第10話

ウィンダム内で修理の為に装甲を外されているフィオレンティーナを私は邪魔にならない所から見ていました 。

フィオレンティーナは複座のコックピット、腹部にあるビーム砲、キャパシタ等の要因により、胴体周辺のスペースが厳しく、両脚部にメインジェネレータがあります。

本来なら蹴りをするとジェネレータを破損させる原因となるので、やらないよう言われてますが、由華音はフィオレンティーナの初出撃で咄嗟とは言え敵機を蹴りをして第一ジェネレータを壊しています。そしてジェネレータの修理の時に脚部フレームの強化と装甲の材質の変更が行われその結果、蹴りをしてもいいと、シャウラから許可が出たと言う経緯がありました。

被弾しやすい足に動力原をつけるリスクは大きいですが由華音の技量により、そのデメリットはほぼ相殺され、ジェネレータと言う重量物が脚部に有ることにより、蹴りの質量があがり、威力が増す。さらに陸上ではバランサーを付けなくても重心が低くなると言う、メリットもあります。

しかし、デメリットを考えると、採用しているのは被弾率の低い、ベテランパイロット用機体、ティーナシリーズのみとなっています。

「ここにいてもしょうがないし、ブリッジに行こうかな」

私は格納庫を出て、ブリッジへ向かう。そして、ブリッジに入ると何故かラストフィート姉妹の熱烈な歓迎を受けました。

「ゆかみん、待ってたよっ!」

「由華音さん、お待ちしておりました」

「由華音さぁん、歓迎しますぅ」

「な、何事?」

「なんとなくゆかみんが来ると思っていたのっ!」

「そ、そう…」

「折角だし、ゲームしよっ!」

イレアはコントローラを何処からか出してきました。

「えーっと、イレアちゃん達って普段はブリッジにいるんだよね?」

「そうだよー、と言っても殆どゲームしてるけどねー」

「私達は寝るとき以外は常にウィンダムを制御しているのです」

「それにぃ、ブリッジにいなくてもぉ、コントロール出来るんですよぉ」

「え?どうやって?」

「これでっ!」

そう言うとイレアは頭についていたコウモリの羽のようなアクセサリーを外しました。

「それ、ヘッドギアだったのね」

「シレアもミレアも形は違うけど同じのがついているよっ!」

私はシレアとミレアを見ると、シレアは耳の辺りに天使の羽根の様な飾りが、ミレアはかんざしのデザインヘッドギアをしている。

それぞれアクセサリーとして違和感無く、ついていたので、まさか、それがヘッドギアだとは思いませんでした。

「その、ゲームしてて大丈夫なの?」

「平気平気、私達の処理能力を甘く見ちゃいけないよ?例え、ゲームしながらでも迎撃出きるしぃ。それとも、ゆかみん、私達がサボってるって思ってる?」

「えっ!」

「そう思われても仕方ありません」

「事実ですしねぇ」

一番真面目なシレアでさえ、認めているので自覚はあるようです。

「それじゃ、見せてあげるよ、私達がサボって無いって事をねっ!ってな訳で、ミューンズブリッジ基地に着くまでゲームしよっ!」

「しょうがないわね、分かったわ」

私はイレアからコントローラを受け取り、用意してくれた椅子に座ります。

「あ、お姉ちゃんだけズルい!私も由華音さんと遊びたいです!」

「私もぉ、由華音さんとぉ、やりたいですぅ」

「これこれ、お前たち、ヴァンテージ大佐を困らせるんじゃない。ヴァンテージ大佐、申し訳ないが、基地に着くまで、相手してあげてくれないじゃろうか。わしじゃ、とても相手にならないと言われてて…」

「だって、ヴァル艦長弱すぎて話にならないんだもん」

「イレア、ちょっと言い過ぎじゃあ…」

「そうですよ、お姉ちゃん、ヴァル艦長はシミュレーションゲームなら出来るんですよ」

「ヴァル艦長はぁ、激しい動きが出来ないんですぅ」

一見すると、シレアとミレアはフォローしているように見えるが遠回しに、相手にならないと、言っている感じです。

「さ、ゆかみん早くやろ!」

「分かった分かった、後でシレアもミレアも一緒にやってあげるね」

「ありがとうございます、由華音さん」

「はぁーい、待ってますからねぇ」

その後、ほんとにミューンズブリッジ基地までラストフィート姉妹のゲームに付き合わされました。

「はぁ、疲れた」

私はふらふらしながら自室へと戻ります。

イレアはシューティングゲーム、シレアはシミュレーションゲーム、ミレアは対戦格闘ゲームと、ジャンルが違いすぎて適応させるのが大変でした。おまけに、ヴァルカン艦長も遊びたくなったらしく、笑顔で自前のチェスを持ってきたので、断りづらいので相手しました。ヴァルカン艦長、チェスでは世界大会に出る程の腕前で、ほぼ、負け知らずだったが、あそこまで完敗したのは初めてらしいようで。

でも、どのゲームもやった事無いのに、どの姉妹とも、互角に戦えたのはこの体の反射能力のお陰でしょうか。

「ちょっと、寝ようかな…」

無事にウィンダムはミューンズブリッジ基地についていました。フィオレンティーナは運び出され、ミューンズブリッジ基地内で整備されています。ヴァルカン艦長の話によりますと、元ラツィオの技術者がいるため、完璧に直せるそうです。しかし、私は特にやることがないし、ラストフィート姉妹の相手して疲れてます。それに、雛子は日用品の買い出しでいません。

自室へと入ると私はそのまま、ベッドへ倒れると、直ぐに意識が無くなりました。

「んぅ…今何時?」

時計を見ると、一時間ぐらい寝ていたようです。

「まだ、食事の時間じゃないし、調べものでもしようかな」

ウィンダムの部屋のモニターには色んな機能があります。その中にある、アルグのデータベースに私はアクセスします。

アルグでは、情報共有の為にデータベースの閲覧は自由であり、折角なので調べるのはフィオレンティーナの左腕を切った因縁の相手のエクスフェイトとラツィオの現状を確認する。エクスフェイトは私を撃退した後、何処に行ったのか、今はどうしているのかが少し気になります。

アルグのデータベースの情報によるとラツィオ軍はあの大戦後、主力艦隊を失い、戦力が大きく低下しているようです。さらにアルグの過激派により、各地の基地が壊滅され、現在残っているのは本部のあるシベリア基地と、ミューンズブリッジ基地から、北東にある島、ノースシーロード基地だけとなっているみたいです。

「アヤは、最近よく遭遇するから、このノースシーロード基地にいる可能性があるわね」

大人しく投降してくれるとも思えないし、最近、活動が活発化しているアルグの過激派が邪魔する可能性もある。

さらに、アルグ内で今後の方針での会議に穏健派と過激派で少しいざこざがあって近い内に内部抗争が発生する恐れがあるとの事らしい。そうなると過激派と戦闘になることもありそうですね。

そして、エクスフェイトが今何処に、パイロットはどちらの派閥に所属となっているかの確認の目的もある。

前世の記憶にある、ゲーム内ストーリーでは最後でラツィオ総帥の機体、ファルアスティーナと相討ちして、大破、海に漂っていたした機体は回収されたがパイロットは行方不明になったんだっけ。

「っと、あったあった。えっと現在、パイロットは行方不明…名前はエリセオ。それと、エクスフェイトは現在、航空要塞ファイルーテオンにて修復、改良中。このファイルーテオンは…どっちの派閥か書いてないわね」

エクスフェイトの行方はわかったが状況次第では再び私の前に立ち塞がる可能性があります。しかも改良されてるとなると苦戦も想定されます。

「何を調べているのです?お姉様」

「わぁぁぁ!って雛子だったのね」

突然声がしたのでびっくりしたて椅子から落ちそうになったが踏みとどまります。

私が大声出した事により、雛子もびっくりした顔で此方を見ています。珍しい顔が見れたなと、内心思いました。

「お姉様、何か後ろめたい事でもしていたのでしょうか?」

「え?そんな事ないよ?ちょっとね、ラツィオとエクスフェイトの事を調べてたの」

モニターを見せながら説明します。

「エクスフェイト?」

「…知らない?」

「よく、知らないですね。私が知っているのは、アルグで1初の機動兵器って事と、乗る人には特別な資格が必要って事ぐらいかな。…エクスフェイトがどうしたのですか?」

「あー、うん、先の大戦での因縁があるのよ。そう言えば雛子は大戦の時は何処にいたの?」

「私ですか?既にウィンダムに配属されていて後方支援でしたね。あの大戦は過激派が起こしたので穏健派は後方で救助、支援活動やってました」

そうなると私が撃破していった戦艦や機体は過激派だったのか。記憶が曖昧だが撃破した数は戦艦が10隻ぐらい、機体が三桁いってたような。

「そう言えば、エクスフェイトに因縁があるって言ってましたが何かあったのですか?」

「えーっとね、フィオの左腕切られた上に蹴られて爆発に巻き込まれたの」

「だからお姉様のフィオはあんなにぼろぼろなんですね。でも、よく生きていましたね」

「爆発が少し遠かったから被害が軽減したのかも知れないね」

もし、至近距離で巻き込まれていたら機体ごと運命を共にしたでしょう。私の機転とフィオレンティーナの装甲のお陰と言えます。

しかし、フィオレンティーナが動かなかったら危うく海の底で酸欠か、餓死する所でしたが。

「確か、エクスフェイトは機体だけ回収されたって…」

「えぇ、データベースにもそう書いてある。でもどうして機体だけなのかしら?」

機体だけが見つかったと言う情報しか無いが、相討ちした後、動かないとは言え、機体を破棄してコックピットを抜け出す理由が分からない。そのまま機体ごと回収されても問題無いはずだが…。

「直接見た訳じゃ無いので私もよくわかりません」

「そっか、そう言えば、なぜウィンダムは私のいた基地に?」

「えーっとですね、ある日、基地内に電気が灯ってるって言う、近隣住民から情報が入りまして」

「…アルグって、近隣住民と仲良いんですね」

「はい!ラツィオ軍による、圧政から解放し、その後の支援までしてますから」

つまり、私がブレーカーいれたのがバレたって事ですね。

「それで、調査をお願いしたいと。最初は誰かが盗みに入ったと思ったのですが、連日、光が漏れていたので、誰か住んでいると言う事で、調査に向かう事になったんです」

「そうだったんだ。で、何でアルマスを?」

「アルマスで行けば、生身の人間なら抵抗されても対処しやすいですからね。でも、まさか奇襲され、更に高性能機のフィオが出てきたから、イマさんと、ケイさんは大慌てでした」

そりゃ、私も高性能機が突然表れたら慌てるよ。

「最初は抵抗が激しく、撃墜も視野に入れる所だったんですけど、急に動きが鈍くなったので急遽、捕獲する事にしたみたいです」

「そうだったんだ。あの時、無駄に抵抗しなくてよかったな」

「何があったのですか?」

「聞いてないの?」

「はい」

私は撃墜されてから、捕獲されるまでの経緯を話します。前も誰かに話した気がしますが。

「そう言う事だったんですかー」

雛子は両手を合わせ、納得したような仕草をしました。非常に可愛い仕草で、つい、顔がにやけそうになりますが、何とか堪えます。

「そうだ、忘れる所だった」

私は思い出したようにキーボードを操作しエクスフェイトの事を調べます。雛子も気になったのか、後ろからモニターを覗き込んできました。

「エクスフェイトって今はファイルーテオンにあるんですね。あの戦艦って、着陸しないんですよね」

「へぇ、どうやってずっと飛んでいるの?」

「電力をソーラーパネルと、原子力で発電だったかな。それでプロペラをモーターで回していた気がします」

「確かに、それなら無限に飛んでいられるねで、そのファイルーテオンは誰が所有してるの?」

「ちょっと、分からないですね」

「そっか」

もし、過激派だったら面倒な事になりそうです、そうじゃない事を祈りますが。

「それはそうと、ウィンダムに新しく、パイロット2名と機体が編入されるそうです」

「別に人数は減ってないと思ったけど」

「私達のいる部隊って、緊急任務が来るまで基本的に警戒任務がメインなんですけど、お姉さまが来るまでアルマスしか無かったんです。今までは狙われる事が無かったのですが、最近、ラツィオに目を付けられてしまったので、戦力の増強をするようです」

「そうなんだ、でも、他に高性能機は思い付かないし、アルマスが1機増えた所であんまり変わらなくない?」

「それが、普通のアルマスじゃないらしいです」

「普通のアルマスじゃない?」

私が知る限り、アルマスのバリエーションは無いと思ったのけれど。

「明日くるそうです」

翌日、そのアルマスがどんなのか、確認するためにイマと、ケイ、雛子と一緒に格納庫へ行く。

「イマさんも興味あるなんて、意外ですね」

「あら?私は一応隊長だからね」

そして、格納庫のハッチが開き、1機の機体が入って来ました。

「なんか、アルマスと言うより、フィオに似てない?」

「でも、頭部はアルマスですよ?」

「て、言うか、頭部だけ、アルマスね」

謎のアルマスは機体を固定させるとパイロットが二人降りてきました。

「アルマスに複座なんて、あったっけ?」

「いや、無いです」

謎のアルマスから降りてきた二人組は私達の方を見ると、此方に歩いて来ました。

「…この艦の方でしょうか?」

「えぇ、私はイマ・サンク。機動兵器部隊の隊長をしているわ」

「由華音・ルキアル・フリード・ヴァンテージです。よろしくね」

「雛子・セナ・シグネットです」

「ケイ・ユイットだ!」

「…私はミナ・サザーランド。こっちは…」

「サリナだよ!みなちゃん共々よろしくね!」

ドライなミナにイレアみたいに明るいサリナ、変わったコンビだと思いました。

「よろしく。それで、あのアルマスの事なんだけど…」

「あぁ!あれね!なんかね!私の為に、ぱーっと、改造してくれたの!」

サリナが手振り身振り説明しているけど、私は全く分からない。周りを見ても皆、同じようにな感じです。

「あー、サリナの説明じゃ、分かりづらいですよね。あれは、エストミューナを改造しているんです。エストって呼んでください」

「エストミューナを?どうして」

「話せば長くなるんですけど、サリナが普通のアルマスに乗るのを嫌がったので、仕方がなくサリナが乗ってたエストミューナを誤射防止の為に改造したのです」

「だってみなちゃんと離れるのイヤだもん」

サリナはそう言うと、ミナに抱きつました。

「ちょ、ちょっと!サリナ!人前ではやめてって!」

「やだやだー!」

抱きついているサリナをミナが強引に引き剥がすと、サリナは悲しそうな顔をしました。

「…サリナ、そんな顔しないでよ」

「だって、みなちゃんが…」

「…しょうがない、特別だからね」

「やったー!」

サリナは再び、ミナに抱きつきました。

「えーっと、私達は何を見せられているのでしょうか」

「申し訳ありません、サリナは私が近くにいないと暴れてしまうので、基本的に二人で一人だと思ってください」

「…えぇ、分かった。艦長の所に案内するわ」

流石のイマも少し、困惑してますね。

「ありがとうございます。では、失礼します。サリナ、歩くから、放して」

「やだー!」

「ほら、腕組んでいいから」

「いいの!やったー!」

サリナはミナの腕を組んで歩き始めました。

「ばいばーい」

「何だか賑やかになりそうですね」

「えぇ、そうね。さ、雛子戻ろうか」

「はい!」

サリナの正体が気になったがその内分かるだろうと思い、部屋に戻るのだでした。

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