第26話
結局、フィオレンティーナは私が操縦する事も無く、無事に着艦する。続いてアヤも着艦すると素早く機体を降りて此方に来た。
「医療班!ストレッチャーを!」
アヤは通信機で連絡をとりながら、朦朧としてて、自力で降りられない私をコックピットから、優しく降ろす。今まで気丈に振る舞っていたが、そろそろ限界がきたようだ。
「インテンス大尉!」
「早く!ヴァンテージ大佐は応急措置はしてありますが重症です!輸血の準備を!」
「了解しました!」
私はストレッチャーに寝かせられて医務室へ運ばれる。そして麻酔を打たれて、意識を失う前に私はアヤの姿を探した。
「そっか、私、まだ生きてるのね」
目覚めると、イラストリアスの医務室の天井が見えた。口元には呼吸器、両腕には点滴の針や心拍計等が繋がれている。
イラストリアスにこんな立派な医療施設があるとは思わなかった。もしかしたら私が怪我ばっかしているので、アヤがこっそり導入したのかもしれないと思いつつ、ヴィラージュが言った言葉が私の頭から離れられない。
「強化兵士168は、セナ…」
ヴィラージュの発言により、エクスフェイトのパイロットは雛子だと言う事が確定した。
「私は、エクスフェイトを倒せるのだろうか」
私としては、雛子を取り戻したい。もう一度、雛子とフィオレンティーナに乗りたい。
「瑞穂、私はどうしたらいいの?」
エクスフェイトと対面した時、私は戦えるだろうか、そして無傷で鹵獲できるだろうか。
「弱気になっちゃダメ。瑞穂ならきっと諦めないと思う。そうなると、雛子の洗脳を解く方法を考えなきゃ」
そうなるとまずはエクスフェイトを鹵獲する所から始まる。
「前途多難ね」
私は少し考えた後、眠りにつく。
僅か2週間で歩けるぐらいには回復したが、強烈な衝撃を受けると傷口が開く可能性があることなので、当分フィオレンティーナへは搭乗禁止になった。
なので、シャウラにはフィオレンティーナの整備と未知の部分の調査を依頼する。
「大佐、インテンス大尉の報告によるとフィオレンティーナに人の記憶があるとのことですが本当ですか?」
「シャウラ、私を疑っているでしょ。本当なんだよ」
「大佐が言うなら…」
なんだか信じてないような感じがする。
「なら、見せてあげるよ。フィオ《瑞穂》!」
私がそう言うとフィオレンティーナ《瑞穂》は此方を見て、固定されていない肘から下を動かして手を振るとピースする。
「あんな精密な動きが」
そう言うとシャウラは駆け足でフィオレンティーナのコックピットへと行く。私も付いていくが、医者に出来るだけ安静にと言われているのでゆっくりと歩いていく。
たどり着くとシャウラはフィオレンティーナのコックピットの中に居り、キーボードを叩いて何かを確認しているようだ。
「いつの間にかフィオレンティーナに未知のデータファイルが…ブラックボックスの部分なのでセキュリティが頑丈ですね」
シャウラは必死で解錠しようとしてるが、私は瑞穂が必死に抵抗している姿が思い浮かぶ。
しかし、このままでは、永久に終わらないだろうし、瑞穂も見られたく無いのだろう。
「シャウラ、女の子の記憶を見るのはご法度だよ」
「あ、すみません…」
そう言ってシャウラは手を止める。
「女の子なんですか?」
「あー、うん、そうなの。大切な私の記憶」
「…大佐が言うのでしたら。因みにその記憶って言うのは、今の性格と関係あるのですか?」
「あー、うん、そうなの。瑞穂って言うの」
「成る程」
なんだかシャウラの反応が冷たい。紛れもなく私の脳内設定と思っているのかと言う顔だ。
しかし、現に瑞穂はフィオレンティーナに宿っているので、嘘ではない。
「そうなると、大佐が乗らなくても戦闘が出来るのでは?」
「あー、それなんだけど、瑞穂は優しいだから無理なのよ」
瑞穂は戦闘が得意じゃないと言ってた気がするし、無理に戦わせても可愛そうだ。元は平和な世界の女子高生なんだから当然なんだけど。
まぁ、自称凄腕ゲーマーらしいので戦略や、相手の癖を見抜くのは得意みたいだ。
「そうですか、独立して動くのであれば大佐の負荷が軽減出来そうだったんですが、臆病なら仕方がないですね」
「そうね、私のサポートしてくれるだけでも助かるのよ」
「サポートですか、考えて攻撃とか、回避運動すると言うことですか?」
「んー、それはあまり無くて、戦略を考えてくれる事がメインかな」
「なるほど、確かに大佐は、大戦時よりも戦略が冴え渡っているのはそのお陰ですか」
「う、うん、そうなの」
「そうだったのですね、仕組みを解読すれば、AIとして、そして機体にインストールすれば、パイロットの負担軽減になるかも…」
実際は最近からなので、シャウラ達と合流直後はほぼ素である事は内緒にしとこう。
「それにしても、まさか私がアルグに入るとは思っていませんでした。これも大佐おかげですね。ところで大佐、どうしてアルグに入ったのですか?」
「あはは…それは…えーっと…その…恩を仇で返すのって失礼でしょ?」
「確かに、敵軍とは言え、撃墜せずに親切に保護してくれる方々に、仇なすのは失礼ですね」
内心、不法滞在してた所を保護されました、なんて言えないし、当初、反抗的でしたなんてのも言えない。
それに加入のきっかけが一人の娘に惚れたからって言うのも恥ずかしい。だって健気で小さくて可愛いし。
「しかし、隙を見て脱出すれば良かったんじゃないですか?」
「えーっと…それは…も、戻る所が無かったからよ」
「なるほど、我々と合流出来る見込みも低いですし、傷付いたフィオレンティーナで彷徨くのもリスクがありますしね」
シャウラが単純なのか、私に無理やり同調しているのか分からないが、曖昧に答えても嘘がバレなくて助かる。
「それより、大佐、そろそろ定期検査の時間では?」
「あ、そうだった。じゃね!」
そして私は格納庫を後にして、医務室へと向かう。医務室の前にたどり着くとアヤが待っていた。
「お待ちしておりました、ヴァンテージさん。中に入りましょう」
中に入るといつものもう顔馴染みになった女医の前に座る。
「ヴァンテージ大佐、走ったり、騒いだりはしてませんよね?」
「…私をなんだと思ってるの?何もしてないよ?傷口開いたら大変だし」
「なら安心です。ですが本来歩いても駄目なのですが…ヴァンテージ大佐の回復能力には医師として、そして個人的に興味があります。ぜひ、一回だけ全身を調べさせてください」
「あはは…また今度ね」
確かに、大きな怪我を何度もしても治してるし、古傷も開いたこともない。しかし、さっきの発言が冗談なのか、マジなのか気になるが、目を見る限りあれは本気の目をしているように感じる。
「えっと、早く診断しよっか」
そう言って私は服を脱いで傷口を見せる。
「大方塞がっていますが、まだ様子見です。特に胸部の傷は塞がってはいますが、まだ完全ではありません。戦艦内での被弾の衝撃では問題ありませんが、機体の射出の衝撃では開く可能性があります。なので…」
この医師、見て触っただけで、傷口の状態が分かったり、機体の射出の衝撃具合を知ってる辺り何者だろうか。見た感じは若そうだが、もしかすると相当な歴戦のメディックだったり。
「ヴァンテージ大佐?聞いてますか?」
「へっ!あ、その…聞いてなかったです」
下手に誤魔化してみしょうがないので正直に言っておこう。
「それですね、もう1週間は艦内での……」
「はぁ~、やっと終わったぁ」
私は指揮官室のソファーに座って足を伸ばす。アヤは私の為にコーヒーを入れてくれる。
「ヴァンテージさんが寝てしまうのが悪いのですよ。指揮官が居眠りで怒られているなんて、部下に示しがつきません」
その後も話が長く、少しうたた寝をしてしまったら医師に怒られてしまい、余計に長くなってしまった。
「何も任務が入ってないのが幸いね」
「アブレイズさんも、ヴァンテージさんが怪我しているので任務も他の人に回しているんじゃありませんか?」
「ありえそうね」
多分、私の怪我の具合も伝わっているだろうし、どれくらいで復帰できるのも伝わっているだろう。
「尚、現在ヴァンテージさんに出てる任務は早期治療と、腕が落ちないよう、無理の無い程度の訓練です」
「一応、あるのね…」
「アルグは一応、軍隊です。何もしないはありません」
「軍隊ねぇ、今一実感が無いわね。厳しかったラツィオにいた頃が懐かしくなっちゃうよ」
ラツィオがほぼ壊滅状態の今、世界は穏健派だけが残ったアルグを支持する国家と、アルグの過激派が新たに作った勢力、ルドベキア。後はラツィオ残党が集まり、再び勢力を回復している、新生ラツィオ。ラツィオは以前のイメージを払拭するために活動しているらしいが、ルドベキアに襲われててなかなか立ち直れないらしい。しかも、そのルドベキアはヴィラージュの演説や、ラツィオの根絶と言う目的により、支持する国家も多く、着実に勢力を伸ばしている。ラツィオの残党狩りがメインらしいが支持してくれる国家の為に支援や防衛もやっているとのこと。勿論、アルグも支持する国家の支援や防衛をやっているが、あくまで防衛メインなので攻め込むことはしない。
「ヴァンテージさん、ラツィオにいた頃はこんな怠慢癖は無かったのですが…」
「あはは…アルグの規律が緩いからじゃないかな」
「はぁ…まぁ、こんな楽しそうなヴァンテージさんを見れたのが唯一の救いですが…」
「ん?アヤ、なにか言った?」
「いえ、何も」
アヤがため息ついていたので私に関しての色々な気苦労が多いのだろう。これからはアヤに苦労かけないようにしなくてはいけなくては。
「それにしても、無理の無い程度の訓練って何をすればいいのかなぁ?」
「ヴァンテージさん、やはり姉さんに鍛えてもら必要がありますね。今から連絡して訓練メニューを考えてもらいましょう」
「え、アヤ本気?」
「えぇ、本気です」
アヤの目が笑ってないので恐らく本気だろう。この前の病み上がりであんなのだったから少しは緩和されるだろうが、厳しいのは目に見えている。それはなんとかして避けたいので自主訓練を考えなければ。少々冷たくなったコーヒーを啜りながら考える。
「コーヒーのおかわりはいりますか?」
「あー、うん、貰おうかな」
飲み干したカップを置くとアヤはポットからコーヒーを注いでくれる。
「ところで、ヴァンテージさん、今後の方針は決まっていますか?」
「そうね、第1目標は雛子の救出かな」
「そうですね、シグネットさんは私達の大切な仲間なんですから。なのでまずはしっかり治してから、姉さんの訓練を嫌がらずにやってくださいね」
「うぐっ!それはもう決定事項なのね」
「はい、既に連絡済みです」
今頃、嬉々として訓練メニューを作っているリーザの姿が思い浮かぶ。
「うぅ~、この姉妹鬼畜だー!」
「はいはい、怠慢癖がついた自分を恨んでください」
なんだか、アヤが私に対しての扱いが雑になってきたような気がする。ここは指揮官として威厳を保つためになんとかしなければ。
「わかった!私、リーザさんの特訓頑張るよ!だから、アヤだけは、私にはいつまでも優しくして…」
結局、いい言葉が思い浮かばず、威厳を捨てて部下に頭を下げる。
「ヴァンテージさん、頭を上げてください。私はヴァンテージさんの副官です。無能な上司もサポートするのも役目です」
「アヤ、然り気無くディスってない?」
「気のせいです」
そう言うアヤの顔は少し笑っているように見えた。なんだかんだでアヤは私の事を信頼していると感じた。
そして2週間後 、傷口が完全に塞がり、医師からもフィオレンティーナの搭乗許可も出たので、リーザの模擬戦が始まる。
「はぁ、やだなぁ」
[ヴァンテージさん、愚痴言っても終わりませんよ。早めに決着つければすぐに終わります]
「早めにねぇ、出来たら苦労しないよ相手が相手だけに」
フィオレンティーナのコックピット内で愚痴っているとアヤに聞かれてしまった。現在フィオレンティーナは射出準備が整っており、後は私がスロットル入れるだけの状態だ。
[早く出てください。姉さんを待たせると、後が怖いですよ]
「はぁーい」
間延びした返事をすると、スロットルを全開にして、飛び立つ。そして、結局模擬戦は長引き、私の体力が先に尽きた。機体から降りた後も先にバテた事に加えて、なかなか出なかった事に関してリーザから説教を受けるのだった。
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