第7話
ウィンダムは補給が終わり、出港待機状態でしたが一つ問題がありました。
「え?私の乗る機体が無い?」
「先の大戦でアルマスが品薄で、雛子の乗る機体が納品されなかった」
「えー、じゃあ私、何をすれば…」
「雑用すればいいんじゃね?パイロットとしての腕もイマイチだし」
「アンステッドさん、ヒドイ!お姉さま聞いてください、アンステッドさんがいじめるんです!」
それを聞いた私は苦笑いしか出来ませんでした。
「えーっと、雛子、遂に雑用係になったの?」
「お姉様まで?!」
冗談だけど、雛子の反応が可愛くてつい言ってしまいました。しかし、冗談ばっか言ってると雛子が拗ねてしまうため、何とかしたいのですが…。
「でも、他に機体無いんでしょ?」
格納庫には私のフィオレンティーナを含め、7機ありますが、どれもパイロットが決まっています。雛子の腕はよく分からりませんが、パニックになって被弾してる辺り、由華音から見たらまだ未熟ですね。
「それはそうですけど…私だってまだ成長出来ると思うんです!」
「なら、私と誰かのアルマス借りて模擬戦する?」
「えぇ!お姉様のフィオ相手じゃ勝ち目無くないですか?!」
新機能、新技術を惜しげなく投入した性能重視のフィオレンティーナと大量生産を目的に簡略化されたアルマスでは、性能差が有りすぎて勝負しても瞬殺でしょう。私は少し考えて、一つの結論を出します。
「なら、私も同じ機体に乗って勝負しよっか」
「え?」
幸いウィンダム内にはフィオレンティーナ以外は、アルマスしかないので、誰かのを借りる事が出来ます。
私はこうして雛子と模擬戦の約束をつけました。雛子は嫌そうにしてましたが。
次の日、ウィンダムが出港しある程度、基地から離れた空域でケイのアルマスに乗った雛子とイマのアルマスにのった私が対峙しています。
模擬戦と言う事で演習用のライフルとブレイド、シールドをそれぞれ装備してる状態です。
ケイとイマのアルマスはカラーリングこそ違うが中身は全く一緒であり、今回は雛子の為にと、快く貸してくれました。
私は初めて乗りますが、フィオレンティーナより簡素な為、問題はなさそうです。
「雛子、準備はいい?」
[は、はい!お姉様!]
[両者、準備が出来たみたいなので、では、始めてください]
雛子は緊張してるみたいでしたが、シレアの号令と共に私は、スロットルを開け、ライフルを撃ちながら接近します。
演習用のライフルはレーザーとなっており、光線は見えるが無害で、剣も同様に無害です。
雛子は回避しますが私は予測しており、進行方向に向けて数発撃ちます。
雛子は避けきれずシールドで受け止めようとしましたが、一部が脚部に当たりました。
私は更に撃つが、雛子は回避しライフルで反撃してきました。私は動きを読まれないよう、全速力で縦横無尽に動いて接近し、ライフルを収納してブレイドを持ち、側面からあえてシールドを持っている左腕に狙いを定めて振り下ろします。
「雛子!本気でやってる?」
[はわわ、お姉様、本気ですー!]
雛子は辛うじてシールドで防ぐが、私は続け様に左足で回し蹴りをする。蹴りは無防備の雛子機の右腰に当たり、吹っ飛ばされ、体勢を立て直すが、私は接近し横凪ぎで右腰を狙います。
奇しくもシールドで防がれるが私は右足で蹴ってシールドを吹っ飛ばしました。雛子もシールドが無くなって慌てたのか、ライフルを乱射し始めます。私はシールドで一部を防ぎつつ、距離を取り回避します。
[お、お姉様少し、手加減して…ください…]
雛子が呼吸を整えつつ言いました。
「手加減したら雛子の為にならないような…それじゃあ、少し待ってあげる」
私はそう言うと動きを止めます。その間に雛子はシールドを回収し、体勢を整えました。
私は準備出来たと思い、再び接近します。手加減と言う事で私は、ライフルを使わずに行くことに。雛子は接近してくる私にライフルを撃つが、私は全て避けて、ブレイドを振り上げて、当てようとしましたが、間一髪の所を避けられました。
「少しは学んだかしら?」
[お姉様の姿を追うだけで精一杯ですー!]
雛子の焦った声が聞こえましたが、私は構わず、回し蹴りをし、雛子機のバランスを崩します。
「ふふっ、なんだか、楽しくなっちゃった。少し本気を出そうかしら?」
私はだんだん楽しくなり、テンションが上がってきました。
雛子ようやく姿勢を整えた瞬間に、接近し、ブレイドと蹴りの連続攻撃を打ち込みます。雛子は防御するも連撃に対応出来ず、攻撃を受けて戦意喪失しました。
その後、少し休憩して再戦するも連戦連敗の雛子。格納庫に戻り、機体から降ります。
「お姉様…容赦ないです…私、ちょっと自信無くしました…」
「ごめん、雛子。ちょっとやりすぎちゃった」
私が派手にやったせいで機体に傷が付いてしまったので、謝まりましたがケイとイマは良いものが見れたと言って、何も問われませんでした。
しかし、落ち込む雛子をほっとけないので私はある提案をします。
「そうだ!雛子、フィオのセカンドシート空いてるからどう?」
「え?」
フィオレンティーナは何故か複座です。シャウラによると実験的要素が有ると言っていたような気がありましたが真剣に聞いていなかので、何があるのかは知りません。居なくても支障が無かったから放置してましたし。
「は、はい!乗ります!」
雛子は快く快諾してくれました。休憩後、早速セカンドシートに乗り込む雛子。私はいつものメインシートに座り、機体の電源を入れます。
「どう?雛子、2回目だけど、何がある?」
「前乗った時はお姉さまの試運転に振り回されてよく見てませんでしたが、えっと、レーダーですかね、これは。他にも通信装置や機体の状態を示すモニターがありますね。レバーとペダルとキーボードもあります」
そうなると操作補助をする程度と認識する。
先ほどの模擬戦見ていたケイとイマが戦ってみたいと言ってましたので複座のテストも兼ねてフィオレンティーナでやることに。勿論、演習用ライフルとブレイドを使いますがフィオレンティーナの為に二本づつ用意してくれました。流石にフルパワーだと破損させてしまうためで出力を30%にし、1対2とハンデを与える事にします。
[由華音、準備はいい?]
「えぇ、大丈夫よ、ケイさん、イマさん」
[それでは、初めてください]
シレアの号令と共にイマがライフルを撃ち、ケイが剣を構えて突っ込んで来ました。フィオレンティーナは出力は30%ですが、今回、フィオレンティーナの機動力を見たいとの事なのでスラスター出力は制限せずにする事に。私は一気に
[くっ!速い!]
[いつの間に!?]
ケイとイマから動揺した通信が入りましたが、私はケイに向けて右手のライフルで牽制、左腕で回避先に射撃、ケイは一部を受け止めるつつ、回避を取るが、私が撃った本命が脚部に命中する。
「お姉様、7時方向から来ます!」
雛子がそう言うと私は即座に反応し、イマがライフルを撃ってくるがそれを最小限の動きで回避する。その間に右手のライフルを背中に仕舞い、ブレイドを取り出して左手のライフルを牽制で撃つ。イマは難なく避け、反撃し、ケイが死角からブレイドを振りかざしてやって来るが、それも雛子が捉え、私は右手の剣で受け止める。
[由華音に死角は無いのか!?]
[えぇ、そのようです!]
ブレイドを弾くとケイさんが一旦離れる。
「ありがと、雛子。助かったよ」
「お姉様のお役にたてて光栄です」
和んでる暇も無く、ケイとイマは同時攻撃を仕掛けてくる。二機で同時にライフルを連射してくるので、それを私は回避すると、ケイはブレイドを振りかざして来るので、両手にブレイドを持ち、それを難なく受け止めます。すると、イマが死角からやってきました。
「お姉様、危ない!」
「え?」
雛子が咄嗟に手元にあったレバーを操作すると、フィオレンティーナの左腕が動き、イマのブレイドを受け止める。
私は一瞬勝手に動いたのかと思ったが雛子が操作したのだと理解する。
「ごめんなさい!お姉様!勝手に動かして」
「いいのよ、雛子」
私は雛子をなだめます。
二機は近距離では無理と感じたでしょうかライフルを構えて離れていきます。
「雛子、後ろをよろしくねっ!」
「はい!」
私達は何時しか連携がとれるようになり二機を圧倒するようになりました。
高性能機とは言え、一対二、しかもパイロットは熟練者と言う不利な模擬戦でも、勝利した私と雛子。格納庫に戻り、キャットウォークに降りると、雛子も続いて降りてきます。
「雛子、以前乗ったときは加速で失神してたのに今回は大丈夫なのね」
「あ、はい、集中してたらあまり感じなくて」
「そうだったの」
以前のテストより、機体を振り回していましたが、集中出来る事があれば耐えれるので実戦でも問題無いでしょう。雛子と会話しているとケイさんとイマさんがやってくる。
「由華音、強いな!私とイマの連携を防ぐなんて」
「以前にも思いましたがこれは、頼もしい戦力ですね」
「いえ、雛子がいなかったら負けてましたから」
「へぇ~、ヒナがねぇ?」
ケイさんはセナを見つめる。
「えっとケイさん、そんなに見つめなくても…」
「今まで囮ぐらいになれば良いと思ってたヒナがねぇ?」
「えぇ!ケイさんそんな風に思っていたんですか?!」
「まぁ、あの戦闘まで無傷で帰って来た事は褒めるけど、雛子、自分の戦果知ってる?」
雛子は言いづらそうにしていたが、直ぐに理由がわかりました。
「えっと、その…2機、です」
「心優しい雛子にはパイロットよりもサポートが向いているのかも知れません」
「それに雛子の分も私が戦うから、安心して」
「お姉様…頼もしいです!でも、ちょっと疲れましたし、休憩しましょう」
雛子が手をとって行くので私は返事しついていきます。イマさんとケイさんも後をついてました。
食堂で私とイマはコーヒーを、雛子はジュース、ケイはお茶を頼みます。
模擬戦の後、色々試しましたが、基本的にメインシートの操作が優先されるらしく、セカンドシートはメインの入力が無い状態だと動くと分かりました。
「由華音ってラツィオ時の階級は大佐だっけ?」
「えぇ、元ですけどね」
「それならその実力は納得ですね」
イマが納得してます。
私は少し気になった事がありますので聞いてみます。
「皆さんはいつからアルグのパイロットに?」
最初に語ったのはケイでした。
「あたしはアルグに入ったのは12年前でパイロットは5年前からだな。ラツィオの野郎に故郷を滅ぼされて復讐するためにに入ったのさ」
12年前、私が軍に入ったばっかりの時ですね。その時はそんな事してるとは思ってはいませんでしたが。
「そうですね、私はケイより後で3年前で機動兵器の経験もありましたので同時にパイロットになりました。私は元はラツィオに所属していましたが重症を負いましたのでそのまま退役、長期の治療しました。そして、故郷帰ったらケイの誘いでアルグに入りました。まぁ、ラツィオには未練無かったですしね」
由華音はその時、一人の人物を思い出します。それは、自分を庇ってくれた上官を。しかし、覚えている名前はリーザ・ライオネル・ヴァンキッシュ小将だったし、眼鏡はかけてなかったはずです。雰囲気と顔が似ていたのでそう思ってしまったのでしょう。
「由華音?私の顔に何かついていますか?」
「あ、いえ!昔お世話になった上官に似ていましたので…」
無意識に顔を見ていたので慌てて顔を反らす。
「ふーん、由華音はその上官が好きだったのね…」
私は一瞬、イマさんの顔が穏やかな顔をしたような感じがしました。もしかしたらと思いましたが、今は追及を止めておきます。
「私は2年前からだよ」
「うん、雛子は腕前からそう感じてた」
「え?分かるんですか?」
「雛子って視野が広いんだけど、いっぺんに処理出来なくて慌ててるよね。咄嗟の判断も悪くないんだけど」
「由華音、そんな事までわかるのか」
私は部下を何人も育ててきたから分かります。その人の癖や弱点などの特徴が。
食堂で雑談をしているとその時、警報が鳴りました。
「えっと、これは敵対勢力と遭遇だっけ?」
「そうです、お姉様覚えましたね!」
「二人とも、和んでないで行きますよ」
イマさんに促され更衣室でパイロットスーツに着替え、格納庫へ向かいます。
フィオレンティーナのセカンドシートへ雛子が、私がメインシートへ座ります。電源を入れて各種チェックを雛子に任せ、私は心を落ち着かせます。
「お姉様、準備完了です!」
「わかった!」
ケイ機、イマ機と続き、他の機体も発進していきます。最後にフィオレンティーナが発進準備が整うと、シレアから通信が入りました。
[発艦準備完了、射出タイミングはパイロットに譲渡します]
「フィオレンティーナ、出ます!」
スロットルを全開にすると同時にカタパルトが動き、発艦します。
[敵対勢力はぁ、15機、その内のぉ、一機は他の機体よりぃ、速いのでぇ、注意ですぅ]
「お姉様、聞きました?エース級がいるようです」
「そうね、他の方じゃ撃破される可能性があるわね」
そうなると高性能機がラツィオ軍にまだある可能性があり、アルマスでは被害が大きくなると言う事もあるので性能が一番いい自分が相手した方が良いかもしれない。
[由華音!白い機体の相手頼む!私達じゃ勝負にならん!]
先行するケイから通信と座標が入る。
「お姉様、2時方向です!」
私はその方向に向かう。暫く飛んでいるとイマとケイが白い一機に翻弄されています。
こうなるとパイロットの腕では機体性能差を補えない感じですね。私はライフルを撃ち、敵機を此方に振り向かせる。敵機は此方に気付き、ブレイドを構えて接近して来ました。私は左手をソリッドブレイドに持ち変えてスラスターを吹かします。お互いブレイドを振るい、鍔迫り合いに状態にして、隙を作ると、ケイとイマは離脱させます。
私はそのまま押し込み、突き飛ばして距離を取る。相手はそのまま後ろに下がりながらライフルを撃ってくるので、私はそれを回避しながら反撃する。敵機のいる座標に一発、予測進行方向に2発、その間に一発撃つが相手は見切っていたかの様に不規則な動きで回避された。
「手強い相手だ」
私は相手がどう動くか様子を伺っていたが敵機は立ち止まっただ。
「どうしたのかしら?」
「お姉様、気をつけてください。誘い出しているかもしれません」
敵機は未だに止まったままなのでライフルを一発撃つ。相手は直前まで動かず、咄嗟に回避すると、何事も無かったように反撃してきた。
「やっぱり、罠だったようね!」
回避つつ、反撃のチャンスを伺う。 その後も敵機と一進一退の攻防を続ている内に由華音は違和感が出てきた。相手の動きは何処かで見た記憶があると。それに敵機がフィオレンティーナに似ていると。
「この動き、どこかで…」
激しい攻防でフィオレンティーナを覆っていたシートが外れると敵機の動きが再び止まった。戦っていた敵機がラツィオ軍なら知らない者は居ないであろう、フィオレンティーナなら動揺するのも無理はないと私は思っていた。
バレてしまっては仕方がないと思った私は斬りかかる。相手は直前で防ぐと反撃することも無く、何処かへと飛び去っていく。
「行っちゃいましたね、お姉様」
「…」
私は敵機が飛び去った方を何時までも見つめていました。
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