第3話

基地内の滑走路にアルグの飛行戦艦、ウィンダムが着陸しました。

「意外と小さいね」

[大きすぎると的になるし、飛行速度も遅くなるしね]

2機のアルマスに連れられ、ウィンダムに向かって歩き始めますが、出力の低下して制限がかかっているフィオレンティーナではゆっくりとしか歩けません。

[もうちょっと、速く歩けないの?]

「出力が落ちてこれが最大です」

これじゃあ、降りて歩いた方が速いです。

[しょうがないわね、ケイ!手伝って!]

[了解だ!]

2機のアルマスがフィオレンティーナの両脇を抱え、歩き始めます。

そして、そのままウィンダムの中に入りました。

[ケイ、そこの空いてる所に置きましょうか]

電源は入っていますので外の様子が見えます。フィオレンティーナが入ってきてからウィンダム内部が慌ただしくなっています。私は興味本位で外部マイクのスイッチを入れます。

[おー!ケイ、イマ、敵の高性能機を鹵獲をするとは、やるじゃねえか!]

[運が良かっただけよ]

[で、これパイロットは乗ってるのか?]

[乗ってるはずよ、聞こえてるなら出てきなさい]

「…はい、分かりました」

私はハッチを開け、キャットウォークへ下り立つとサンクが待っていました。

「あなた、危ない物は持ってないでしょうね?」

「これだけです」

私は拳銃を差し出します。

「素直でよろしい。あと、両手出して」

サンクは拳銃を受けとると、懐に仕舞いました。そして、私の手首に手錠をかけます。

「え?」

「悪いわね、あなた一応捕虜だから」

白い通路をサンクを先頭に私が続き、後ろをユイットが続きます。

「えっと、サンクさん?」

「イマでいいわよ。私も名前で呼ぶから」

「あたしの事も名前で呼んで良いからな!」

「は、はい、分かりました。イマさん、ケイさん。それで今は何処に向かっているのですか?」

「艦長室よ」

そして、イマが扉の前で止まります。

「ヴァルカン艦長!連れて来ました」

「どうぞ、入りなされ」

扉を開き、イマが中に入るよう促します。中に入ると、年配の男性が座っていました。

「お好きな所に座りなさいな」

私はその辺のソファーに腰かけると隣にイマさんが座ります。いつの間にかケイさんはいなくなっていました。

「はじめまして、わしは反ラツィオ連合組織所属、通称アルグ、アルグ所属航空戦艦ウィンダムの艦長のヴェーラ・ヴァルカン。気軽にヴァル艦長と呼んでも構わんよ」

「……あ、はい。私はラツィオ連合軍所属、由華音・ルキアル・フリード・ヴァンテージ大佐です。捕虜になった今、元大佐かもしれませんが」

「まずは世間話でもしようか」

「では、私はお茶を淹れてきますね」

「おぉ、頼む。それじゃあ、わしもお嬢さんくらいの若い頃はラツィオ連合軍に入っていての。そりゃあ祖国の為に…」

1時間ぐらい昔話聞かされた後、イマさんがお茶を持って入って来ました。

「ヴァルカン艦長、ご自分の武勇伝を語るのも結構ですがそろそろ本題を」

イマが二人分のお茶を置きながら艦長に苦言してます。イマが一時間後に戻って来たのは武勇伝を聞きたくないので出ていったのだと理解しました。

「あまりにもお嬢さんが真剣に聞いてくださるのですからつい」

「武勇伝も良いですけど、程々にね」

そう言うとヴァルカンはお茶を一口飲む。

「…本題と言うのは何でしょうか?」

「そうじゃな、単刀直入に言うとそなた、アルグに入らないか?」

私は反射的に表情が強ばる。

「先の大戦でこちらも大打撃を受けて戦力が大幅に低下してしまったのでな」

「それは、私に仲間を撃て、と言う事でしょうか?」

私はまだ、ラツィオ連合軍の所属である。アルグに入ったら必然的に敵はラツィオとなる。

「無理にとは言わん。お嬢さんにとっては軍を裏切る事になるからの。ただ、情報によるとラツィオは壊滅状態に近い状態として動いてるぐらいじゃ」

「そんな…」

「わしとしてはこのまま逃がしてあげればいいのじゃが、上層部がそうもいかんし、あの機体じゃ残党狩りに会うじゃろ」

「私達はアルグの中でも穏健派に所属しているわ。この艦の乗務員は全員穏健派だから安心しなさい。過激派に拾われたら今頃、首に発信器兼爆弾付けられて強制的に出撃させられて捨て駒として使われるわよ?」

私は絶句すると共に安心もする。幸運にも拾われたのがこの艦であると。

「加入したらお嬢さんの要求には答えよう。できる範囲でな」

「私は……私は……」

私は戸惑って声が詰まる。

「すぐに答えなくていいんじゃよ。じっくり考えほしい。イマ、部屋に案内してやってくれ。それとお嬢さんの服も用意してやってくれ。いつまでもパイロットスーツじゃ可哀想じゃろ」

「分かったわ。由華音、付いてきて」

私はお茶を飲み干すと部屋を出てイマの後をついていく。そして先程の部屋と近くの扉を開ける。

「こっちよ」

中に入ると白い壁に最低限の家具が置いてある。

「由華音、手を出して」

イマは私の手錠を外します。

「後で服を持ってこさせるから、大人しく待ってなさい」

イマはそう言って扉を閉めました。

私はパイロットスーツのチャックを少し下ろしベットに寝転がる。短時間で色々なこのがあったので少し整理することに。

記憶を頼りにこの後の出来事を思い出す。確かこの後の展開はラツィオが再建してアルグはそれと再び戦うハズだった。だが、由華音は前の大戦でエクスフェイトに負けて戦死したはず。だが、今生きている事によって歴史がゲームと変わるかもしれない。

「眠気が…」

眠くなったので私はそのまま、眠りにつきます。

…何時間寝てたのでしょうか?ノックの音で目が覚めました。私は起き上がってパイロットスーツのチャックを閉めます。

「はい、どうぞ」

そう言うと扉が開き、少女がやってくる。

「あ、あの!初めまして!雛子・セナ・シグネットです。イマさんに命令されてヴァンテージさんの着替えを持ってきました!」

「ありがと、聞いていると思うけど、自己紹介するわ。由華音・ルキアル・フリード・ヴァンテージよ。よろしくね」

現れた少女は緊張気味で挨拶してきたので私は笑顔を作りながら言う。

「はわわ、綺麗な人です」

シグネットが顔を紅くして私を見つめる。身長は私より遥かに小さく、ピンクの髪を白いフリルの付いた茶色のリボンでポニーテールにしているので非常に可愛らしい娘だと、心の中で思った。

しかし、何時までも入り口で固まっているので呼び掛ける事に。

「シグネットさん、でいいのかな?」

「っは!はい!えっと、私の事は雛子と呼んでください!」

「分かった、雛子ちゃん」

「あのぉ、そのぉ…………お姉様と呼んで良いですか?!」

唐突に何を言うのかと思ったけど目を瞑って言う姿が可愛いし、これはこれで気分が良いので快諾する。

「いいよ、雛子ちゃん」

「わぁ、ありがとうございます!お姉様!」

「それで、何か用かな?」

雛子がここに来た理由を聞いてみます。

「あ、はいお姉様。着替えを持ってきました。お姉様身長が高いので今、艦内にある女性用では少し小さいと思いましたので男性用ですが大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫よ」

「あと、このチョーカーも付けてもらえないでしょうか?」

「うん?分かった」

由華音は179cmと女性の中では大きめである。私は雛子から衣類を受け取り着替える事に。

「では、扉の前で待ってますね!着替え終わったらノックしてくださいっ!」

雛子は敬礼し、扉を閉めました。私はパイロットスーツを脱ぎ、雛子が持ってきた服に着替えます。男性用だけであってシンプルな紺のジーンズに白いカッターシャツ、そして靴は男性用っぽいブーツだ。男性用だけあって長身の由華音にはぴったりだったが一部キツイ所が。

「このチョーカー、何か意味があるのかな?でも、シンプルで可愛いデザイン」

最後にチョーカーを付け、扉をノックし、雛子を呼びます。

「雛子ちゃん、着替えたよ」

すると扉が開き雛子が現れます。

「わぁ、お姉様お似合いです」

「ありがと♪」

「あの、お姉様、お腹は空いていませんか?一緒に食事でもどうですか?」

「いいの?」

私は一応、捕虜なので艦内を自由に歩いても良いのかと。

「はい!人畜無害だと聞いてますので大丈夫です。ヴァルカン艦長に許可は貰ってます!ですので行きましょ!お姉様♪」

雛子は私の手を取って歩きます。私は引っ張られる感じになってしまったが可愛い妹みたいなのでついつい心を許してしまいます。道中、何気ない会話しながら暫く歩いた後、大きな扉が見えて来ました。

扉が開くと、中に広い空間に、沢山のテーブルと大勢の人が食事をしていました。由華音はラツィオ連合軍時代、士官と言う事で多忙だった為、自室で一人での食事が多かった気がするし、最近も広い所で一人で食事してたし。なのでこんなに大勢いる場所での食事は久し振りな気がします。

その中の女子グループの一人が雛子ちゃんを見つけて呼んでいます。

「あ、ヒナー!こっちこっちー!」

「はぁーい!今そっち行くねー!お姉様行きましょ、いい人ばかりですからきっと仲良くなれますよ!」

「う、うん」

内心緊張していたが雛子が一緒だと和らいでいきます。

「あれ?、ヒナその人が例の捕虜の人?」

「うん!おねぇ、じゃなくてヴァンテージさんだよ!」

「由華音・ルキアル・フリード・ヴァンテージです」

私はお辞儀しながら自己紹介をする。すると座っていた雛子ちゃん以外の3人の少女も立ち上がって自己紹介をしてきました。

「あたしはイレア・ブリタニア・ラストフィート!艦のFCS担当だよっ!援護が必要なら言ってねっ!」

青い髪のツインテールの少女、活発そうなイメージで雛子ちゃんより小さいですね。

「シレア・ブリタニア・ラストフィートです。通信、戦略情報担当ですのでよろしくお願いいたします。戦況が読めなくなりましたら教えます」

ピンクのツインテールでイレアと似たような顔だが垂れ目気味でしっかりとした印象です。

「ミレア・ブリタニア・ラストフィートですぅ。IFFとレーダー索敵担当ですぅ。見失ったら言ってくださいねぇ」

他の二人とは違い、金髪のポニーテールで、三姉妹の中で一番背が大きいがニコニコしてて、ふわふわした感じの印象ですね。

「因みに名字からわかるとおり私達は姉妹なのっ!」

何となくそんな気はしてましたが。

「ゆかみんは仲間にならないのぉ?」

「こら!お姉ちゃん!ごめんなさい由華音さん、お姉ちゃんがデリカシー無くて」

「あ、うん、私は大丈夫よ」

私は笑顔を作りながら言う。いきなりあだ名で呼ばれてびっくりしたが社交性は高そうな姉妹ですね。

「でも、由華音さんが入ってくれれば嬉しいですぅ。パイロットも増えますしねぇ」

「そうだねぇー、ヒナは見てて不安だしー」

「ちょっと!イレアちゃん!それどういう意味よ?」

「えー、だって、ヒナの動きって私でも動きが読めなくて援護射撃しにくいしー」

「私って、そんなに動きが読めないい?」

「うん」

「はっきり言われるとちょっと悲しい」

女子グループの会話を眺めているといつの間にかトレイを二個持っているシレアがやって来ました。

「私達以外も、いい人ばかりですから、安心してくださいね」

「うん…」

私はこの時からアルグに入るか、それとも断るか悩み葛藤し始めました。

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