第5話
ウィンダムの艦内は大きく分けて住居区間、艦橋、格納庫と分かれています。クルーは艦長のみ個室で他は複数人部屋となっています。私は捕虜時は個室だったが今は雛子と一緒の部屋に移っています。
正式には入ってないが反逆の恐れなしとな言われてたので自由に艦内を歩けるようになりました。なので今は展望デッキにて、外を眺めています。
展望デッキは普段は二重の強化ガラスとなっているが戦闘になるとカバーに覆われるようです。理由は戦闘によるガラスの破損を防ぐ目的があるからだそうだ。
ぼんやり外を眺めていると扉が開き、雛子が入ってきました。
「あ、お姉様。ここにいらしたんですね」
「ちょっとね、外を見たくなって」
「外なら部屋でも見れますが」
確かに外を見るだけなら部屋のモニターに外を映し出せる機能があります。
「でも、モニターよりガラス越しで見る空は綺麗じゃない?」
「それもそうですね」
雛子は私の隣に来て手すりにもたれ掛かる。
「お姉様、何か考え事してました?」
「え?」
「遠くを見るような顔をしていましたので」
「そっか、私そんな顔をしていたのね。…昔の事をね、思い出してたのよ」
咄嗟の言い訳ですが疑われずに済みました。
「そうだったんですか。せっかくですしお姉様の昔の話聞かせてくれますか?」
私は頑張って思い出します。
「そんなに面白い物でもないけどね。いいよ、私がラツィオ連合軍に所属してたって聞いてるよね?」
「はい、イマさんから聞いてます」
「因みにどれくらい私の事聞いている?」
「えっと、敵軍の女性士官を捕虜にしたから服を頼むって言われて、最初は士官だから怖い人かと思ってました。でも、優しい人でよかったです」
「ふふっありがと」
「えっと昔の話だっけ、私が軍に入ったのは13歳の時ね」
「え?お姉様、そんな歳から軍にいたのですか?」
「そうよ、戦死したと思ってる父の遺品を探す事と、母の為にね、稼ぐ為に。軍に入れば給料は入るし、私が戦死しても母は軍から援助受けれるしね。母には止められたけど」
「お母さん思いなんですね」
「父がよく家を開けてたから、苦労ばっかりかけたからね。最初は訓練に付いていくのが精一杯だったけどそれでも辞めずに頑張った。同年代はいなくて周りは大人ばっかりだったけど」
「寂しくはなかったんですか?」
「寂しかったけど、母の為と思ってね。そして、機動兵器のテストパイロットに選ばれて、機動兵器のテストタイプに乗って訓練したのよ。で、そのテストタイプを改造して、より実戦向きのマクミリスティーナが出来たの。年齢から言うと、14歳から機動兵器の訓練して15歳でパイロットとして前線に出たって感じね」
「え、お姉様15歳で前線にいたのですか?」
「えぇ、私、呑み込みが早くて他に機動兵器を扱える人がいなかったから。私はそこでヴァンキッシュ部隊に組み込まれて、機動兵器で後方から援護射撃だったし、戦場から遠かったから比較的安全だったけど、戦争が激化し、機動兵器も性能も向上、敵も鹵獲したり、開発したりして機動兵器同士の戦争になったのよね。相手は弱かったけど」
その当時、機動兵器は多かったが、パイロットの育成不足もあって敵軍の機体は由華音が瞬く間に撃破していった。
「そうだったんですか。私は戦争孤児で、すぐに教会に預けられたのでその辺りはよく分かんなくて」
「雛子、孤児だったのね」
「はい、両親の顔は知らないんです。物心付いた時から兄と教会にいましたので。ある日、教会が戦闘に巻き込まれて怖くて飛び出したら砲弾が見えたので目を瞑ったんです。凄い音がしたので目を開けたら大きな手が私を守ってくれました。見上げたら巨大なロボットがいたんです。それで恐怖で立ち止まっていると見知らぬ人達に保護されたんです。その後は、アルグに保護されるまでの記憶が無いんですよね」
「そうだったのね」
私は思い出す。レジスタンス制圧作戦のエリア内に敵拠点の近くに教会があったような気がしました。そして相手の流れ弾が当たりそうな少女を当時の乗機、マクミリスティーナの手でガードした時、少女が此方を見上げていた記憶が由華音にある。私はまさか雛子なハズがないと思った。
「私、最初から機動兵器のパイロットだったから年齢は一番低いのに、機動兵器の戦歴は一番だったりするので戦果が一番多いのよね。部隊は私と隊長除いて全滅は何度かあったし、単独で一個小隊と戦った事もあるし」
「え、お姉様強すぎません?」
「そんなことないよ、運がよかっただけだし」
マクミリスティーナが大火力で蹂躙、制圧する機体だったので、満足に動けない敵機を殲滅してただけだった。
一方的で、逆に待ち伏せで味方が壊滅、やられそうになった事もあったかな。機体の装甲が厚く、残弾が沢山あったから良かったものの。
「でも、流石に至近距離からの無反動砲の集中砲火を浴びて、機体が大破した時は死を覚悟したかな。慌てて降りて、武器も何も持たずに武装した敵から逃げて基地に帰って来たとき、敵前逃亡罪って言われて軍法会議にかけられたっけ。ヴァンキッシュ少将によって判決は踏みとどまったけど、次の作戦を成功させれば銃殺刑を取り消すって言われて」
「敵から逃げて罪なんて…」
「一人の独断が部隊全員の生命に関わるからね。それで、その次の作戦が単独での敵基地破壊だった」
「え、機動兵器も無しにどうやったのですか?」
雛子が首を傾げる。私はその姿が可愛くてにやけそうになりましたが堪えました。
「普通に考えたら無理だよね。でも私は生きたかったから、絶対に達成しようと頑張った。敵基地に潜入して各所に爆弾しかけていったけど、最後の一個を仕掛けて逃げる時に見つかっちゃってね、捕まったのよ」
「それで…どうなったんですか?」
雛子が不安げに聞いてくる。
「拷問に近い尋問されたの。相手も17の少女に尋問とか拷問とか、大人げないと当時は思ったのよ。まぁ、相手からしたら男だろうと、女だろうと、敵である事は変わらないけどね。心身ぼろぼろにされたけど、何とか逃げ出して起爆させたの。帰ったらヴァンキッシュ少将が驚いた顔した後、抱き締めてくれた。成功出来るとは思わなかったって」
「その…尋問内容は聞きたくありませんが、どんな状態だったんですか?」
「昔は金髪だったのよ、私。長期間の捕虜生活で金髪だった私の髪は白くなったの。服装はぼろぼろだし、全身傷だらけだし」
今思うと良く生きて帰ったなと。
「でも…お姉様、今は薄紫っぽいですが…」
「これはね、染めてるの。白髪って言われるのがイヤで」
ストレスか拷問の影響か、分からないけど由華音はあの日以来、金髪じゃ無くなった。
「私が後少し、帰って来るのが遅かったら敵基地を私と一緒に爆撃する予定だったみたい。ただ一人、ヴァンキッシュ少将が必死に止めてたみたいだけど」
「危なかったですね、お姉様」
「えぇ、ヴァンキッシュ少将がいなかったら私、今頃生きてないかもしれない。信じて下さったヴァンキッシュ少将に感謝し、ずっと尊敬していたんです。けど、私が18歳の時に私を庇って大怪我して退役したの。私はその時、意識を失って記憶が飛んじゃったけど」
当時は何故庇ったか分からなかったが今ならわかる。それだけ私の事が大切だったと。
「それからは別部隊で戦果をあげて22歳で今の階級の大佐になり、自分の部隊を持つようになったの」
「お姉様、凄いですね!その若さで士官なんて」
「そんな事ないよ、ヴァンキッシュ少将のおかげ…」
私は再び遠くを見るような瞳をすると、雛子が心配そうに見つめる。
「お姉様?」
「あ…何でもないよ。それでね、これまでの戦績と階級が評価されて私の専用機が作られる事になったの」
「それが、フィオレンティーナですか?」
「そう、製造されて6年目なの」
「専用機なんですね!」
「外見はぼろぼろだけどね…」
私は少し笑いながら言う。雛子も失言かと思ったのか慌てて言い直す。
「あ…でも、格好いいですよね!」
「ありがと♪それからは私はいい部下達に恵まれたし、母艦が轟沈するまで順風満帆だったなぁ。皆無事かなぁ…」
「お姉さま…」
「くよくよしててもしょうがないし、部下達とも会いたいし」
「でも、お姉さま、今アルグにいるのでもしかしたら敵として出会うのでは?」
雛子の言葉に私は固まる。
「あー、フィオのIFFも変えちゃったし、どうしよっか」
「頑張って説得?」
「聞く耳持つかなぁ?」
「そこはお姉さま次第ですね」
「戦闘になったらボロボロのフィオで太刀打ち出来るか分からないし。弱くなった私に幻滅するかもしれないし…」
「お、お姉さま、元気出してください!まだそうと決まった訳じゃありませんから!私もまだ、兄さんの行方が分からないですし、敵かもしれないし…」
「雛子はポジティブね。よし、決めた!部下にあったら私が説得する!」
「その意気です!お姉さま!」
それから、私達は様々な対策方法を、考えるのでした。
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