第4話
私が捕虜になって翌日、食堂で会話していますと突如、けたたましい音が鳴ります
「この音は?」
「えっと、敵対勢力の反応有りだったかな、私行かないと!」
行くと聞いた瞬間、私は自分の鼓動が早くなるのを感じます。
(どうしたんだろ、私。もしかしたら助けに来たのかもしれないのに)
「お姉様、大丈夫ですか?」
「う、うん。が、頑張ってね雛子ちゃん」
「はい!いってきます!」
取り残された私は、未だに迷っています。アルグに入るか、ラツィオに戻るか。
「このまま、こっそり機体に乗って出れば…」
でも、それだと、今まで良くしてくれたウィンダムの人達を裏切ると言う事になる。
(私は…どうすれば…)
それから2日後、部屋で雛子と会話していると警報音が鳴ります。
「この前とは違う音だけど…」
「この音は、奇襲を受けている?!お姉様行ってきますね!」
「あ…」
私は出ていこうとする雛子の手を握っていた。
「お姉様?」
「行か…ないで…何だか不安…なの、だから…」
「お姉様…大丈夫ですよ、お姉様は私が守りますので」
雛子は私の手を優しく包む。安心感だろうか私は手を離してしまった。雛子は笑顔で部屋を出て行と、残された私は扉を見つめていた。
何故だろうか、私は雛子が戻ってこない気がして気持ちが落ち着かない。
「私はラツィオの士官…ここに未練なんて…」
暫くすると戦闘が始まったのか、艦が少し揺れ始めました。私は不安になり外を映しているモニターを見ると、そこには遠くで交戦している機影が見えました。
一機を三機で囲んで攻撃しているが囲まれた方は必死に逃げて反撃しているようです。三機は連携をし、追い込んで行くと、逃げている一機が逃げている内にこちらに近づいてくるのが見えました。
ズームし確認するとそれはアルマスでした。最初はアルマスが三機と思っていたが実際は逆で三機が見覚えのある機体、ラツィオ軍の機体でした。ラツィオ軍の機体はライフルを装備した射撃仕様のショット、高周波ブレイドを装備した接近仕様のアタッカー、大型の盾がついた防御仕様のディフェンダーです。
「私を探しに来たのかな?」
そう思いましたが、そもそも撃墜扱いされてそうな気がします。
よく見るとアルグの機体は雛子機であることを示すマーキングが見えました。
「雛子!」
私は思わず叫んでしまう。艦からも援護射撃が行われているが、三機は巧みに避けて雛子を追い込んでいきます。そして、ショットがアルマスの右肩を撃ち抜き、アタッカーが左足を切断します。
「…たとえ、敵だったとしても、優しくしてくれた人を見殺しには出来ない!」
私は、無意識に走りだし扉に向かう。鍵を掛け忘れたのか扉は開き、走ってフィオレンティーナの元へ。格納庫へ着くと大きな布を被っているフィオレンティーナの胸部に乗り、ハッチを開けるとシートに座わる。
「雛子は私が守る。私にはその為の力が必要なの…フィオ、私に力を貸して!」
電源スイッチを押し機体の電源を入れる。フィオレンティーナは私の思いに答えるように、低い駆動音を発生させます。
エネルギーと推進材は補給されており、更に簡易的な修理もしてくれてるらしく、直ぐにでも動けそうだ。エールユニットも修理されている。切られた左腕は流石に修理されてませんでしたが。
機体の電源が入ったのに気付いたのか一人の作業員がフィオレンティーナの前に出て来た。最初は止めるのかと思っていたが何かの手振りをしている。ズームして確認すると、最初は分からなかったがどうやら何処かに通じる周波数のようなので、その通りに通信機の周波数を合わせる。
[こちらブリッジのシレア、由華音さんですね?]
「な、なんでわかったの?」
映像がサウンドオンリーの画面からシレアが映りました。
[あなたが部屋を出て格納庫に向かったと言う目撃がありましたから]
「それより雛子が心配なの!早く出して!」
[そうですね、それに関して艦長から話があります]
シレアがそう言うと艦長の姿が映りました。
[そこに居ると言う事は決心がついたと言う事じゃな?しかし、良いのか?敵はラツィオ軍じゃが]
「…私は今でも仲間を撃ちたくありません。でも私は恩を仇で返すような人ではありません。だから、この艦の人達を、雛子を守りたいのです!」
[理由など何でもいいのじゃ。何かを守りたい気持ちが無ければ人は孤独になる、それを忘れてはならんぞ。ミレア、準備は出来てるな?]
[はーい、ヴァル艦長、準備出来てますよぉー]
私は何故ここでミレアが出て来るのか分からなかったが以前機体の識別をやっていると言う事を思い出す。
[XJL-9/1のIFFを更新しますねぇ]
[これを施すともう戻れないが、いいかの?]
「……もう、後悔なんてしません」
[はぁーい、それじゃあ、いきますよぉー]
そう言った瞬間、フィオレンティーナのレーダーから敵戦艦反応が消える。そして、足場が動き、カタパルトへ。私は機体を動かしフィオレンティーナに被せてあった布を全身を覆うように羽織る。敵機にフィオレンティーナとばれたくないための措置だ。
[射出準備完了です。由華音さん]
[敵機は周辺空域で合計16機確認されてますぅ。気をつけて下さいねぇー]
[厳しかったら言ってねっ!艦から援護するからっ!ゆかみんなら避けれそうだしっ!]
「わかりました!雛子、今行くからね!」
私はスロットルを全開にし、
出撃後、真っ直ぐに雛子のいる空域へと向かう。雛子のアルマス右腕を失いながらも抵抗しているが多勢に無勢で無惨にも右足も切り飛ばされてしまった。
尚も反撃しようとするがアタッカーがアルマスを斬りかかろうとミドルブレイドを振り上げたので、ビームライフルでアタッカーの右腕を撃ち抜きぬく。敵機は此方を見るが私は勢いそのままで飛び蹴りをし、敵機を吹っ飛ばすとアルマスを庇うように立つ。吹っ飛んだ敵機は直後にウィンダムの主砲によって撃破された。イレアの主砲のタイミングと命中率制度は安心感があるようだ。
「雛子!大丈夫!?」
突然来た謎の機体に驚いたのだろう、動揺した声が聞こえます。
[え?お姉様?お姉様なの?]
「話は後!まずは敵機を撃墜するわよ!」
[はい!お姉様!]
私はライフルをアルマスに渡しショートブレイドを抜刀する。ショットが損傷してるアルマスをライフルで狙って撃ってくるがそれを阻止するようにレールガンでライフルを狙い撃つ。そしてアルマスがフィオレンティーナの肩越しにビームライフルを撃ち敵機を撃破する。味方が撃墜されて激昂したのかディフェンダーが盾を展開し突撃して来るので、アルマスがライフルを撃っていますが、全て盾に弾かれる。ディフェンダーは目の前に来ると、盾を格納し、ミドルブレイドを降りかかざしてきたのでそれをショートブレイドで受け止め、弾くと相手の右肘を蹴って腕をへし折ったら続け様に脚部のバーニアを吹かし回し蹴りをする。フィオレンティーナのパワーが強すぎたのか脚が相手の胴体に食い込み、変な方向に折れ曲がって吹っ飛んだディフェンダーをアルマスが狙撃し、撃破する。
「やったね!雛子」
[はい!お姉さま!]
[由華音さん、雛子さん、喜んでる所、申し訳ありませんが他の友軍の援護に向かってください。雛子さんはその機体状況では戦えませんので帰投してください]
シレアから通信が入り、座標が表示されました。
「わかりました!雛子、また後で!」
[はい!お姉様!気をつけてください!]
私は指定された座標に向かって飛びます。
そして、友軍を助けた後、ウィンダムに戻ってきました。フィオレンティーナから降りると布を覆ってない脚部を見たら元々傷ついていたフィオレンティーナの脚の装甲は一部消えていました。幸いメインフレームは強固なので問題は無かったようですが。
「蹴りは厳しいかなぁ…」
由華音は左利きだ。しかし、フィオレンティーナは左腕を切り落とされて使用不可なのでつい脚が出てしまう。右腕は専ら牽制や相手の攻撃を受け止める事に使ってる為、今さら癖を直すのは無理ですね。
更にフィオレンティーナはアタッカーやショットと違い、ある程度量産されてるものの、高性能機であるため、武装以外はアルグの機体のパーツの使い回しも厳しい状態です。
更に由華音が乗っていたアーク・ロイヤルには予備があると思うが沈んでしまった今、残ってるかどうか怪しい。性能維持の為にもパーツが欲しい所である。
「左腕だけでも何とかならないかなぁ」
「はっはっは、それは厳しいで。アルグとラツィオじゃ規格が違うからな。出力を戻すだけの修理でも一苦労だったからな」
独り言を聞かれていたのか、巨漢の整備士みたいな人が立っていました。
「えっと…」
「お姉様、その人は整備担当のアンステッドさんですよ!」
「整備士のアンステッドだ、よろしくな、嬢ちゃん」
「由華音・ルキアル・フリード・ヴァンテージです」
私は戸惑いながらも差し出された手を握ます。アンステッドは手を握ると笑みを浮かべました。手を離すと次は雛子が手を握ってきました。
「お姉様、ブリッジに向かいましょ!」
「うん」
私と雛子は格納庫を出て、ブリッジへ向かいます。道中、雛子と、会話しながら行きます。そして、ブリッジに入ると中にいた人達が立ち上がってこちらに振り向きました。
「ようこそお嬢さん、いや、ヴァンテージ大佐。アルグへ」
「私はもう、大佐ではありません」
ブリッジクルーが集まってくる。
「初めましてだな。俺は操舵手をやってるライヒ・ザルツだ。よろしく」
私より大きい男性が現れる。非常に筋肉質でたくましい感じだ。その周りからラストフィート姉妹がやって来る。
「改めてよろしくっ!ゆかみん!」
「だからお姉ちゃんてば!えっとよろしくお願いしますね、由華音さん」
「由華音さん、よろしくねぇ」
ブリッジにてラストフィート姉妹にもみくちゃにされる私。その中に雛子も加わりました。
「微笑まし光景じゃの。ザルツ」
「そうですな、艦長」
この日から正式にアルグとなった私。
それから数日間、ラツィオ軍からの襲撃は無く、静かな日々が続いたある日、私は格納庫にいました。
現在、フィオレンティーナの左腕について話し合ってます。
「直ります?これ」
「厳しいなぁ、構造が違うから同じ部品が手に入らないと出来ないなぁ」
「そっか、私、左腕欲しいんですけど、あとロングブレイドも」
「嬢ちゃん話聞いてたかい?」
「何とか出来ない?」
「そう言われてもなぁ…あっ」
アンステッドが後頭部を掻きながら格納庫を見渡すと一体の機体が目に留まる。それは先の戦闘で損傷した雛子のアルマスだった。右腕と両足を無くしているが左腕は無傷であり、使えそうです。
「雛子には、悪いがばらさせてもらうか」
アンステッドは壁の端末を操作し何処かへと通話する。数分後、雛子が格納庫へとやって来ました。
「あ、お姉様とアンステッドさん、何か用ですか?」
「おう、来たか雛子。実はな…」
アンステッドは事の経緯を説明する。
「つまり、私の機体はバラバラになると…えっと、私は何をすればいいんでしょうか?」
「あの状態じゃあ、出ても足手まといだからぁ。雑用すればいいんじゃね?」
「えぇ!私、一応パイロット何ですけど?!。それに私だって好きでやられた訳じゃ無いし、戦闘してたら囲まれちゃって…」
私は慌てる雛子を見ながら思いだします。前世の私は兄はいたが妹はいなかった。
由華音は兄弟姉妹はいると言うという設定は無かったはずですね。でも、妹がいたらこんな感じなのかなぁ、って思いました。
「お姉様聞いてます?」
「っは!えっと何でしたっけ?」
雛子の慌てる素振りがあまりにも可愛いので見とれていたら聞き逃してしまった。
「えっとですね、私の機体の左腕をお姉様の機体につけるんです」
「あ、うん、いいんじゃない?」
「色はどうします?塗りますか?」
ダークブルーのフィオレンティーナに白色は微妙だ。しかし、せっかく雛子が提供してくれてるし、塗り替えるのも大変そうなのでそのままでもいいか。
「塗らなくていいよ。面倒でしょ」
作業が始まり、フィオレンティーナは左腕を付け、欠損している装甲も雛子機の物を使用。ソリッドブレイドもそのまま使用することに。少々短いがなれれば大丈夫ですね。腹部のビーム砲は修理不可なそうなので隠すことに。
取り付け作業が終わったので乗り込んでテストする準備をします。機体に乗り込むと雛子もついて来て、覗き込んでいたので手を引っ張って機体に引き込みます。
「はわわ、お姉さま?」
「せっかくなら」
フィオレンティーナは複座式となっています。なのでコックピットは他より多少広く、セカンドシートもありますが私は何となく雛子を膝に乗せます。
雛子は戸惑った顔をしたが私がにっこりと笑うと意味が通じたのか大人しく座りました。雛子が小柄なので軽く動かすだけなら問題ない。
因みにセカンドシートは座った事無いので何があるかしらない。
「アルマスと全然違いますね!」
「ティーナシリーズは乗り手に合わせて作られてるからね」
「え?そうなんですか?」
「うん、そうだよ」
そう言って私はハッチを閉めて機体の電源を入れる。すると目の前モニターに。
XJL-9/1 Fiorentina
と表示される。私は幾度と無く見た光景なので何とも思わなないが雛子は違うようです。
「フィオ…レンティーナ?やっぱ専用機って違いますね!」
「いいでしょ?発艦するから、後ろ座って」
「はい!お姉さま」
雛子がセカンドシートに座ったのを確認すると、ブリッジに連絡し、機体はカタパルトへ移動します。予め艦長にはテストと言う事で発艦許可はもらっているので発艦します。
そして、発艦した後、機体のバランスを確かめる為、
強烈な加速にセカンドシートの雛子から驚いたような声がしますが私は構わずそのまま旋回させる。操作感覚は変わらないようなので安心ですね。機体を止め、雛子の様子を見ます。
「雛子、大丈夫?」
「は、はい、でも、すごい加速ですね~」
「…ほんとに大丈夫?」
見た感じ目を回しているように見えるが、本人が大丈夫と言ってるので、再び、
ふと、止まって雛子を見たら気絶してたが、その姿があまりにも可愛いので起こさずにしておきましょう。
雛子が起きるまでにフィオレンティーナの左腕の動作状態を確認します。
少しぎこちないが問題はなさそうですね。元々規格外の物だし、贅沢は言ってられないですし。
「あれ、私寝てました?」
「うん、寝顔可愛かったよ。写真撮りたいぐらいに」
雛子は頬に手を当て赤くなる。その仕草も可愛くて、思わず頬がにやけます。
[……由華音さん、アンステッドさんから機体についての感想を求められています]
「っ!そ、そうね、違和感ないよって伝えておいてくれるかしら」
私はそう言うと通信を切ります。にやけた顔を見られたでしょうか?
「さて、戻りましょうか」
「そうですね、お姉さま」
機体の向きを変え、ウィンダムを目指しました。
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