第11話

フィオレンティーナの修理には3ヶ月かかりました。その間は私は借りたアルマスで出撃してましたが、アルマスはメインフレームがエクスフェイトと同じらしく、以前乗った時にも思いましたが運動性能は悪くないです。欠点を言うなら武装が少ない所と、反応が少々鈍い所ですかね。

アルマスのコンセプトは初めて乗っても操縦できる扱いやすさと、数で攻めるラツィオに対して複数相手なので直ぐに切り替えられるよう、武装も最低限となっているらしいです。

「アルマスはアルマスで快適だったわね」

今、私はフィオレンティーナを受け取りに向かっています。

「お姉さま、そんなにアルマスがお気に入りだったのですか?」

「んー、長く乗ってると愛着湧かない?」

「私は、無いですね」

「そっか、雛子は割り切り出来るんだね」

「そうかな?」

「そうですよ」

格納庫でフィオレンティーナを直してくれた方々にお礼をし、乗りこむ。

「流石穏健派の本部の方々ね」

今回、イマさんの命令で、フィオレンティーナのテストとサリナの実力を確かめるため、模擬戦をします。

今回はお互いにライフルと模擬刀のみとなっている。その理由は機体性能に頼らず、パイロットの実力を見る為です。フィオレンティーナとエストミューナはメインフレームが一緒らしいので、装甲と武装を除けば、同性能です。

広場に行くと既にサリナのエストが待ってました。エストはフィオレンティーナを見るなり、片足を上げて、手を降ります。

[ゆかちゃんの機体、私と一緒だね!]

[ちょ!サリナ!ヴァンテージさんに対して失礼だよ!]

「大丈夫、怒ってないよ。もしよかったら、サザーランドさんも、名前で呼んでいいからね」

[あ、はい、じゃあ、由華音さんって呼びますので、私の事も名前で呼んでください]

[よかったね!みなちゃん!お友達が出来て!]

[サリナ!由華音さんとはまだ友達じゃ…]

[えー、名前で呼びあえば、お友達って言ってたじゃん。それにみなちゃん私以外にお友達がいな…]

[わぁー!ストップ!サリナ!もう喋らないでー!]

「お姉さま、賑やかで楽しいですね!」

「え、えぇ、そうね」

何故、サリナがミナになついているか分からないが、いいコンビだと思います。

「サリナちゃん、ミナちゃん、初めていい?」

[はい!由華音さん!]

[うん!いいよ!ゆかちゃん!]

エストはライフルを数発撃つと同時に後ろに下がりました。なので、私もライフルを撃ち、応戦します。

「元がエストミューナだけに、サリナは射撃戦が得意なようね。それにしても、ちょっとぎこちないのはしょうがないか。私の癖を知らないし、直っただけでもよしとしよう」

エストの射撃は正確で回避するのが困難なぐらいだ。

[ゆかちゃん、避けすぎ!]

[そりゃ、演習とは言え、勝負だからね]

[でもでも、こんなに当たらない人初めてだよぉ!]

[落ち着いて、サリナ。焦ると余計に当たらなくなるよ]

サリナが焦っているのか、エストは徐々に狙いが甘くなっていく。

「射撃の腕はいいけど、集中力がちょっと短いわね。じゃあ、接近戦はどうかしら?」

模擬刀を構えると、射線を回避しつつ、接近し、無防備な胴を狙う。

[来るよ!サリナ!]

[分かった!みなちゃん!]

エストは素早くブレイド抜き、受け止める。

「反応はいいわね」

エストはブレイドを弾くと、ライフルを撃ってくる。

「至近距離で撃ってくるとはね」

紙一重で避けると、再び、ブレイドを振り下ろす。

そうした攻防を続ける事30分した後、今はウィンダムの食堂で、休憩中です。

「ゆかちゃん強いね!私が戦った中ではトップクラスだよ!」

「サリナ、フィオレンティーナに乗っているんだから、当たり前でしょ。それより、由華音さんって元ラツィオだったのですか?」

「えぇ、機体と一緒に捕虜になったの」

「そうだったんですか…」

一瞬、ミナの表情が険しくなりましたが、直ぐに元に戻りました。サリナもそうだが、ミナも訳有りのようですね。

「あら?皆そろってるわね」

「あ、イマさんどうかしましたか?」

「アブレイズからの任務よ」

イマに付いていき、ブリーフィングルームに入ります。

「連れてきたわ。シレア、説明を」

「はい、アルグ穏健派の代表、アブレイズ大将から任務でブルーフォレスト基地の救援に向かって欲しいとの連絡を受けました。なので、ウィンダムは今、アルグ穏健派のブルーフォレスト基地に向かう準備をしています」

「ラツィオ軍のようじゃが、過激派も近くにいるらしく、エクラも目撃されてるようじゃ」

「エクラかぁ、ちと厄介だなぁ」

確か、エクラは過激派で、パイロットは非常に好戦的だった。味方でも強ければ戦闘すると言う危険人物だったかな。

それにエクラは近接特化型で背中にメイスを、肩のアタッチメントに戦斧が2本、腕にはクローと言う、近接なら無敵だが、遠距離では無力化するという極端な機体だった。

しかし、デメリットを相殺する脅威的な機動力と強固なシールドを装備している厄介な相手だった気がします。

「お姉様、気を付けてください。エクラのパイロットは非常に好戦的なので、ラツィオの機体であるフィオに襲いかかってくるかもしれません」

「え?IFFがあるから大丈夫じゃない?」

フィオレンティーナは少し前にミレアによって変更されている。過激派とは言え同じアルグだ。

「それが、最近、過激派は専用のIFFを入れたらしくて…」

「それは厄介ね」

「由華音と、サリナはエクラの動向に注意つつ、ラツィオ軍の撃退をお願いね」

「了解です」

「はーい!」

ブリーフィングしている内にウィンダムは発艦しました。

そして、ブルーフォレスト近くの海域に到着したので、ブリーフィングルームにヴァルカン艦長を残し、私達はロッカールームへと向かう。

素早くパイロットスーツに着替え、フィオレンティーナに乗り込み、雛子と共にフィオレンティーナを起動させたら、私は自分を落ち着かせます。

「お姉様、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、雛子」

気がつくとフィオレンティーナは既に発艦準備が終わっていたので、私は意識を切り替えてスロットルを開け、最大推進状態リヒートにする。

[フィオレンティーナ、発艦、どうぞ!]

「フィオ、出るよ!」

カタパルトが動きだし、フィオレンティーナは空域へ飛び立つ。私は先に発艦していたケイ機とイマ機に追い付き、後ろを飛びます。その後ろをエストが続く。

[由華音、サリナ、危なくなったら逃げなさい]

「はい!イマさん」

[サリナ!基地付近の味方を助けに行くよ!]

[はーい!]

基地があると思われる方向には複数のラツィオ軍と少数のアルグ穏健派が交戦しているが、押されている感じだ。私はイマ機と連携し、ラツィオ軍を撃破していく。最初は敵機体と警戒されましたがIFFのお陰で攻撃されずに済みました。

周囲のラツィオ軍を撃退すると、穏健派がフィオレンティーナの回りに集まってきます。

[ありがとな!ラツィオの機体さん!]

[助かりました、ありがとうございます!]

それぞれ感謝の言葉を述べていく、穏健派の人達。

[由華音、もうここは大丈夫だから、次、行くわよ]

「了解です」

他の場所でも、ラツィオを撃退し、一息ついているとシレアから連絡が入りました。

[イマさん、由華音さん、ラツィオ軍のノースシーロード基地が壊滅したと言う情報が入りました。そして、現在ブルーフォレスト基地沖合いにラツィオ軍の新型大型空母、イラストリアスがいます。過激派と交戦中のようですが、どうしましょうか?因みに交戦中の機影にエクラとアルテミューナがいます]

「っ!もしかして、アヤもいるかも!」

[由華音、行くの?]

「…私の部下だもの、見殺しには出来ない」

「お姉さま…」

[…ふふっ、貴方だったらそう言うと思った。ミナ!サリナ!由華音の護衛をお願いね]

[かしこまりました!サンク大尉!]

[了解!いまちゃん!]

[いってらっしゃい、由華音、雛子。帰ってくるのよ]

「はい!」

「分かりました!イマさん!」

スラスターを吹かし、イラストリアスがいる海域へエストと共に向かいます。

そして、海域へ着くと、多数の過激派のアルマスとラツィオ軍の量産機が交戦してます。その中に、エクラの姿がありますが、アルテミューナの姿がいません。その代わり、アヤが普段乗っている偵察機がエクラと戦っていました。

「お姉さま、あの動き、もしかしたら…」

「えぇ、アヤが乗っている。サリナ、援護お願い」

[任せて!ゆかちゃん]

由華音はエクラに向かってフィオレンティーナを飛ばす。偵察機はエクラのメイスを受け止めているが、パワーが違いすぎるのか、右腕がブレイドもろとも破壊される。そして、メイスが胴体に当たる瞬間、偵察機とエクラの間に入り、メイスをブレイドで受け止める。

[…ヴァンテージ大佐]

「また、私を大佐って呼んでくれたね」

エクラは何かに気付き、フィオレンティーナから離れると、数発のミサイルがエクラを追いかけて行く。

[ゆかちゃん!私があれの相手してるから、お友達と仲直りしてね!後で私にも紹介してね!]

[由華音さん、頑張って!応援してるから]

エストはそのまま、エクラを追いかけていく。

残されたのは、私のフィオレンティーナとアヤが乗ってる偵察機のみです。

[どうして、私を助けたのですか?貴方を殺そうとした私を]

「部下を助けるのに理由は必要?」

[…何が貴方を変えたか、分かりませんが、変わりましたね、ヴァンテージ大佐。以前は無機質で、仲間の死にも何とも思わなかった貴方が部下を思うなんて]

「そうね、私自身もそう思ってる。ねぇ、アヤ、もう一度、私の元へ戻ってこない?」

長い沈黙の後、アヤが喋りました。

[…ラツィオ軍を抜けろと、言う事でしょうか?]

「そう言う事になるね」

[あんなに貴方に酷い事をした私を許すと]

「私は別にアヤを恨んでいないから。アヤはラツィオの軍人として、正しい事をしただけよ」

[以前は名前で呼んでくれなかったのに…分かりました、私は再び貴方の元に戻ります]

「アヤ…」

[ですが、再び私から裏切るようなら今度こそ、後ろから撃ちます]

「分かった、覚悟しておく」

[話は終わったか?]

気付くとアルテミューナがすぐ近くにいました。

[待ってください、ボーセル少佐!私は…]

[悪いが聞かせて貰った。インテンス大尉が大佐の元へ戻るなら、あたしも大佐の元へ戻る]

[無論、我らイラストリアスクルー全員も同じ考えだ]

[ダンフリーズ艦長…]

[大佐、以前あんな事言ってすまない]

「ボーセル大尉、私は気にしてないよ」

[大佐…]

[それより、ヴァンテージ大佐、話がしたい。イラストリアスに着艦許可を出すので、来てもらえないだろうか?]

「分かりました」

[じゃあ、あたしは大佐の友軍を援護してくるぜ!]

「気をつけてね」

[では、案内します、ヴァンテージ大佐]

アヤに案内され、イラストリアスへ着艦します。イラストリアス周囲ではまだ、戦闘しているが、エクラをアルテミューナとエストが押さえているお陰なのか、周囲の過激派のアルマスの数は少な目です。

着艦後、格納庫にフィオレンティーナから降りて艦内を雛子と一緒にアヤの案内で歩く。そして、ブリッジに入ると、一人の男性が、振り向きました。

「久しぶりだな、ヴァンテージ大佐。そして、ようこそ、アルグのお方」

「ダンフリーズ中佐、よくご無事で」

「雛子・セナ・シグネットです」

周囲を見ると、全員、此方向いて敬礼をしてます。

「お姉さま、人望あるんですね」

「一応大佐だからね」

「ヴァンテージ大佐、聞いていると思うが、ラツィオのノースシーロード基地が壊滅した。私は、イラストリアスクルーに今後の方針を聞いた結果、全員がヴァンテージ大佐に付いていきたいと言う事になった。それでだが、アルグの代表の方と話がしたい」

「私の方から話をしておきますね」

「ありがとう、ヴァンテージ大佐。さて、まずは識別信号を変更しなければ。サリバン中尉、ヴァンテージ大佐の機体からIFFのデータとれるか?」

「はい!可能です!」

「では、イラストリアスと全機動兵器に適用を」

「了解!」

「では、ヴァンテージ大佐、さっそくだが、機動兵器部隊の指揮を頼む」

「分かりました。行くよ!雛子」

「はい!」

私と雛子は直ぐに格納庫へ行くと、フィオレンティーナに乗り込みます。

[おかえりなさい、ヴァンテージ大佐。覚えているでしょうが、初めての方も居ますので、通信担当の葵・フェルテです]

[イラストリアスの火器担当のアスナ・パーキンスです。援護がご所望なら連絡を]

[識別、レーダー担当のユイ・サリバンでーす!敵を見失ったら言ってね!]

「雛子・セナ・シグネットです。ヴァンテージさんのサポートしてます」

「皆、久しぶり、そして、またよろしくね」

[はい、では、ヴァンテージ大佐、発艦準備は整ってます]

「じゃ、行ってきます!」

スロットルを踏み込み、最大推進状態リヒートにし、大空へ。

[お帰りなさい!ヴァンテージ大佐!]

「ただいま、戦況は?」

[辛うじて迎撃してますが、押されぎみです!]

私は送られてきた機動兵器のリストを見る。

「雛子、周囲の警戒をお願いね」

「は、はい!」

現在いるメンバーはツカサ・ボーセル少佐がアルテミューナがエストと共にエクラを相手に、デレック・デイリー少尉がディフェンダーで、イラストリアスの防衛、ブルーノ・コーガン少尉がイラストリアスからショットで狙撃、マーティン・ブランドル中尉がディフェンダーでアルマス相手に接近戦、パトリック・ペスカロロ大尉がアタッカーで接近戦、スイハ・ニールセン準尉がショットで、その盾役として、同じ準尉のロジェスティラ・サラザール準尉がいる状況です。

「アタッカーが少ないな」

本来、アタッカーである、ボーセル少佐が不在の為、少々バランスが悪い。

「私が近接やれば少しは負担が減るかも…ニールセン準尉!援護お願い!」

[ひゃ!ひゃい!]

指示を出しつつ、ブレイドで敵機を切る。何とか戦線を押し返すと、少し余裕が出ました。

「そう言えば、ウィンダムは?」

[ヴァンテージ大佐、イラストリアスから3時方向、距離2000にて確認、アルグ過激派と戦闘中のようです。レーダー反応を見ると劣勢のようです]

「分かった、皆エネルギーは大丈夫?」

[こちらブランドル、エネルギーが残り少ない]

[同じくペスカロロ、こちらもエネルギーが少ない]

「了解、帰投して補給を」

[こ、こちらニールセン、まだ大丈夫でしゅ!]

[同じく、サラザール、まだまだ大丈夫です!]

「そっか、でも疲れてない?一旦帰投しよっか」

[[かしこまりました!]]

ニールセン準尉、噛んだような気がしますが、可愛いので聞こえてないふりしときましょうか。

[ど、どうしよう!ロジェ、私、上官の通信で噛んじゃった!]

[だ、大丈夫だよ!スイハちゃん!多分聞こえてないよ!]

二人共、通信が、入ってるのに気がついてないのでしょうか。

「スイハさんとロジェスティラさん、年齢近そうだし、お友達になれるかな?お姉さま」

「雛子ならきっとなれるよ、私からも話しておくし」

「ありがとうございます!」

補給の為に私はイラストリアスに帰投するのだった。

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