第6話 喋る剣と杖
二人は慈愛に剣士と魔法使いのスキル持ちと告げられ、この世界の事を話し始めた。
仁と真那が察していた通り、デルカニアにはモンスターと呼ばれる怪物たちもいる。町並みは中世で自然が多く残っている。ゲームや漫画によくあるファンタジー世界と考えてよいと慈愛は言った。
デルカニアは一つの大きい大陸で6つの国に分けられており、各国には国王もいるが六賢者が国ごとに所属しており、国同士の争いはほとんどない。デルカニアを実質的に統治しているのは六賢者であった。
<落ち人>については各国もそういう事例を認識しているが、一番恐れているのは地上の人間がデルカニアに攻め入ること。
デルカニアにはまだ多くの資源が残っている。その為、こちらの情報を持ち帰らせるわけには行かない。国によっては<落ち人>を発見した場合は殺害してしまうこともあるという。
仁と真那は今までの常識が一切通用しないことを改めて認識した。慈愛がスキルのない者が冒険に出られないと言っていた意味もここでようやく理解した。デルカニアは誰もが生まれた時から何らかのスキルを持っている。スキルを持っていないと気付かれた時点で<落ち人>とわかってしまうからだ。
そして旅立ちまでの10日間、仁は剣技を、真那は魔法を習得する修行をおこなうことになる。
慈愛は真那にボロボロの分厚い国語辞典のような本を渡した。それは魔法書であった。真那がページをめくると真っ白であった。何も書かれていない。慈愛は最初のページから見ろと言い、真那が最初のページに目をやると2ページ分に文字が浮かび上がった。
「その魔法書は読んだ者の魔法力に反応し、習得可能な魔法の詠唱文を浮かび上がらせるのじゃ。まずは見えたページを一字一句間違えずに丸暗記するのじゃ」
えーっと驚いたのは仁だけであった。2ページと言っても文字がびっしり埋まっている。しかし真那は真剣な顔をして本を見つめている。
「真那さん、俺にも持たせて」
仁が本を受け取ると浮き出ていた文字がスーッと消える。ああ、俺は魔法使いではないかと仁は落胆する。
「お主は剣士だと言ったろう」
慈愛がそう言い放つ。だってさっきの鑑定みたいなので
やれやれと慈愛は取り出した剣を仁に渡す。
「おお!・・・。お?」
仁が受け取った剣の柄先にはコブシぐらいの大きさの顔のような物が付いている。"ような"と言うのは、その見た目がエジプトのミイラのように包帯がぐるぐる巻きにされており、顔かどうかも判別できないが、その頭上からはポニーテールのような赤い毛の束が出ていた。
さすがにこれは気持ち悪い印象であった。更に気分を悪化させたのが剣を鞘から抜くと錆がびっしりとこびり付いていた。
「ええ・・、もっと良い剣ないの・・・?」
と、仁が言うと突然聞いたことのない男の声が聞こえた。
「バカモン!ワシ以上の剣はないゾ!」
仁は男の声がした方向を見る。それは剣の柄先にある顔が喋ったようであった。今は包帯の隙間から口が覗いていた。
「ちなみに、それと対となる杖がこれじゃ。残念ながらこの杖は手放せないので真那には他の杖を与えるがの」
慈愛が持っていた杖先にも同じように包帯ぐるぐるの顔が付いていたが、唯一違うのはハミ出している毛がツインテールであった。真那は何となくホッとした。
「ヤダヨー、怒りっぽくてみっともないヨー」
杖も剣に向かって喋った。杖は普段から慈愛が使用している為か、剣のように錆びついているような老朽化も見られずに状態は良く感じた。
この2本には
これらの混沌を歴代の賢者たちは第一の混沌「大魔王ゾルガナス」を剣に封じ、第二の混沌「魔女王ネフィリア」は杖に封じた。
それがこの剣と杖だという。
なお、第三の混沌「魔導王ヴァリオン」においては幼かった慈愛も六賢者として参戦しており、「魔導王ヴァリオン」は地上世界と地下世界の間に位置する"次元"に封じたと言う。
「詳細は省くが、そう
「イワレじゃなくてモノホンの魔王ジャ!その内この世界に復活して支配するゾ!」
「ハイハイ、ゾルガナスのジィさん、ムリスルナヨー」
「ウルサイゾー!ネフィリアのババァ!」
「喧嘩はよすのじゃ。へし折るぞ」
冷静に放った慈愛の一言に、辺りは急に静まり返った。
仁には喋る剣を、真那には魔法書が与えられ、旅立ちまでの間、二人は修行に励む事となる。
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