第24話
帰還してフィオレンティーナを降りるとアヤが出迎えてくれた。
「お疲れ様です、ヴァンテージさん彼等は無事に保護出来ました。今は健康診断を受けています」
「そっか、後で会いに行きましょ」
私とアヤはイラストリアスの休憩室へ向かい、そこで彼等を待つことにした。
アヤが持ってきてくれた珈琲を飲む事数分、彼等がやってくる。
「ヴァンテージ大佐!デヴィッド・ブラウン以下3名!これよりヴァンテージ大佐の部隊に入ります!大佐に二度も救われたこの命、必ずや大佐のお力になるよう、努力します!」
「みんなお疲れ様!無事で良かったよ」
こんな人だったかなと少し驚きだ。人数を数えると、どうやら、誰一人欠けていないようだ。
「ヴァンテージ大佐もご無事で…随分と変わられましたね」
「え!?あ、うん。そ、そんな事より疲れたでしょ?部屋は用意してあるからゆっくり休んで」
「はっ!分かりました!ヴァンテージ大佐の御言葉に甘えて我等第4小隊、休息をとります!」
彼等はそう言って休憩室を出ていった。
「彼等ってあんな感じだったっけ?」
「えぇ、第4小隊の隊長、デヴィッド・ブラウンはラティオ軍の中では、特に優秀であり、隊長の頭文字をとって、DB部隊とも…」
「ふわぁぁ」
「ヴァンテージさん、お疲れですか?」
「うん、ちょっとね」
アヤが折角説明している時に欠伸するなんて、失礼だと私は思った。けど、アヤは気にしていないようだ。
それどころかアヤは心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「出撃後ですし、お疲れでしょう。では、ヴァンテージさんもお休みください。何かありましたら呼びますので」
「ありがと、アヤ。じゃあ何かあったら起こしてね」
私は珈琲を飲み干して自室に戻ると着替えずにベッドに倒れる。すると直ぐに眠気が出てきたので私はそのまま眠りにつく。
気がつくと私はまたあの場所にいた。
「また会いに来てくれたの?うれしいな、由華音」
「ん?あぁ、私も瑞穂に会いたいと思っていたのだろう」
私がそう言うと瑞穂は優しく微笑む。
「でも、一番会いたいのは雛子ちゃんみたいだけど」
「あ、いや、それは…」
私は言い訳を考えたがすぐにやめた。瑞穂には隠し事は通用しないからな。
「…雛子にもう一度会いたい」
「ようやく、自分の気持ちに素直になったね」
そう言われて私は恥ずかしくなり、そっぽ向くが、瑞穂は追いかけてきて顔を覗き込んでくる。
「そんなに照れなくてもいいじゃない」
「照れてなんか!…ない」
「じゃ、そう言う事にしましょうか♪」
私の反応を見て瑞穂は楽しそうだ。
「そ、それより瑞穂、貴方は分かっているだろうか、改めて私の思いを聞いてもらいたい。私は雛子を取り戻したい」
「変わったね、由華音。私が知っている由華音とは別人だね」
「私もこうなるとは思ってなかった。瑞穂のおかげだな」
「私は何もしていないよ。由華音が自主的に変わろうと思った結果だよ」
「それでも、きっかけをくれたのは瑞穂だ」
「そっか、じゃそうしとこっか。それでどうやって雛子ちゃんを探すの?」
「むぅ、それなんだが瑞穂は何か知っていないか?」
瑞穂は少し俯いて考える様な仕草をしたが直ぐに顔を上げる。
「エリーゼの手のひらに雛子ちゃんがいたんだよね?」
「いや、雛子かどうか分からなかったが手のひらに誰か乗っていたのは間違いない」
よくあんな暗闇で、かなり距離のあるエリーゼの手のひらに人の姿が見えたのが不思議なくらいだ。
「そう、私の予感では雛子ちゃんはエクスフェイトに乗っていると思う」
「なに?」
「由華音、動きを読まれてたでしょ?」
「あぁ、そう言えばそうだったな。しかし、それがどうし…」
ここで私は瑞穂が何が言いたいか理解した
「由華音もようやく気付いたみたいね」
「まさか、私の動き読まれていたのは、一番近くで見られていたからなのか」
「それしか、考えられないかな」
「だから、瑞穂はあの時、止めてくれたのか」
「うん、ごめんね。戸惑ったでしょ」
「いや、むしろ感謝したい。あのまま止めてくれなかったら私はエクスフェイトを撃破していただろう」
あの時、私はアブレイズの方針も忘れて目の前の敵機を倒す事だけを考えていた。だから止めてく瑞穂には感謝だ。
「ふふ、よかった。私もつい、叫んじゃったから。まさか由華音に届くとは思わなかった」
そう言えば、瑞穂が夢の中以外で干渉してくるのは初めてだと、思い出す。
「そうだ、瑞穂さえよかったら私のアシストをしてほしい」
「私が?いいよ、私で良いならサポートするね。でも、出来ることは限られるよ」
「それでもいい、自分で言うのもなんだが、私は強敵を前にしてしまうと目の前の敵に集中してしまう。瑞穂には瑞穂にしかない直感や視野がある。瑞穂なりの視点で私の死角をカバーしてほしい」
「うん、わかった。邪魔って思われるぐらいサポートするね」
「楽しみにしている」
「ん、もうこんな時間」
私は目覚めて時計を見ると既に日が沈んでいる時間だ。帰って来てから何も食べていないので少し小腹が空いている。
「食堂になにかあるかな」
イラストリアスの食堂は何時でもシェフが滞在し、食事が出来るようになっている。食事の扉を開けると中から甘い匂いがしてきた。
「ん?あぁ、ヴァンテージ大佐じゃないか。丁度今、マカロンが焼けた所だ。食べるか?」
「え?いいんですか?」
「ここに来たって事は腹減ってんだろ?」
少し男勝りなシェフのサガリスがカウンターから身を乗り出して差し出してくる。
「いいんですか?ありがとう」
私は一つ摘まむと一口で頬張る。
「ん、おいしい」
「そうだろ?出来立てはおいしいからな」
おいしくてついつい2個目を頬張る。
「たくさんあるからな、好きなだけ食べるといい」
「え?いいの?やったぁ!」
私は3個、4個と食べる。そしてふと、私は手が止まる。
「どうした?ヴァンテージ大佐、まだたくさんあるから問題ないぞ」
「ううん、雛子と一緒に食べてたらもっと美味しいだろうなぁって思っちゃって…」
「そうか、だったら甘い物を食べて探しだす作戦でも考えるといいぞ!」
「サガリスさん…わかりました!私、頑張ります!」
「おう!ヴァンテージ大佐、頑張れよ!」
私はマカロンを2個持って自室へ向かう。そして自室のパソコンからアルグのデータベースにアクセスする。
「エクスフェイトのデータは…以前見たときと変わらないわね。まぁ過激派がそうそうに秘匿情報を公開するとは思えないけど」
自分ではこれ以上は無理と判断し、何か方法がないか考えているとそう言えばシレアはハッキングが得意だった気がする。
なのでシレアの所に向かう事に。途中、アヤに出会い、用件を伝えるとアヤはラストフィート姉妹の位置を特定してくれた。更に案内までしてくれると言うので一緒にイラストリアス内部を歩く。
「そだ、さっきサガリスがマカロン作ってたからお土産持っていこう」
「そうですね、私が取りに行ってきますので待っててください」
そう言ってアヤは行ってしまったので私は壁に持たれて待つことにした。
艦内はエアコンが聞いているが外は秋になり気温もかなり涼しくなってきている。
「ちょっとこの服装じゃ寒かったかな。でも今から取りに戻ったらアヤが戻って来るかな」
そう考えているとアヤが戻ってきた。少し寒いが我慢すればいいだろう。
「お待たせしました、ヴァンテージさん。今日は少し寒いのでこれを着てください」
そう言ってアヤは一枚のケープを持ってきてくれたので私はそれを羽織る。これで少しは寒さが和らいだ。
「ありがとう、アヤ。じゃ、行こうか」
「はい」
アヤの情報によるとラストフィート姉妹はミューンズブリッジ基地内部にある居住区に家を持ってるらしく、基地に寄っている時はよく家に帰っているらしい。
それにしても夜の基地は昼間と違い、静かで光源が幻想的だ。
「夜の基地って照明がキラキラ光って綺麗ね」
「そうですね。でも、それは作業員の安全を確保する為の灯りですから」
「アヤって真面目ね」
「そう言われましても、何と答えればいいか…」
それからアヤと色々話ながらラストフィート姉妹が住んでいる家があるエリアへとたどり着く。
アヤが予め連絡していたお陰か、居住区入り口の警備員がすんなり通してくれた。
居住区をしばらく歩いていき、そして一つの家をノックする。
「イレアさん、シレアさん、ミレアさん。入っていいですか?」
「はぁーい、大丈夫だよー、あややん、ゆかみん」
ドアが開き、イレアが現れる。
「やあ!(´・ω・`)ようこそ、私達の家へ!このジュースはサービスだからまずは飲んで落ち着いてほしいな!うん、まだなの。ごめんね!仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思ってないよ。でも、 この部屋を見たとき、君達は、きっと言葉では言い表せない[ときめき]みたいなものを感じてくれたと思うんだよね。殺伐としたこの世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しいんだ。そう思って、このゲームを用意したんだ。じゃ、部屋に入ろうか」
出会い頭、イレアが超早口で何か言ってるし、声にならない事を言ってたような気がするが、ほぼ聞き取れなかった。しかし、アヤは聞き取れたようだ。
「急いでいるわけでもないですし、大丈夫ですよ」
そう言ってアヤは出されたジュースを受け取り、2個の内の1つを私は貰う。
「あ、ありがと…」
そしてイレアの案内で中に入る。中は広く、人数分に合わせてゲーム機とモニターがある。
「由華音さん、アヤさん、こんばんは」
「あ~、由華音さんー、アヤさんー、こんばんはぁ。こんな時間に何か用ですかぁ?あ!そうだぁ、由華音さん達も一緒にプレイしましょうよぉ」
「え!?えっと…」
「私とシレアさんで情報収集してますので、ヴァンテージさんは相手をしてあげてください」
アヤとシレアが情報収集してくれる、と言うよりも私じゃ、そう言う仕事は向いてないので専門職に任せた方が確実に集まるだろう。
「じゃあ、なにやる?ゆかみん?」
「えーっと…」
「そだ!ゆかみん、この前の続きしよ!今度は負けないからねっ!」
そう言ってイレアは私にコントローラを渡してくるので、それを受け取ると、機体の選択画面で私は以前も使ったフィオレンティーナに似た機体を選ぶ。
「お、ゆかみん、またオーガ使うんだね?好きだね、その機体」
「私はフィオに似たデザインが気に入ったから」
「確かに、フィオレンティーナに似てるねっ!ゆかみんが好きになる理由も分かるぅ!」
そしてイレアがスタートボタンを押し、ゲームが始まる。イレアは前回の事があるのか、最初から、本気モードでやってきた。
「む、ゆかみん相変わらずやるねっ!」
本気を出したイレアはめちゃくちゃ強く、私は必死に応戦するが少しずつ押されていく。
どうにかして逆転したい所だがイレアはただの人間じゃなく、身体能力、思考能力、反射能力を強化された人間なので、いくら私が現実で士官クラスのパイロットでも相手が悪い。
(由華音、負けず嫌いだもんね。手を貸してあげるよ)
「瑞穂?」
瑞穂の声がしたと思ったら、突如、思考が流れてくる。そう言えば瑞穂はこう言うゲームが得意だったなと、思い出す。なので私は瑞穂の戦略を聞きつつ、操作に専念する。
「む?由華音の動きが変わった?」
瑞穂の思考能力と私の反射能力で少しずつ押し返す。
「由華音さん、私達の強化された演算能力相手になかなかやりますね」
「私の上司ですから」
結局、時間切れになり、僅かな差で敗北した。
「あー、負けちゃった」
「ゆかみん、やるね!もう一回勝負だよっ!」
結局、イレアだけじゃなく、シレアやミレアとも対決し、疲れはてて今日はラストフィート姉妹の家で一晩明かすこととなった。
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