第8話

謎の白い機体を撃退した私は考え込む。その間に雛子が機体を操りウィンダムに帰投させてくれました。

「お姉様?着きましたよ?」

「あ、雛子、ありがとう」

「お姉様、あの白い機体を随分気にしていますね」

機体を固定した後、私と雛子は機体を降ります。隣に止めた機体からケイが、その奥からイマが降りてきて、歩いて此方に向かってきました。

「由華音!助かったぜ!」

「アルマスじゃ、歯が立たない相手だったわね」

「あ、うん」

「どうした?由華音。気になることでもあるのか?」

「…ううん、何でもないわ」

私は少し苦笑いして、更衣室に向かい、アルグの制服に着替え展望デッキへ向かう。

そこで私は外を見ながらさっき出会った白い機体を思い浮かべる。

「あの動き、私は何処かで見た気が…」

先ほどの白い機体の戦いかたは独特な動きがあり、見覚えがあったような気がした。

しかし、それを何処で見たかは思い出せずにいる。戦闘の途中、機体を覆う布が外れてフィオレンティーナとバレた上に逃げられてしまったので由華音が敵になったと言う事実がラツィオ内で広まったのは確実でしょう。

そうなるともう機体を隠す必要も無いので少しは動きやすくなると思いつつ、今後の対応も考えなくてはならない。

ふと、視線を感じ、振り向くとそこには半分隠れるように覗いてる雛子がいた。内心その姿が可愛らしかったので見つめていたが、雛子が気まずそうな顔をして引っ込む。

「雛子、どうしたの?」

私は不安にさせないよう、笑顔で呼び掛ける。雛子はまた少し顔を出して私の顔色を伺うと安心したように出て来る。

「お姉様…」

「大丈夫よ、雛子。次会ったら倒すから」

私は無理やり笑顔を作って答える。

「お姉様、無理をしないでください。いくら強くても、人は心は弱いんですから。何かあったら私に頼ってください。私達はパートナーなんですから」

「雛子…ありがと」

それから数日、出撃はしたが白い機体は出ない日々が続きました。

「今回も来ませんでしたねあの白い機体」

現在、海上で敵部隊を迎撃し終わったフィオレンティーナの中で雛子が呟いてます。私は内心、出会いたく無いと思いつつもモヤモヤ感が残ってます。もしかしたらあの白い機体に乗っているのは私の知っている人かもしれないと。

「3時方向より急速に接近する機体が2機あります!」

「もしかして…!」

私は機体をその方向に向けると白い機体と偵察機が真っ直ぐに向かって来てます。

「最初から此方狙いのようですね。どうします?お姉様」

「既に見つかってるから戦うしかないわね」

私はライフルを構えます。すると、敵機は数十メートル手前で止まりました。

「どうしたんでしょうか?無防備に立ち止まって」

私は警戒しつつ、様子を見てると突如、敵機の偵察機の方からの通信を受信します。

「どうします?お姉様」

「繋げて、雛子」

私がそう言うと雛子は通信を繋げます。

[こちら、ラツィオ軍、ヴァンテージ部隊所属のアヤ・インテンス大尉。そちらの機体に乗っているのは由華音・ルキアル・フリード・ヴァンテージ大佐で間違いないでしょうか?]

私はその声を聞いて思い出します。

「ア…ヤ…生きて…?」

突然、現れた副官に動揺してしまう由華音。

「お姉様?大丈夫ですか?」

雛子が呼び掛けているようですが、なに言ってるか聞こえなかった。

「こちらはアルグ所属、雛子・セナ・シグネットです。用件は何でしょうか?」

[アルグ…だと?何故アルグが大佐の機体を!]

[やめなさい!ボーセル大尉!ヴァンテージ大佐が乗っている可能性があるのよ!]

白い機体は唐突にブレイドを振り上げてくる。

「お姉様!」

雛子の切羽詰まった声で私は我に帰り、咄嗟にソリッドブレイドを抜刀すると、相手のミドルブレイドを受け止めます。

「私はここにいるわ!」

[大佐?]

ボーセル大尉と呼ばれた女性は攻撃をやめる。

[本当に大佐ですか?しかし、私の知っている大佐の口調では……]

[ボーセル大尉、多分、あれが素の性格なのでしょう。それよりヴァンテージ大佐、本当にアルグにいるのですか?]

「…えぇ、本当よ。今、私はアルグに所属している」

[まさか、あたし達を裏切ったのか!]

「私…は…」

[どうなんですか?ヴァンテージ大佐]

どう言い返せば分からず黙ってしまったのが、問題になってしまい、悪い方へと流れてしまった。

[…ヴァンテージ大佐、直ぐには言えないって事は私達を裏切ったって事でいいんですよね。…私の姉が、命を懸けてまで守られる人かどうか、見極めていましたが、どうやらそんな価値はないようですね!]

「姉?まさかあなたは…」

[ボーセル大尉!フィオレンティーナは見た感じ、十分な整備を受けてないようです!援護しますので、今ここで撃墜させてください!]

「アヤ!待って!話を…」

[あたし達を裏切ったヴァンテージ大佐がいけないんだよ!]

白い機体がエールユニットからミサイルを放って来るので、急降下して、海面を飛ぶ。ミサイルは付いてこれず、海面に当たり爆発していく。

[逃げるな!大佐!]

続いてレールガンが飛来、紙一重で避けて、ウィンダムに合流する為に上昇します。

「突き放さなきゃ…」

しかし、アヤの言うとおり、満足にメンテナンスされてないフィオレンティーナでは追いかけてくる白い機体と偵察機を突き放す事が出来ません。

[ヴァンテージ大佐!私はあなたを許しません!姉を大怪我に追いやり、仲間を裏切ったあなたを!私はもう上官として認めません!]

偵察機のスナイパーライフルがエールユニットの翼を貫く。するとフィオレンティーナは揚力を失い、降下していく。

「しまった!」

私は急いで着陸出来る島を探します。

「お姉さま!前方に島が!」

「分かった!」

機体降下させ、砂浜に着陸する。白い機体も砂浜に着陸しました。

[もう、逃げられないぞ!大佐!大人しく死にな!]

白い機体がミドルブレイドを横凪ぎに降ってきたので、ソリッドブレイドで受け止める。

「お姉さま、右!」

「くっ!」

飛んできた弾丸をショートブレイドで弾く。

[流石ですね、ヴァンテージ大佐。手負いの機体でそこまでやりますとは]

「二人とも、本気で私を殺す気なのね」

[あなたが悪いのです。どうして、今まで連絡しなかったのですか?]

「そ、それは…」

[っは!どうせ、負けた事を隠したかっただけなんだろ!]

白い機体がソリッドブレイドを弾き飛ばすと左手でフィオレンティーナの頭部を掴み、押し倒してきた。そして、左腕を踏みつけ、右肩にミドルブレイドが刺してくる。

[ヴァンテージ大佐、最終通告です。ここで名誉ある戦死するか、ラツィオの軍法会議にかけられるか]

ラツィオの場合、脱走兵は士官クラスでも、銃殺刑になることがほぼ確定である。

「…どっちを選んでも私にとっては、死しかないじゃない…」

[それは、自業自得です。ヴァンテージ大佐。生きる時間が少し長くなるだけです]

フィオレンティーナを見下ろすように、偵察機が着地してきた。

「分かった、投降する。だけど 、雛子には手をださないで」

[分かりました。それは約束します]

私はハッチを開け、外に出ます。

「お姉さま…」

「心配しないで、生きて戻って来るから。救難信号だせば、ウィンダムが来てくれると思うから」

「約束ですよ!」

そして、雛子に合図を送りハッチを閉めまさせる。

閉じたのを確認すると、私はフィオレンティーナの上から降り、砂浜へと降り立ちます。

[ボーセル大尉!ヴァンテージ大佐を拘束してください!]

白い機体から人が降りてくると、私に近づき腕を捻りあげ、手錠を掛けます。

「いっ!」

「インテンス大尉!完了だ!」

[了解です、ボーセル大尉]

偵察機の腕が優しく私を掴みます。そして、そのまま、胸部の前まで持ち上げられます。

[ヴァンテージ大佐、目付きが優しくなりましたね]

「そう?」

[えぇ、ラツィオにいた頃とは、大違いです。この2ヶ月間、何がありましたが、分かりませんが、残り少ない人生を楽しんでください]

「私は、大人しく死ぬ気はないから」

[…そうですか、なら、今ここで名誉ある戦死を選びますか?]

私を握る手が強くなります。

「っ!」

全身の骨が軋み、息が出来ません。

「あああ!」

[ここまでにしときましょうか]

握る力が弱まります。

「では、行きましょうか。機体は置いていきましょう、誰か乗ってますし、損傷して使い物にもなりません」

偵察機と白い機体はそのまま離陸し、何処かへと向かいます。

[寒いと思いますが、我慢してくだだい。まぁ、脱走兵が座る席はありませんけど]

風に晒されながら、どれくらいたったのでしょうか、偵察機が何処かの基地へと着陸する。

すると、足元に大勢の兵士が集まる。

[脱走兵を捕まえました!独房へ入れておいてください!]

地上に降ろされると、数人の兵士に連れられ、独房に入れられる。

「ヴァンテージ大佐、あんたには失望したよ」

去り際に名も知らぬ兵士に言われた言葉が私の心に刺さりました。

「何とかしなきゃ…」

このままでは、銃殺刑は確実でしょう。しかし、手錠は頑丈で壊せそうもありません。

「万事休すか。ちょっと疲れたわね、仮眠しておきましょうか」

私は壁にもたれ掛かり、目を閉じます。

…何時間寝ていたのでしょうか、牢獄に響く足音で目が覚めました。

「アヤ…」

「ヴァンテージ大佐、明後日、軍法会議が行われます」

「そう…」

「名前で呼ばれる事なんて無かったのに。目付きだけではなく、性格もお変わりになりましたね」

「…」

「この2ヶ月間、何があったのですか?」

「そうね、そんなに聞きたいなら話しておこっか」

私はエクスフェイトに撃墜されてから、アヤに再開するまでの出来事を話します。

「そんな事が。ですが、だからと言って、許される行為ではありません」

「えぇ、そうね。でも、私は後悔なんてしてない。アルグにいた人達は優しくしてくれた。敵だった私を」

「そう…ですか」

「だから、アヤも後悔のない人生をね」

「……貴方に言われなくても」

アヤは踵を返していきました。

「はぁ、私の人生もここまでか」

そして、軍法会議の日、私は移送の為、自殺されないよう、特殊なマスクを付けられ、抵抗出来ないよう、全身を拘束されます。辛うじて動く足は、足首同士を繋がれ、歩くのが精一杯です。

両脇を兵士で固められた状態で敷地内に止まってる移送車へと乗せられます。扉が閉まる瞬間、アヤが声を掛けてきました。

「ヴァンテージ大佐、お別れです。さようなら。二度と会う事もないでしょう」

私は口を塞がれているので何も喋る事は出来ませんが、扉が閉まる瞬間、アヤの方を向いて笑顔を作りました。見たかどうか分かりませんが。

移送車の扉が閉まると椅子に座らされ、両隣を銃を持った兵士が座ります。

そして、移送車が走り出して暫くすると、急ブレーキして止まりました。

「敵襲だ!」

「迎撃体制をとれ!」

「対機動兵器用無反動砲を!」

私は顔を上げ、外の様子を見ます。すると、機動兵器の足が見えました。

「強すぎるぞ!この少女!」

「お兄さん達がぁ、弱すぎるんですぅ」

「お前達も外に出て応戦しろ」

「了解!」

「そんな豆鉄砲じゃ、あたしに当たらないよっ!」

両隣の兵士も外に出て行きました。一瞬、光が差しましたが、直ぐに消えます。

(もしかして、ウィンダムの皆が助けに?)

一瞬そう考えましたが、たった2ヶ月の付き合いで、しかも捕虜の私をリスクを犯してまで助ける義理は無いでしょう。

(ごめん、雛子、約束を守れそうに無い…)

外では依然として戦闘が続いています。時折、銃弾が移送車の壁を貫いて来ました。

「こいつらの目的はディザータか!」

ディザータ、ラツィオでは脱走兵を表す言葉です。つまり、今襲っている人達の目的は私と言う事に。

「ならば、今すぐディザータに射殺許可を!」

「駄目だ!いくらディザータでも勝手に射殺する事は許されん!」

どれくらいの時間が経ったのでしょうか?戦闘が終わったのか静かになりました。

「ゆかみん、こっちかなー?」

「待って!今鍵を開けるから!」

「蹴っ飛ばした方が早くないですかぁ?」

「駄目です!当たったらどうするんですか!」

何やら聞き覚えのある声がします。そして、扉が開き、3人の少女が表れました。

「っ!」

「いました!由華音さん発見です!ウィンダムに連絡します!」

「ゆかみーん!生きてるー?」

「まだ、生きているようですよぉ」

ラストフィート姉妹は私に近付くと、鍵を開け、拘束を解いていきます。

「ちょっと特殊な鍵ね、これ。でも、そんなに難しくないわね」

「壊した方が早くないですかぁ?」

「んー、その辺の人が持ってないかなぁ?」

結局、探すより早く、シレアがピッキングで解錠し、外れました。

「っぷは!マスクしてると息が詰まるわね」

「由華音さん、安堵している暇はありません。増援が来ない内に逃げますよ」

「うん」

移送車の外へ出ると、そこには一機のアルマスがいます。

「イマさん!」

「由華音、コックピットへ!」

アルマスの腕を伝い歩き、コックピットへ入ります。

「ちょっと窮屈だけど、移動だけなら問題無いわね」

アルマスのハッチは閉まると、飛び立つ。

「え、あの娘達はいいの?」

「姉妹の事?問題無いわよ」

心配になってモニターでラストフィート姉妹の姿を探すと、彼女達は昔見た、生身でロボットを倒すアニメの如く、枝から枝へ、素早く飛び移ってます。

「えぇ、何あれ…」

「ミレアなんて本気になれば素手でアルマスを撃破出来るわよ」

「完全にアニメの世界じゃん…」

「これで、あの娘達が規格外って分かったでしょ?」

「うん」

イマと会話しながらアルグの基地にいるウィンダムへと着艦します。

「フィオが回収されたって事は雛子も無事なのね」

フィオレンティーナは両腕が外された状態で格納庫にありました。

「えぇ、もう雛子が、お姉さまが死んじゃう!お姉さまを助けて上げて!って、言って泣きわめいてたのよ?」

「あー、雛子に謝らなくちゃね」

「部屋にいると思うわ。早く行ってあげて」

「ありがとうございます、イマさん」

走って部屋へと向かう。扉の前で息を整えると、扉を開ける。

「お姉…さま」

「ただいま、雛子」

雛子は走ってきて私に抱きつく。

「お姉さま、心配したんですよ!」

「約束したじゃない、戻って来るって」

「でも…でも!不安だったんです。イマさんからラツィオの事情を聞いて…」

「そっか…でも、私はどんな状況でも雛子の元に戻って来るからね」

「約束ですよ!お姉さま」

雛子と指切りをし、約束を守ろうと誓う私だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る