第6話
アルグの本部はヨーロッパ北西の島国、グレートブリテンに有るとヴァルカン艦長が言っていました。
遊撃部隊のウィンダムは物資の補給の為に定期的に近くのアルグの基地に戻るみたいです。
「本部ってこんな所にあったのね。ラツィオ連合軍シベリアの何処かあるらしいけど、今はどうなったのかしら?」
「情報によると、まだあるみたいです。それでアルグの本部がヨーロッパに有るのはラツィオが手を出しにくいからね。それと、ラツィオは今、最高司令官を変えて再建を目指してるみたいです」
私は再建しようとラツィオ軍に戻る気はありませんが、最高司令官が変わった事でどうなるかは興味があります。
「それはそうと、ラツィオは最近静かね」
雛子が端末を操作し調べてます。
「今の所、大きな動きは無いようです」
そう言えばそれなりに会話してた整備兵のエルヴィス・シャウラ曹長はどうなったのでしょうか、後、副官のアヤ・インテンス大尉も。二人とも脱出したはずだから無事だと思いたいですが。
「そう言えば、お姉様のフィオレンティーナですが…」
「フィオでいいよ、雛子」
「はい、わかりました。それで、本部に報告してあるとはいえ、過激派に見つかると面倒な事になりそうなのでシートで厳重に隠蔽するそうです」
「そう、私は?」
「お姉様に関しては問題無いです。パイロットの私服姿なんて余程じゃない限り知られていませんから」
確かに私は前世の記憶がある前は声が低くかったから恐らくバレないかと。知り合いは…いないはず。元ラツィオがいても自己保身の為に言わないでしょうし。
[まもなく着艦します。衝撃にそなえてください]
シレアの艦内放送が響き、私と雛子は部屋に設置してある椅子に座ります。
「雛子は本部に来たことはあるんだよね?」
「はい、何度もありますよ」
可笑しな質問だと自分でも思ったが、雛子は律儀に答える所も可愛い娘である。
少し衝撃があったので着艦したと理解する。雛子が立ち上がり、私の手を掴んで引っ張る。
「行きましょ、お姉様!」
「え?何処に?」
「街に出ましょう。艦長には許可をとってあります!」
この娘は毎回いつ許可をとってるのだろうか。
雛子は私の手を掴んでウィンダムを出ると他のクルーも続々と出てきます。補給に関しては基地の人間と一部クルーが行うので他の乗務員は自由行動らしいです。
私と雛子は日用品と服を買いに行くことに。基地から出て、街の中を歩きながら私はふと、自分の貯金はどうなったのだろうかと思った。私物は乗艦と共に海の藻屑へ。こんな事ならフィオレンティーナに隠しておくべきだった。ラツィオから入金は止まってるだろうし、私は今、戦死扱いなのか分からない。勿論手持ちは一千も無し。
「あの、雛子、ちょっといいかな?」
「はい、何でしょうか?お姉様。もしかしてお金の事ですか?私、出しますよ?」
私は雛子にお金を借りられるか聞いてみる事にしたが見透かされていたようだ。
「いいの?」
「心配ないですよ。それなりに貯めてありますから。それにお姉様をコーディネート出来るなら安いもんです!」
雛子は派手な服装や生活している様子はなく、引っ越しの時も荷物は少なかったするあたり、少々謎の多い娘だが表裏はなさそう。私と雛子は歩きながら街中で見かけた店に入ります。私はアルグに来て以来、紺のジーンズと白のカッターシャツ、靴は軍用のブーツと、シンプルだがミスマッチ感が否めない。
「アルグの制服は後に支給されますので、休日に着る私服を選びましょう。身長が高いですからロングスカートとか似合いそうですよね」
「そ、そうかな?」
ラツィオ軍時代の由華音は制服しか着ていなく、私服は持っていなかった。
そのため、何が似合うか私自身把握していない為、雛子にお願いしたが、暫く雛子の着せ替え人形となってしまった。
ある程度の量の服を買って(雛子の奢りで)次は靴屋に来ていた。
「お姉様、足も長いですからブーツも似合いますね」
結局、ブーツとスニーカーをそれぞれ一足づつ買い、帰り道にインナーを買って、ついでにアクセサリーも買い、一旦ウィンダムに戻り、着替える事にした。私は買って貰った服と靴に変え、雛子に見せる。
「ど、どうかな?」
「凄くお似合いです!お姉様!」
今、私は白のワンピースに青色のケープ、ロングブーツにベレー帽、黒い革手袋と言う服装になっています。
そして、昼食をするため、再びウィンダムを出て街に行きます。補給が終わったのかラストフィート姉妹も加わりました。
「ヒナってゆかみんと出会ってから明るくなったよねぇ?」
「そ、そうかな?」
「そうですね、入った頃は暗くて、オドオドしていましたから」
「それにぃ、失敗ばかりでぇ、よく泣いていましたしねぇ」
「ちょ、ちょっと!お姉様の前でそれを言わないでー!」
雛子は恥ずかしいのか顔を赤くし、抗議してます。思わぬ所で雛子の過去が暴露されたが、それを知っているラストフィート姉妹も謎である。見た目は雛子より幼そうなのに。
そして一行はラストフィート姉妹行きつけの店に入るとそこはお洒落なカフェでした。
椅子に座り注文をした後、料理が来るまでに私は気になった事を聞いてみます。
「イレアちゃん達って何時からアルグにいるの?」
「ゆかみん、もしかして気になるぅ?」
イレアが笑顔で返事しました。
「え、えぇ、ちょっとね」
「簡単に言うと設立時からいるのっ!」
アルグは確か数十年前にラツィオ軍の強大な戦力と傍若無人な行いに対抗するため、ラツィオに賛同しない人々が中心となって出来た組織だと、入った頃にそう教えられました。そうなるとイレア達は歳上の可能性が…
「ゆかみん、もしかして私達の年齢探ってるぅ?」
「あ、いえ!そんな事は…」
咄嗟に否定するが、恐らくバレているでしょう。
しかし、イレアは気にする様子も無く、シレア、ミレアの回答を伺っている。
「んー、シレア、ミレア、どうするぅ?」
「由華音さんならいいんじゃない?」
「そうですねぇー、いいんじゃないぃ?」
シレア、ミレアが賛同した事を確認したイレアは私を大きな瞳で見つめてきました。一瞬、私は緊張するがイレアは私の状態を察したのか笑顔を作る。
「私達はね、生きてる年数はゆかみんより上だけど肉体的年齢は下だよっ!」
一体何を言っているのかと思ったが何かしらの理由があるのだろうと私は考える。
しかし、実際は複雑な事情だった。
「私達姉妹は両親がラツィオの研究員でその研究所で行われていた遺伝子研究の過程で生まれたの。その研究内容は人間の延命と身体能力と処理速度の強化。研究された理由は前線で長く戦える最強の兵士の作成。なので生きてる年数は56年だけど肉体的年数は14歳相当しかないの」
「身体能力に関しても私達はぁ、他の人の10倍以上の能力があるんですよぉ。でもぉ、延命の方は失敗してぇ成長が遅くなっちゃったんですよぉ」
私は生きてる年数にびっくりだがラツィオがそんな研究してる事に驚きを隠せない。確かに、用途不明の研究所の護衛はやったが中でそんな事やっているとは知らなかった。
戦争の為に自分の娘の生命を弄るなんて、今の私だったらその研究所内容に憤慨しているが、当時の由華音は内容知っても気にもしなかっただろう。
「料理が来たし食べよっ!ゆかみん」
「由華音さん、私達の事は気にしないでくださいね。両親は既に研究所と共に死んでますし、私達は誰も恨んでいませんので報復も考えていませんから」
「そうですぅ。私達は過去よりもぉ、今を大切にしていますからぁ」
私の考えている事が分かったのか姉妹は私を気遣うように言う。
「お姉様、食べましょう!」
「えぇ、そうね」
運ばれて来た料理食べながら会話を楽しむ私達でした。
食事をした後、私達は再び街に出ます。シレアによると補給はまだかかるらしく、もう暫く街を彷徨う事にしました。
「そう言えばゆかみんって趣味なーにぃ?」
「え!えっと、その…」
そう言われて私は考えてしまう。ラツィオ軍に所属している時は休日は体力が落ちないよう、筋トレか、疲れて寝てるぐらいと言う、女性の趣味とは言いがたい。
中には趣味の人もいるかも知れないが由華音は体力作りと言う理由なので趣味ではない。
「もしかしてゆかみん、趣味無いのぉ?」
「お、お姉ちゃんちょっと失礼じゃ…」
「でもぉ、図星みたいですよぉ」
私が黙っていたらそう思われてしまったようだ。
「お姉様、これから作れば良いんですよ」
「えぇ、そうね。でも何をすれば…」
今から作ろうにも悩むものでもある。
アルグは規則は有るものの、犯罪や問題行動など、やらなければ、問題無い。
現にラストフィート姉妹は携帯ゲーム機でゲームに興じてるぐらいなので幅広い趣味が出来ます。ブリッジにいるときもやっているみたいですが、持ち前の処理能力と反応速度でゲームしながも片手間で対応するという超人を披露しているらしい。
因みに艦長は瞬時に対応してるからと許可しているとか。
反対にラツィオ連合軍は規則が厳しく、趣味は折り紙だったが業務や任務に必要な物以外、持ち込めない為、泣く泣く辞めた。
だが、士官になり個室が受領されると不要な書類をこっそり折っていたが、直ぐにシュレッダーに入れていた。
…前世はゲームだったけど。
「また、始めようかな…」
「お姉様、何か始めるんですか?」
「そうね、軍に入る前に辞めた趣味をね」
「お姉様が辞めた趣味って何ですか?」
「その、笑わないでね」
「笑いませんよ、他人の趣味で笑う人は人としてダメですから」
その言葉聞いて私は安心します。
「その、折り紙なんだけど…」
「…え?」
「やっぱ、可笑しいよね。元軍人の私が折り紙なんて」
雛子の反応見て私は言った事を後悔しが、雛子は一瞬、意外そうな顔をして直ぐに笑顔になりました。
「本当ですか?!お姉様。私もなんです!」
雛子は嬉しそうな顔で私の手を握る。どうやら雛子と一緒のようだ。
「これで、一人寂しくしなくていいねっ!」
「お姉ちゃん、それ言ってはダメなんじゃ…」
「でもぉ、イマさんにぃ、怒られて泣いてる時にぃ、部屋に引きこもってぇ、やっているのを見たことありますよぉ」
「あ、貴女達、いつの間に…」
「ハッキングなんて朝飯前だよっ!」
雛子が再び秘密を暴露されて項垂れる。姉妹は悪びれる様子はなく、淡々と話す。私はその様子を見つめる。
「でも、泣いている雛子を一度見てみたいね」
「お、お姉様、そ、それより、折り紙を買いに行きましょ!私、売ってる所を知っていますから!」
雛子が私の手を引っ張って走ると、続いてラストフィート姉妹も付いてきます。そしてとある店の前で止まりました。看板を見ると本屋のようで、中に入ると想像以上の雑誌や文房具が揃っています。
「私、雑誌なんて久し振りに見るね」
私は雑誌のコーナーを眺めつつ、目的の物を探します。雛子も付いて来ますがラストフィート姉妹は途中にあったゲーム雑誌に夢中になっています。
「お姉様、こっち!こっちです!」
雛子が片手を挙げながら呼んでるので向かう事に。そこには多彩な種類の折り紙が売っており、私はじっくり見て、どれにしようか選びます。
「お姉様、これなんてどうです?普通の折り紙から和紙まで有りますよ?」
「そうね、雛子が選んだそれにしようかな」
由華音はそれを手に取り、雛子と共にレジに向かい、購入します。
ラストフィート姉妹もゲーム雑誌2種類をお金を出しあって購入していました。
「さ、帰りましょ!お姉様!」
雛子は私の腕に抱きつき、歩いていく。ラストフィート姉妹も少し後ろを歩いています。
「ゆかみんとヒナ、まるで恋人みたいね」
「雛子さんも心許せる相手が出来たって事よ」
「仲良しはぁ、良いことですぅ」
ラストフィート姉妹が何か言っていたが、雛子が嬉しそうな顔をしているので聞かなかった事にし、私達はウィンダムへと帰のでした。
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