殺されるのも…いいかな」
「アハハハハ!オネエサマ!」
しかし、刺さったのは右胸だった。
「ひ…な…こ?」
雛子は刺したままの姿勢で止まっていた。だが、その瞳は私の首にあるチョーカーを見つめていた。
「雛子、あなたは…まだ…」
最後まで言う前に私は吐血する。そして、吐血して飛び散った一部の血が雛子の頬を濡らす。
[ヴァンテージさん、大丈夫ですか!]
通信機が復活したのか、アヤの声が聞こえる。雛子は気がついたようでダガーから手を離し、私の上から降りると、ジャンプでエリーゼの手に乗り移る。そして、エリーゼは飛び立っていった。
エリーゼが飛び立っていったのを見送ると
「瑞穂、私を…心配して…くれてる…のね」
暫くしてリネージがやって来て、フィオレンティーナの前に着地する。機体のハッチが開き、アヤが姿を表すと、ハッチからフィオレンティーナの手のひらに飛び移る。
「ヴァンテージさん!」
「あはは、アヤ、また…やっちゃった。指揮官…失格だね…」
「喋らないでください!今、応急措置します!」
アヤは機体から救急箱を持ってきて、傷口を塞ぎ、止血する。
「このダガーは、肺にまで刺さってる可能性が…無理に抜くと出血多量になりますね」
アヤはダガーが抜けないよう、固定する。
「これで一先ずは大丈夫です。しかし、この状態では操縦は出来そうもありませんね。今救援を呼びますのでお待ち下さい」
「大丈夫。アヤは…自分の機体に…戻っていいよ」
「本当に大丈夫ですか?」
「うん」
アヤが自分の機体に戻ったのを確認すると、私は瑞穂フィオレンティーナに語りかける。
「フィオ、コックピットまでお願い」
私がそう言うと、フィオレンティーナは頷いてコックピット付近まで手を動かす。そして同時にハッチも開けてくれる。
「誰か乗っているのですか?」
「私の、大切な記憶」
「記憶?」
「後で話すね、アヤ」
そう言って私はフィオレンティーナに乗り込む。モニターを見ると、白い機体、アルテミューナもやって来たようだ。
[由華音、またこっぴどくやられたわね。あんまりアヤを悲しませちゃだめよ]
「…分かって…ますが…」
[それと、貴方、コックピットに居るようだけど操縦は出来るの?]
「大丈夫です。私の記憶が…操縦します」
[記憶?あぁ、例の娘ね。今は機体に記憶されてるのね]
流石、リーザは理解が早くて助かる。
[さ、アヤ、由華音、帰るわよ。それと、瑞穂ちゃんだっけ?しっかり付いてきてね]
「はい」
[え、姉さん、瑞穂ちゃんって誰ですか?]
アルテミューナが離陸し、ミューンズブリッジシティの基地へと飛ぶ。瑞穂フィオレンティーナは頷くとゆっくりと離陸し、リネージも離陸してアルテミューナに付いていく。
[さ、瑞穂ちゃんのお手並み拝見ね]
「リーザさん、あまり…瑞穂をからかっちゃ…駄目ですよ」
[あら、私は新しい娘の実力を見極めるのが上官のとしての仕事よ]
[だから、瑞穂ちゃんって誰ですか?]
3機は編隊を組ながら基地に帰るのだった。
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